第2話 アノ噂
なんなのよー。なんの話し合いもしてないのにどっと疲れたんだけど。いや、なんで人の不倫問題なんかにウチラが振り回されなきゃいけないのよ〜。
私は急ぎ家に帰り旦那に事情を説明。大きな行事以外はあまりタッチしないタイプではあるが、不倫となると興味津々らしい。
「そんなこと本当にあるわけ。で?その家庭どうなったの?離婚で揉めてるの?親権問題とかもあるよね〜」
いつも保護者間の話なんて、スマホいじりながら片手間にしか聞かないくせに。芸能リポーターばりに食いついてくるじゃん。
「いや知らないよぉ。牧さんの奥さん本人にもあったわけじゃないし。とりあえず田中さんには私から連絡しなきゃって思ってる」
旦那に子供達と一緒にお風呂に入ってもらい、その隙に大まかな内容を田中さんにメール。するとすぐさまスマホが鳴り出した!もちろん田中さんからの着信である。
「あ、もしもし田村さん?なに〜さっきのメール本当なの?てかあの噂本当だったのね」
おっ。田中さんは何やら別ルートからこの不倫の話を聞いていたご様子の口ぶり。
「いやね〜ウチの下の子もサッカー部でさ。こないだ6年生のサッカー部のお母さん達が5人くらい集まって話してたのよ。牧さんの旦那さんと栗原さんがふたりで車に乗ってるのを何度か見かけた人がいたみたいで」
え〜そんな安易にバレバレなデートする?不倫を見せびらかしてるようなもんじゃないの!
「その保護者の中にヤンチャなママがいてね。栗原さん本人に確認しようかって言ってたんだけど。栗原さんほとんどお迎えにもこないし。それに牧さん自体おとなしい人だから逆にみんなをなだめてたみたい」
うわっ。てことは牧さん周りから不倫の話を聞いたってこと?もしかするとその後確信を得るような何かがあったのかも。旦那さんが不倫を認めたとか。
「でも困ったもんね〜。よりによってあの二人が一緒にクラス委員だなんて。保護者の中でもあのふたり仲良かったからショックだろうなぁ牧さん。絶対離婚になるわよね、許せるわけないもん。私、出席できなかったのにわざわざ連絡ありがとうございました」
ふぅ。なんとか子供達がお風呂からあがる前に電話が終わったことに安堵のため息がもれる。さすがにこんな話の内容は聞かせたくない。
他人事とはいえその日はなんとなく寝つきが悪く、旦那のイビキに殺意を覚えたほどだった。
それから1週間程たったある日の昼下がり。私は今日のメニューを考えながら近所のスーパーに買い物に出かけた。給料日前だし〜親子丼でも作るかな。すると牧さんがひとりで歩いて行くのが見えた。
別に私が後ろめたい訳ではないのに、なんとなく顔が合わせにくいのはどうしたものやら。店内をグルグル買い物しているうちに、バッチリ目が合ってしまった。軽く会釈をして違う方向を目指す。しかし店内はそう広くはないもので。
「あの〜田村さんですよね。6−1のクラス委員の」
「はい、そうです……」
ぐぬぬ。この後の言葉が見つからず息を飲む。一緒にクラス委員頑張りましょうね〜なんて白々しすぎて言えたもんじゃないし。考え抜いて出た言葉は……
「大丈夫ですか?」
牧さんは静かに目を伏せ、少しお話できませんか?と誘われた。なんだろうこのドキドキ。私は周りに聞いた下世話な噂話を頭の隅っこに押しやりながら、ふたりで近くのカフェに行くことにしたのだった。
カフェと言っても都会にあるようなオープンテラスや、アンティークでオシャレなカフェでもない。スーパーの一画にある小さな喫茶店である。
それでも田舎のオバちゃん達には結構人気があるみたいで、10席ほどのテーブルは、昼間の14時だというのに6割程度埋まっていた。
私達は隅っこのテーブルにつくとコーヒーを2つ注文した。まだこの事実を知ってから数日しか経っていないのに、目の前の牧さんは少しやつれているように見えた。
「こういうところでコーヒー飲むなんて何年ぶりかしら。すごく美味しい」
「近くだけどなかなか来ませんよね。家事や育児に追われてたらそんな時間もないし」
私達は他愛もない話をしながら確信への糸口を探っていた。幸いなことに流れる昭和ポップの音楽と周りの話し声でざわついている店内に助けられた。
「あの……田村さん。先生から話を聞いてらっしゃると思うんだけど、個人的なことでご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」
あーーーきたぁーーー。私はできるだけ澄ました顔を装い、牧さんの次の言葉を待った。
「大まかな話は聞かれてると思うんだけど、こんなことになるなんて思いもしなくて……」
それから牧さんはゆっくりと、これまでの栗原さんとの出会いと不倫発覚までのことを語りだした。
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本日は2話目を読んでいただきありがとうございます。
作品フォローもすごく嬉しく、次を書く原動力を頂いております。
毎日15時更新予定で頑張りますので、よろしくお願いいたします。
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