第11話「幕間」

 *


 松来まつらいひとし―――戦考監視員。


 *

 

松来まつらい君、如何いかがかね。首尾の方は」


「と――取締役!」


「そう驚くことではないだろう。私が最終戦考を見に来ることくらい」


「いえ、昨年までは音沙汰もなかったもので……済みません。何もご用意できずに」


「はっはっは。気にすることはないよ、どうだい、最終戦考の方は」


「はい――少々お待ちを」


 若干の狼狽もありながら、松来は画面モニターへ向き直り、状況を提示した。


「首位は刮岡君か。流石に軍事力が違うなあ」


「ええ。戦力という点では、刮岡配列が頭一つ抜けている印象です。他はまだ打たれていない杭、という感じでしょうか」


「核田君や入間君も、何らかの思惑があるのだろうな。『子』の数が伸びていないように思える。怒隈君も、あれだけ啖呵たんかを切っておいて死ぬとは、何とも頼りないものだ。我々を抹殺するくらいの気概を見せてくれていても良かろうに。おや――亜白間君は既に死んでいるか、意外だな。彼を殺したのは誰だい」


「細井ゲノムです。所属大学以外の詳細情報が不明――。怒隈竜電としては分かりますが、柴発生や染谷塩基のように、以前の無い人々を、どうして取締役は最終戦考に残したのです?」


「ふふ、どうしてだと思うね? 松来君」


「…………」


 少し考えた末、


「混戦が目的、でしょうか」


 とだけ言った。


「普通に決戦を行えば、刮岡、入間、核田、亜白間の四つどもえになるから、でしょうか。優秀な人材というものは、優秀そうに見えるだけではない――から。それを見つけるために、とか」


「あっはっは」


 脈絡なく、取締役は笑ったので、松来は内心穏やかではなかった。


 全く読めないのである。


「そうだな、出来レースとしない方法論でもある。我が社の為――最終戦考決戦権を行使できるからな、それだけ本気の就活生を相手取るにあたって、我々も覚悟を決めなくてはならない。君の意見は正しい――だがね。それだけだと、


 そう言った。


「…………」


 つまらない、と。


「これは代表取締役というより、私という個人の見識だけれどね。私の常識を離れた連中を入れることによって、混戦を――否、混沌カオスを作り出してみたいと思うのだよ」


「い……いや、しかしですね」


 松来は流石に狼狽する。


 そんな遊戯脳のような感覚で行って良い行事ではない。


 下手すれば――いや、上手だとしても簡単に人が死ぬ。


「そんな混沌カオスを乗り越えられてこそ、晴れて我が社に勤めるに相応ふさわしい人間だと思わないかね」


 松来はこの辺りで、取締役への質問を諦めた。


 この人のことを無理に理解しようとしても、無意味だと判断したからである。


 余計な思考を割いても仕方がない。最終戦考に集中せねば。


 そう思い、眼前の複数のディスプレイへと集中したところで。


 写転類衣の、生存反応の消失を確認した。


 生存――核田里帆、刮岡配列、入間導、細井ゲノム、染谷塩基、高城翻訳。


 死亡――繰浜みと子、柴発生、亜白間街、写転類衣、怒隈竜電。


「この辺りで、投入といこうか。丁度混戦してきたところだ」


「と、申しますと、あれらを、解放するということですね」


「これ、松来君、あれらではなく彼ら――だろう。生体兵器ではあれど一つの命だ。ちゃんと彼らと呼びなさい」


「はい、失礼いたしました。彼らの解放の目途は、既に立っております。こちらの指示で、戦考会場内に発進させることが可能です」


「良し――では弐体とも発進準備」


「発進準備、良し」


「発進」


 代表取締役の言葉とは裏腹に、戦考会場では特に何も起きたような音は無かった。


 しかし、確実に弐体――が解き放たれていた。


 株式会社、戦争せんそう社。


 超能力を持つ人間の居場所を作る――そしてその対偶の場所で、超能力を持った人間のを執り行う、唯一無二にして絶対の組織。


 その真実に辿り着くことができるのは、就活戦争を勝ち抜いた、内定者のみである。


 そんな企業側の策略など、どこに知られる訳もない。


 悲劇と惨状と憐憫と悔恨をまき散らしながら。


 愚かな人間たちは。


 戦考を続ける。




(続)

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