第14話「急襲」
背後からの刺突。
本来、核田里帆という人類の到達点に対して、それはあり得ない選択肢のはずであった。
深々と突き刺さったそれをすぐさま抜くように反転する。
周囲の内臓を傷付けることのないように刃を抜いた――刃の傷跡から、ごぼりと血液が吹き出た。
「…………」
「ふうん。死ななないんだね」
そこに居たのは、スーツを着た男だった。
どちらかというとスーツに着られているという感覚が強い、童顔の青年という表現が一番しっくりくる。日本刀に付着した血液を慣れた手つきで払った。
「誰だ、貴様。少なくとも最終戦考会場には存在していなかった」
「見間違いじゃじゃない?」
「この私がか」
「あはは。それももそうだ」
少々まどろっこしい、
「ぼぼくは、
12番。
存在しないはずの番号である。
「あの会場にには、ぼぼくも遅刻しててね」
「遅刻者に対する救済措置なんてあるのか、貴様就活を舐めているな」
「特別枠というか、シード枠というももの。去年の戦争での生存者だだよ。一年先輩ななんですから、敬語を遣ってねね」
「生存者……だと」
通常、就活戦争での生存者は、内定者以外存在しない。
生きているのは内定者のみ――昨年度の内定者は、少なくとも道欠失彦という名前の人間ではなかった。
「企業側の――策ということか」
「鋭いいね。刃物みみたいだ。まあ、そそういうこと」
「……この戦考に、生き残りがいたとは驚きだ」
鋭い痛みと流血に耐えながら、核田は臨戦態勢を取った。
「ぼぼくにとっても驚きだけどね――まさか核田里帆を後方から刺突できるななんてさ。しかしどどういうことかな。ぼぼくは確実に心臓を貫いたはずなんだけど」
「人体の構造が、必ずしも全員同一だとは思わないことだ」
「ふううん」
別に興味無さそうに、道欠は言った。
内臓全逆位――核田の人の枠を超えたその才覚は、遺伝子から発露されていた。
ただし日本刀の刀身は、彼女の肺臓を貫通していることには代わりは無い。
左肺の機能を押さえ、刺された部分を筋肉と胸で止血した。肺に穴が開いたことで、もう完全駆動が行うことができない。
何より刮岡配列との激闘の末に、核田里帆も消耗してしまっている。
目の前の正体不明、道欠失彦から一本取ることができるか。
――私の背後を取った時は、毛ほども気配を察することができなかった。
――気配を断つか、或いは認識を誤認させる類の何かを有している。
――対応ができるか。
「…………」
それは不可能だと判断した核田は、逃げることを選択した。
戦考官からの評価は落ちてはしまうけれど、今は四の五の言ってはいられない。
何より核田の中には、確固とした思いがあった。
写転類衣。彼との最終決着を終えられないままに、彼が死んでしまった。何より自分を守るために――である。
――私が、あんな発狂男に負けるとでも思っていたのか、類衣。
ただ――結果的に写転のその判断は正しかったことになる。柴発生、刮岡配列という二人との戦闘の後にこの道欠と対立していたら。
――恐らく私は、死んでいただろう。
結果的に、写転のその配慮が 今の核田の命を繋いだと言っても、過言ではない。
「ふううん? このぼぼくから逃げるとは、核田里帆の名も廃れたものだねえ」
そのまま道欠失彦は、逃亡する最強を追いかける。
まさしく、鬼ごっこのように。
*
戦考番号4番/
軍隊の男性。内定者筆頭候補の一人。『軍隊遣い』と称される。元は戦争孤児であったが、その類まれなる統率力と独自の帝王学を生かして、若くして戦争を管理することに成功した逸材中の逸材。金と信頼で契約した軍隊を常に配備し、彼の一挙手一投足で対戦相手に攻撃が加わる。また軍需品も大量に有しており、戦考力は兎も角戦争力なら核田里帆を凌ぐ最強格。かつて将来を誓い合った恋人を戦時中に失っており、そのために世の中の戦争を全て終わらせるために活動している。
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