第24話「捨身」
*
道欠失彦と入間導のバトルは、存外あっさり決着がついた。
生体兵器として、以前の就活浪人を漁って見つけた『普通』の逸材。
打倒核田里帆のためだけに調節された彼に、超常の力に対する抵抗力は持たない。
特に『
ただ――。
「殺さないんですか、ぼぼくを」
「どうしようかしらね」
喉元に手刀を構え、介錯人のような状態で、既に二人の戦闘は決着していた。
いくら強化された人間ではあっても、解析不能な超常の力には、適うことができない。
「色々と、教えてもらいたいことがあるのよね」
「ぼくは口は割りまませんよ」
「割らせるだけよ――」
そうして静かに、両手に鎖の
『
その印象を、対象の脳髄へと打ち込む。
「ぼぼくの精神を代価とするかい? 話さなければ、命を奪うう、とでも? その程度の約定でぼぼくの精神の均衡を揺らがせることなど、出来るはずは」
しかし、次に入間の口から出たものは、道欠の予想に反するものだった。
「『代価』――私の能力を五分間使用不可能にする代わりに、貴方は情報を開示しなければならない」
「っ!!!」
自ら『
「ご、五分間の使用不可誓約だだと! そそんな情報は!」
入間導を知る者ならば、彼女の選択が信じられないものだということが分かる。
なぜならば戦闘においても交渉においても、入間導が自身の能力に絶対の信頼を寄せていたからである。
生まれ持った自己・他己誓約能力。
その絶対的な防御力と諜報能力は、世界を転覆させることにあまりあるものであった。
だからこそ、それを自ら手放す選択は、誰もがしないと思っていた。
「そう。それくらいを代価にしなければ、貴方は口を割らないって思ったの。貴方の命よりも大切な情報は、私の命よりも大事な能力でしか対等になれないから」
「ッ――!」
優しさ。
それこそが、絶対防御、入間導の唯一無二の弱点であった。極力人を殺さず、精神的に崩壊される。それは人によってはただ死ぬよりも苦しいけれど、肉体的な殺害を忌避する傾向にあった。
ただ――。
自分の命は、その例外である。
「『受理』情報開示開始」
「ぐっ――」
頭の中から、情報が流れ出て行くイメージが、道欠の中にはあった。
――企業側に周知されている情報以上に『約定鎖掟(プロミス)』の自由度が高すぎる。
――これが、入間導。
――社会を知った、大人に、一番近い存在。
五秒程の時間の後、道欠の頭から手を離した。
「『受理完了』誓約履行につき、五分間の使用不可能」
頭の中に流れ込んで来た情報を整理する。その後に、茫然自失状態の道欠を殺害するとしよう、そう思ったけれど。
流れ込んで来た情報が――。
あまりに――。
あまりに彼女には――重すぎた。
「……嘘、でしょ」
入間の思考が、止まった。
この情報は――衝撃であった。
あまりに衝撃的が過ぎて、入間の思考は止まってしまった。
否。
情報提供側――戦争社は、この状況を想定していた。
情報が漏洩されるなら道欠からだと想定したからこそ――この状況で入間の思考を一時停止させることを目的として、彼だけにはその運営側の情報が開示されていた。
自分のせいで、多くの人間が死んだ。
いなくなった。
亡くなった。
その罪の意識は、ほんの一瞬だけ、入間の防御を揺らがせた。
それだけで、二重谷には十分だった。
発動条件は、一定時間、二重谷の認知領域に存在することと、印を結ぶこと。
「『
他人の才覚を掻き出し、我が物とするその超自然能力は、元より入間導との対敵を想定して製作されたものである。
人間が到達できる全てを投入した――能力そのものが、既に自身と融合している、存在しないはずの13番目、二重谷捩香。
もしも入間が『
それくらいの、隙であった。
「っ――」
入間の身体の内側が、一瞬にして沸騰し、渦巻くような感覚があった。
そして――。
ずばあん。
と。
入間導と。
その横で介錯を待つ、役目を失った道欠失彦の。
腹部が掻き出され、根こそぎになった。
こうして。
二重谷捩香は、『
空虚に、機械音声が響いた。
「二重谷捩香さんが、『子』3点を獲得しました」
*
戦考番号10番
超常の女性。内定筆頭候補。『約定鎖掟(プロミス)』を持ち、自分と他人を掟で縛り、強化弱体化を行う。口達者な怒隈とは犬猿の仲。掟の絶対性と超能力は生まれ持ったもので、今回の戦考の眼玉でもある。戦争孤児として傷付く人々の正負の感情が交錯し、処女懐胎によって生まれた天然の天才。早めに結婚したいと考えているが、そちらの契約の方の才能はないらしい。
(
*
戦考番号12番
老害の男性。昨年の就活戦争の生き残りであり、戦争社が開発した生物化学兵器。対核田里帆のためだけ調整されており、その際たる特徴は『普通』ということ。気配含め、普通という域から決して外れない、違和感のないように振舞うことができる、その上で戦争社により各能力が底上げされているために、生きるバグのような存在になっている。同じく作られた人間である核田に対して思うところはあるようだが、その感情は『普通』により均一化され、誰にも届くことはない。
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