第23話「介入」


「ずばぁん」



 

 小気味よい音がした。


 高城翻訳の、何とか残っていた腹部が、破裂して――掻き出された。


 対偶の位置には、両手で印を結ぶ、一人のパーカーの女が存在していた。


「二重谷捩香さんに『子』5点が追加されました」


 無慈悲に、機械音声はそう伝えた。


 突如現れた、パーカーの女。


 完全に死亡した、高城翻訳。


 もう入間の支援も期待できない状況に、染谷は、冷静になっていた。


「…………お前、誰だ」


「よーし、これで準備は完了です。全く、高城翻訳がとは思いませんでした。お蔭で極限まで、彼女の電気的特性が成長しましたから良しとしましょう。そうですね、そう思うことに、しましょう。」


 そう言って二重谷は、自分の指と指を、近付けた。


 ばちり――と。


 静電気よりも強い、火花が飛んだ。


 


 それは、高城の能力のはず、である。


 染谷は、驚嘆を隠せなかった。


 ――同じ能力持ちが、2人?


 ――否、そんなを、企業が許すか?


 ――この女が、まさか能力を奪ったとでも言うのか。


「お、お前!」


 どこかへ行こうとする、二重谷に対して、染谷は言った。


 まるで負け犬のように。


「あー、アナタは後で相手しますから、せめてそこで生きていて下さい。まあ、生きていることができれば――ですが。それじゃ」


 二重谷は、そのまま、音を立てずにそこを離れた。


「…………」


 場には、染谷塩基と、高城翻訳だった肉塊が残った。


 茫然と、立っているしかなかった染谷に。


 後方からゆっくりと現れた、人影が、一つ。


「あまりの衝撃的な状況変化に、対応できてない――そんな感じですかあ」


 鬱屈そうな面持ちの、顔色の女の声が、背後から聞こえてきた。


「……誰だよ」


「私ですかあ、戦考番号7番、細井ゲノム、ですよう。貴方をここにとどめておくように言われていますよう。ちなみに――生死は問われていませんよう」


「生死って、お前も死にそうじゃないか」


「そうですよう。私は、内定さえ取ることができれば、他はどうでも良いんですよう」


「……り合う、ってか」


「そう、ですよう」


「…………」


「ちなみに、あの方はあ。二重谷捩香さんは――相手の身体と心を掻き出す、搔把そうはする能力を有していますよう。だから、高城さんの電気的特性は、、ということで正解ですよう」


「……教えちまって、良いのかよ」


「良いんですよう――」


 細井は、構えた。


 怠そうな口調で、ゆっくりと重い身体を起こすように。


「どうせ貴方も私も、ここで死ぬんですから」


 細井ゲノムと染谷塩基。


 はぐれ者同士のバトルマッチ。


 就活戦争も、そろそろ佳境である。



 *


 戦考番号3番/高城たかぎ翻訳ほんやく

 

 電波の女性。電磁的に鋭敏な特質を有しており、その特性を生かして、自ら諜報活動に興じていた、裏社会の人間。無意識のうちに自らの脳を電気信号を与えて罪悪感を打ち消しており、その時に何となく自分の頭の弄り方も覚えた。試したのは今回が初。その特質上インターネットに精通しており、微弱な電波を傍受して、副業でネットストーカー兼探偵も行っている。鍵垢探し、写真特定、呟きの保存など、なんでもござれ。

 



落戦しぼう

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