第12話「奸計」

「怒隈さんの言っていたこと、どう思いますかっ」


 ビルの爆発現場から500メートル離れたところに辿り着いたところで、最初に口を開いたのは、高城であった。


「どうって――この戦考そのものが仕組まれているってことだろ」


「そうですっ」


「まさか、例年続く大企業が、就活を仕組むなんてそんなことないじゃないか」


「私としても、それは信じたくないところね。私も、命を懸けている訳だし……」


 そう言いながらも、入間導はどこか怪訝そうな表情であった。


 その表情が気になって、染谷は問うた。


「怒隈の言うこと、気になってんのか?」


「まあ……意味もなくそういうことを言う男ではないと思っていたから……あれじゃ怒隈も犬死も良いところじゃない。『約定鎖掟プロミス』を防ぐために自ら命を絶たせるだなんて。あれだけで終わる男だとは、考えにくいから」


「……そう思わせることが、もうあいつの策略なんじゃないか。就活は情報戦だからな」


「そう――かもね。にしては、少々死に過ぎかもしれないわ」


 手にはめられた時計型観測機を確認した。


 殺害した『子』は、入間導に対して加点されたらしい。加えて、現在の落戦しぼう者のリストも、各々で確認していた。


 繰浜みと子。


 柴発生。


 亜白間街。


 写転類衣。


 怒隈竜電。


「あ――亜白間さん、亡くなられたんですねっ」


 元気よく言われたら、亜白間も世話はない。


「確かに――数多いですねっ。わたし一度、『鬼』ルールを経験したことありますけれど、ここまで早く人が死ぬこと、ありませんでしたっ! あ、この写転って人、爆発の時、核田里帆と一緒にいた人ですっ!」


「王子様気取りってか。あの核田里帆に護衛なんているはずもないのにな、一体何を考えているんだか」


「知っているよ。写転類衣くん。核田さんに最も近い模倣者ミミッカーだよ。あの二人が組んでいたら、まず打倒は難しかった」


 入間がそう言って、染谷を黙らせた。


「まあ、もう死んでいるんだろうけど。今生き残ってんのは、僕ら含めて6人ってことか。核田と刮岡と、あともう1人――この細井ゲノムって奴が生きていることになるな」


 事前予想されていた、入間、核田、刮岡、亜白間の四つ巴とは大きく異なった展開となっていた。


「…………」


 写転と核田の関係を知る入間としては、複雑な心持ちであった。


 あれだけ共に戦い、共にぶつかり合うことを熱望していた青年が殺される――名前こそ挙がってはこないけれど、写転類衣という男に対しても、それなりの対策を練っていたつもりだったのだが、それは無駄な徒労と化した。


 いや――と、入間は頬を叩く。


 余計な思考は排除しよう。


 今は感傷に浸っている場合ではない。


「誰がいくつ『鬼』を持っているかは申告されないからね……まあ、そのもう一人『子』がまだ生きているから、そこそこのやり手だってことは確かね」


「個人的には、亜白間街がやられたことが僕的には衝撃だな。あの自信満々男が、そう簡単に落ちるかね」


「自信は時に虚勢みたいなものだからね――特に亜白間君には」


 何かを知っているような口ぶりだったが、染谷はそれ以上触れなかった。


 大学戦考協会の代名詞同士として、何かしら思うところはあったのだろう。


 そんな二人を後ろから追いながら一体この先どうなるのか――それを高城は想像する。勿論気配察知は行いながら、どこからでも対応することができるようにしながら、彼らの様子を伺う。


 就職活動は、情報戦である。


 恐らく先に対敵するであろう、核田、刮岡のどちらかとの戦闘、或いはこの状況でも生き残っている誰かもう一人。こちらの人数のアドバンテージなど考慮しないような連中である。


 結局、入間か、核田か、刮岡か。


 そのどれか三つの巨頭との戦闘は、避けられない事実である。


 その前に――と、高城は隣を歩く青年を見る。


 染谷塩基。


 彼についての情報はほとんど有していない。


 今だって、当たり前のようにヘラヘラ笑っているけれど、入間導の『約定鎖掟プロミス』の協定の中でしか動くことを許容されてはいない。


 生殺与奪の権を握られている――どころではない。人間としての尊厳を掌握されている心理状態の中、平然と話すことができるなど、並みの人間のできることではない。


 只者ただものではないことだけは、確かなようである。


 彼と入間とが組んでいる以上、少なくともこちら側の大敗はない――か。


 そう判断し、高城は彼らの後ろを着いていく。


 裏切りのタイミングを、推し量りながら。




(続)

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