第20話「分散」

「ッ――」


「ちっ――」


 朦朧ぼんやりとした面持ちのまま、高城は入間、染谷の両名に突撃をかました。


 まだ避けられない速度ではない。


 ただし、これ以上高城が人間としての制限リミッターを外せば危険であることに、間違いはない。


「『約定鎖掟プロミス』!」


 そう言って、すぐさま入間は、寿、自らの肉体に支払った代価分の電力耐性を与えた。


 契約済みのはずの高城には、どうやら『約定鎖掟プロミス』は効力を発揮しない。


 だからこそ、自身への防御に力を回した。


 が。


 高城がその後に追尾したのは。


「っ――ッ」


 染谷塩基の方であった。


 これは、彼女の電気的特性が起因している。


 就職戦考中、基本的には電源を切っておくべきスマートフォンを、染谷はあろうことか、機内モードにすらしていなかったのである。


 その電気に、高城は反応した。


 就活生としてあるまじき事態。


 そしてそれがこの危機的状況を生み出してしまうなどとは、つゆほどにも思わなかった。


「染谷君ッ!」


「おっと、追わせなないよ――入間さん」


 高城が追尾した直線上に、道欠は重なった。


 その隙の無い――というか気配のない立ち振る舞いに、戦い慣れている入間は順応することができず、止まってしまう。


「っ――貴方、随分変わった気配ね、道欠君」


「良く言われれます。そもそもぼぼくの気配を感知できている時点で、貴方も十二分に凄いですよ。あの核田さんでさえ、ぼぼくの刺突を予測することはできなかったのだから」


「…………」


 冗談、ではないのだろう。


 事実、核田里帆が入間達の前に出現した時、既に手負いの状態だった。


「強ければ強い程に、ぼぼくの動きを予測できないし気配を読むこともできない。八方閉塞ふさがりって奴だだよ」


「……私が『約定鎖掟プロミス』だけを頼りに、ここまで来たとでも思っているの?」


「そんなことは思ってていないよ。ただ、足止めささえできればそれで良いんだ。優勝筆頭候補の貴方たちののチームをバラバラにすること。ぼぼくらの目的は、もう既に達成されているのだからら」


「ぼくら?」


「そう、言葉の綾だだよ。 ぼぼくと、会社側ということだ」


 道欠だけならまだしも、まだ他にも闖入者の存在を、ここで少しだけ示唆していた。その可能性に気が付いていれば――否、それは後から見た者の話である。


「会社側が、貴方を投入した理由は何?」


「ささて、ここで伝えないでもないけれど」


 ちらりと、後方の監視カメラの方を見た。


 戦考会場内には、至る所に設置されている。


「監視下では何ともね」


 ――監視下、やはり。


 入間は、考えた。


 ――この最終戦考は、何らかの企業側の意図が織り込まれている、ということか。


 ――こうなると、怒隈竜電を殺してしまったことが、少々不利に働くな。


 ――彼は、どこまで把握していたのだろう。 


 ――恐らく、今の私より、状況を理解した上で、あの提案をしてきたに違いない。


 ――いや、結局、たらればの話か。


 ――彼が情報戦で上位にいたとしても、素直に私たちに協力してくるとは思えない。


 ――今はこれが正解、か。


「それで? 疑問にも応えない、人を分断する。それが貴方の目的なのかしら」


「そそうだね、それがぼぼくらの目的だと言える。そしてそれは成功している」


 ぼくら――か。


 再び、彼はそう言った。


 ――失言ではない、こちらに隠す気がないのだろう。


 ――ぼくら、という言葉の意図する所が気になる。


 ――企業側と手を組んでいるのは、まあ良い。


 ――ただ、


 ――いや、それこそ本当に、あって欲しくない想像だ。


 ――ここまで企業が私に対して隠し玉を用意しているのなら、私の『約定鎖掟プロミス』を破る何らかの方策を取っていても、おかしくはない。


 ――ならばここは。


「ねえ、じゃあ、せっかく待っているというのもアレだし、戦わない?」


 入間は、提案した。


「ふふうん? 核田里帆を打破したぼぼくに勝負を挑むなんて、こ怖いもの知らずも良いところだねえ。別に良いよ。ややってやろうじゃないの」


「その慢心がいつまで続くか、見ててあげる」


 そう言って。


 入間導対道欠失彦の戦考が始まった。




(続)

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