第4話「分析」

 爆発を耐えて散開した核田・写転。爆発を柴、爆発を起こした張本人の刮岡。


 彼らを除く5人は、既に爆心地から各々距離を取っていた。


 数度殺しあおうともしたけれど、爆風と破片の飛び交う中では致命傷を与えるには及ばない。


 そう判断し、それぞれがそれぞれの思惑を持って、戦考会場から離れた。


 既に爆発の時点で、平和的解決はなしあいは望めない。


 戦考番号6番――亜白間あしろまがいも、そのうちの一人であった。


 私立平米へいべい大学医学部を首席で卒業した功績のある彼は、既に他の有名企業と言える場所からも既に内定をいくつも貰っていた。


 ――正直、俺はここが受かる必要はない。


 ――だから記念受験的な側面が強いのかも知れないが、それでも。


 ――俺ならば。


 ――この企業をも取れて当然だ。


 ――栄光ある俺の功績の一つとして、取っておくことも悪くはない。


 亜白間を支えるのは、圧倒的な自信であった。


 慢心ではない純粋な戦闘技術、対人格闘技ならば大概以上の人間には負けない程の実力を持つ。


 また、自身の実験により鋭敏化された感覚器官を用い、自分に対して向けられる殺気を事前に感知することができる。


 実質予知能力を有しているようなもので――彼の打倒は困難を極めていた。


 ――まあ、俺の傾向と対策も、きっと練られているだろうけれど、な。


 最終戦考に参加する者の名前は、参加者側には明かされることはない。


 ただし、各業界、各大学の超有名人が参加するということで、以前から志望を噂される者はいた。


「有名人、ねえ?」


 ビルの隙間と隙間を跳躍しながら、亜白間は考える。


「核田里帆、刮岡配列、入間導。恐らく俺の障害となる者達は、この辺りだろうな。次点で写転類衣か」


 三人とも、国立、私立大学共に戦闘能力に置いて評価されてきた有名人である。


 このうち刮岡、入間とは面識があった。


 どちらも戦場しけんかいじょうで、である。


「その他は、分からないな。先程巻き込まれて何人か死んだとは思うが――、いや、最終戦考に残るような奴らだし、全員残っているという前提で進んでいった方が良いのかもしれないな」


 ――おっと忘れていた、あいつがいた。


 メモ帳に書きつけておく。


 就職活動における必須アイテムである。


 もう一人の知人――否、これは亜白間が一方的に知っているだけの人間である。


 こちらは悪名の方で有名な者、怒隈どぐま竜電りゅうでん


 日本の大学戦考協会における異端児である。


 何度退場されようとも必ず帰ってきて、一度負けた相手には絶対に負けない。主人公にも終敵ラスボスにもなりうる――奇妙奇天烈な男である。


 正々堂々を土足で踏み荒らすような者なので、相性は亜白間とは正反対であり、最悪である。


 ――というか、どうしてあいつがここの最終戦考にまで進むのだろうな。


 ――やはり日本は、分からない。

 

 ――それ以外は、特に目立った者はいなかったな。

 

 戦闘能力に優れているということは、戦闘時の知性が高いことにも由来する。故に亜白間にとって、全国の武道、戦闘、勉学優秀者を暗記することなど造作もないことだったのだが――。


 核田、刮岡、入間、写転、そして怒隈以外の、四人は、見知らぬ顔ぶれであった。


 ――俺の知らない例外者ダークホースか。


 ――まあ、最終戦考ここまで来る者は何かしら功績を残している者だろう。


 ――後で時間がある時に調査……。


 室外機に沿ってビルの横に立ち止まった。


 横断歩道の所に、誰かの気配を感知したからである。


 極限まで先鋭化した皮膚感覚によって、その人物像を特定することができる。匂いから――刮岡とも入間とも違う者であると判別した。


 ――否、刮岡や入間なら、こんな大っぴらなところに出たりはしまい。そもそもそんな目立つ場所に一人で立つというのは、理解が出来ない。雑魚、だろうか、


 一体、誰か。


「そこにいるのは分かってますよう、出てきてくださいよう」


 と。


 弱弱しくも、なぜか空間に響く声が飛んできた。


 流石に留まっている訳にもいかない。座った姿勢のまま跳躍して――当該人物より少々離れた建物の上へと着地した。その人物は――既にスーツを脱いでいた。


 体育の授業で着用するような、名前が印字された体育着を来て、ただ突っ立っていた。そこには、明朝体で、『細井ほそい』という文字があった。


「ああ、そこに居たんですねえ。わたしったら反対方向を向いていましたよう、いけないいけない」


 ぼかぼかと、かなりの強さで自分の頭を殴った。口から出血した辺りで、ようやくその人物は殴るのを止めた。


 狂気。


「君は、誰だい」


「わたし? 君ってわたしのことですかあ。まあどっちでも良いですけれども? わたしの名前は、細井ゲノムっていいます」


「細井、ゲノム」


「はい。戦考番号、11番ですねえ」


 知らない名前だった。


 ただ、最終戦考まで進んだ者として、ここまで恰好の獲物はない。



(続)

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