第17話「狂撃」

 故に。


!!!!!!」


 仕組みに気付いた以上、残りの胆力を全て、この戦争を終わらせるために使う。


 一直線に、取締役の存在する特設ブースへと突撃する。


 誰もその突進を止めることはできない。


 内定候補者は――戦考官及び企業関係者への攻撃、その意思を表示するだけでも内定を辞退した扱いとなる。


 


 


 つまり――


 発狂し、全速駆動となった柴は――関係者が設営したブースへと突撃する。


 強化された硝子ガラスで封じられてはいるけれど、今の直線運動により音速を超えた柴に、そんなものはない。


 ただ突撃し――そして破壊する。

 恐らく別の場所で映像を見ているであろう何者か――経営者陣に対しては打撃を与えることはできないけれど、せめて戦考監視役を潰すことは――可能! 


 この就活戦争を、強制中断させる!


 と。


 たっぷりと油の乗った直線的攻撃が。


「残念です、非常に残念です。柴発生さん」


 発狂状態でも、その声はなぜか良く聞こえてきた。


 女の声であった。


 見ると、ビルの陰――パーカーを着用した一人の女が居た。


「アナタがソレに気付かなければ、内定候補はアナタでした。全てを殺した上で、自分も死ぬこともできる――ソレを叶えられるアナタこそが、核心でした」


 既に駆動は完了している、空気を切り裂き、ブースへの突撃は決定事項である。ただ、その女の声が、妙に耳に残った。


「でも、アナタは気付いてしまった。狂ってだけいれば良かったのに。ああ、残念です」


 サヨウナラ。


 次の瞬間。 



 否。



 次などという生易なまやさしい刹那ではなかった。


 胸の下あたりに一瞬の違和が残った後。


 柴の腹部が、ばあんと爆ぜた。


「■■■■ッ――がああぁぁぁあっ!」


 ――何が、起きた。


 ――あの女の能力か?


 ――内部からの爆発? 否、そんなものではない。


 ――身体の中が掻き混ぜられたような、感覚。


 意識が一瞬だけ戻り――それでも発狂するために集中した。


 ――ここで、こんな所でで死んでたまるか。


 流石に上半身と下半身が別々になってしまえば威力は落ちる。


 残った生存力の全てを――上半身に集約し、そのまま突撃を。


「しつここいよ」


 違和感バグを内包したような喋り方の、日本刀を持った青年だった。


 七回。


 勢いに乗った威力を封じるために、青年が柴の上半身を切断した回数だった。


「ッ――」


 散り散りになった意識が、空気と一体になって分からなくなった。


「全くく」


 と、青年が悪態を吐いた。


「ぼぼくに手間を焼かせないででよ。二重谷ささん。ぼぼくの刀の切れ味が落ちてしまうじゃないか」


「人を数度切った程度でなまくらになる程度の刀だったら、捨ててしまえばいいんです。道欠クン」


「捨てててしまえ、か。人の魂の武器に対しして、良く言うよね。そうやって自分の子どもも捨てたたのかな」


「黙りなさい」


「それで、君はどどうする?」


「取り敢えず同盟を組みますね。位置情報は大体把握していますし、細井サンか高城サンあたりを洗脳――否、懐柔できればと思います」


「洗脳って」


「言っているでしょう。ワタシは弱者の味方です。恐らく細井サンも柴サンと同じく捨て身でしょうし、自滅の可能性が高いです故」


「そそうかー。ぼぼくは、刮岡・核田ペアの戦争を観覧しようかな。そろそろ決着もつくくだろうし」


 そんな風な軽薄なやり取りをしながら、パーカー女と日本刀男は、柴発生だった肉塊を当然のように踏みつけた。


 そしてその後、思い出したように、遺体に合掌をして。


 その場から離れた。


 最終戦考者に――下記の2名が、事実上の参戦となった。


 戦考番号12番、道欠失彦。


 戦考番号13番、二重谷捩香。


 

 *


 戦考番号八番/しば発生はつき


 狂気の男性。正気と狂気との境界を飛び越える能力『責任癲癇バックパサー』を持つ。生まれついて発作として発狂してしまうために病気として診断され、凄惨な扱いを受けて生きてきた。医師からも寿命は長くないと宣告されており、半ば自暴自棄で戦考に参加した。世の中の底辺を舐めながら生きてきたために裏側の情報に詳しく、亜白間にサンプルを提供したり、怒隈と繋がりがあったりと、意外と交流関係は広い。また細井とも面識があり、彼女が治せなかった症例の一つとして記録されている。発狂中は、インフルエンザで高熱が出た時によく見る夢のような状態らしい。


落戦しぼう

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