第1話「集合」

 *


 そして話は、戻る。


 ――というか始まる。


 今日もまた、ある男子大学生が、就職活動の最終に臨んでいた。


「ここか」


 腹の調子は、悪くなかった。


染谷そめや様、どうぞ」という声と共に、扉を開くと、そこには既に九人の最終戦争者が並んでいた。


 自分が最後トリになるとは思ってもみなかったので、少々染谷は気恥ずかしい気持ちになった。


「染谷塩基えんき様に、間違いはありませんね?」

 扉の横には、笑顔の男が直立していた。


 まるで背中に定規でも入っているかのようなちに、喪服。


 企業の戦考に喪服とは、と数年前なら言われそうであるけれど、令和のマナーはこれが正しい。


 だってこれから行われるのは、人が死ぬ戦争なのだから。


「はい、間違いありません」


「それでは、椅子にお座り下さい」


「はい、ありがとうございます」


 音声、指紋、静脈認証、マイナンバーカードによる照合を終えて、取締役の表示されている画面がある。


 それを中心として並べられた机の、開いている箇所。


 そこには既に『染谷塩基』という名前の札が用意されていた。


 九人、男が四人、女が五人。


 丁度半々である。


 ポリコレには丁度良い。


 ここから誰が受かったとしても――世間に文句は言われない。


「お揃いのようですな」


 そう言って、中央の画面にリモートで表示される取締役が動いた。


「私の名は既知かとは思いますが、改めて。弊社の代表取締役を務める頚城くびき躙彦にじひこと申します。どうぞ良しなに」


 リモートワーク上でのビジネスマナーは、令和入ってすぐのコロナ禍で確立されている。


 身体を45度に曲げて、お辞儀をした。


 流石に他の皆々もそれくらいは心得ていたようである。


 あらかじめ録音されていたものなのだろう――視覚障碍者用か何か、取締役の台詞が字幕表示されている。


「さて、時間もないので始めましょう、最終審査は――です」


 頚城氏はそう言って、機械のように笑った。


「選考などと銘を打ってはおりますが――形式上です。戦考とお考えいただければ幸いです。ご存知の通り、皆様に戦争をしていただき、勝者に我が社へと入社して戴きます。勝利が内定確約となる形でございます」


「……」


 頷きながら、隣にいる女子が高速でメモをしていた。


 一体ここで何をメモする必要があるのかは、染谷には理解ができなかった。


「戦考形式は『おに』形式と取らせていただきます。ご説明は必要でしょうか?」


 最も主流的オーソドックスかつ、鬼ごっこをベースとした『鬼』形式が選ばれたことで、少なくとも安堵する者は多かった。


 持久力の試される『隠』や限定的条件を出される『遊』よりは、断然やりやすい方式である。


 全員が『鬼』であり、また『子』である。


 相手を殺害すると自動的にその人物の持っていた『子』の個数が付与される。制限時間内に最も『子』の多い人物が勝利となる。社内規約ローカルルールによっては12時間続行されることもあるけれど、通常は6時間で最も『子』の多かった者の内定しょうりとなる。


 これも全員がノーの意思表示をした。


「承知致しました――制限時間内に一人を残してそれ以外全員死亡した場合については、これも社ごとに対応が分かれるところかとは思います。これも『鬼』ルールとは少々異なりますが、その生き残った一名の方を、内定者としようと思います」


 これまた機械的に、頚城氏は笑った。


 この発言に、驚きこそしなかったものの、候補者の中に緊張が走った。


 最後の一人になった場合――つまり、その時に『、内定を取ることができるということなのだから。


 通常の企業ではあり得ないことだった。


 要は最後まで生き残った者が勝ち、ということである。




(続)

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