保護者同士の不倫騒動に巻き込まれた主婦のおはなし〜女狐はしたたかに笑う
にこはる
第1話 火種
これは私の長男が小学校6年生の時に保護者内で起きたおぞましい不倫問題と、ある愛に飢えたひとりの女性の生き様の一部を見せられた時の話である。
この不倫問題を知ったキッカケは、よくある保護者役員の話し合いに行った時だった。
私は4月に行われた授業参観で、クラス役員を担うことになった。両親共に仕事をされている保護者も多いため、毎年役員決めは厄介な作業となる。しかし、いつかは誰かが引き受けなければ学級会は終わらない。
ちょうどその頃、私は心臓の持病の為しばらく主婦として家にこもっていた時期だった。目立つことが苦手な私だが勇気をだし、自ら今年クラス役員になることを決めたのだ。
この日は6年生のクラス役員4人と担任の先生で初顔合わせの後、一年間の行事計画について話し合う予定。
集合時間は金曜日の夜7時。図書館に集合となっていた。同じ6−1のクラス役員の田中さんは、今日は仕事で来れないと連絡があった。これは仕方がないこと。どちらかが出席すれば後で共有できるし。
私は10分前には図書室に到着しみんなが来るのを待った。少し早かったかな。薄暗くだだっ広い学校の図書室にひとり、なんとなく心細くなりスマホでメールを確認する。
─第1回 6年生クラス役員会議
日時:4月28日(金)19時
場所:図書室
クラス役員名簿
6−1 田中 さゆり
田村 塔子
6−2 栗原 沙智
牧 清美
みなさんお忙しいかとは存じますが、よろしくお願いいたします。
うーん。時間も場所も間違ってないぞ。みんなどうしたんだろう。6−2のクラス役員のふたりは面識はあるけど、そんなに話したことないなぁ。
いやいやそれにしてもみんな遅すぎる!
かれこれ30分は経過しただろうか。さすがに暗くなり図書室のライトをつけようとスイッチを探していると、パタパタと足音がこちらに近づいてきた。慌てて駆け込んで来たのは担任の河上先生。50代前半の生真面目なオバちゃん先生って感じ。かなり息があがっているご様子。
「あの〜6年生のクラス委員の話し合いって今日でしたよね?」
「本当にお待たせして申し訳ございません」
河上先生は眉間にシワを寄せ、なんとも言えない表情で今日は話し合いはできそうにないと言う。都合悪いんならもっと早く言ってよね!と本音を飲み込み、私はすんなりと席をたった。
「わかりました。ではまた日程が決まったらご連絡お待ちしてます」
すると河上先生が口籠った感じで何かを伝えようとしている。
「田村さん……あの。本当に申し訳ないんですけれど、今年の6年生のクラス委員は6−1のお二人にお願いしないといけないかもしれなくてですね……」
は?先生の突然の申し出に思わず立ち止まるしかなかった。そりゃ、6年生のクラスは2クラスしかないけれど、それでもいろんな行事のことを考えるとそれは大変だし。ハイそうですかと納得するわけにはいかない。
「いえいえ。先生、隣の6−2のクラス委員は栗原さんと牧さんに決まったって聞いてますよ。違ったんですか?」
すると先生はメガネに手をやり少し斜め上を見上げた後、ひとつため息をついた。
「いえ。その通りなんですが……その……ある問題が起きまして。あのお二人は一緒にクラス委員をなさるのはかなり難しい状況でして……」
もう〜なんなの。奥歯にものの挟まったようなまどろっこしい返事にさすがの私もイライラを隠せない。こんな時間に暇つぶしに学校に来たわけじゃないっての。
「先生、理由も聞かずにわかりました!とは言えないですよ。一体何があったんですか?」
私は単刀直入に先生に切り込んだ。まさか先生のため息の理由がこんなにも深いものだったなんて、この時の私には知る由もなかった。
先生は覚悟を決めたといった感じで私に1歩近づき、小声で話をしてくれた。
「実は、牧さんのご主人と栗原さんが不倫をされていたらしくてですね。それで牧さんが先程泣きながらお電話してこられて。クラス委員をおりたいと申し出られまして……。ただこんな異例の事態は初めてで、学校としてもどう対処したらいいのか。正直困惑しております」
こ、これは由々しき事態。私自身も先生の話になんと返事をしたらいいのかすら迷ってしまった。やっと見つけた言葉が。
「それは大変ですね……」
とりあえずまだそれ以上詳しい話はわからないらしいのだけれど、クラス委員ができる状態ではないのも理解できた。
そんな不倫だの浮気なんて話、ドラマやネットの中の話だと思っていた。これも平和ボケのひとつだと言うのだろうか。学校からの帰り道歩きながらふと考えてみた。牧さんの心中を思うとやりきれない。
それに確か牧さんと栗原さんの子供さんは同じサッカー部のはず。
牧さんの子供は、6年生の男の子、3年生の男の子、保育園の女の子の3人。奥さんはとても真面目で誠実そうな人だ。いつも黒い髪をひとつに結び、下の子ども達を連れてお兄ちゃんのサッカーのお迎えに来られていたのを見かけたことがある。
一方、栗原さんはシングルマザーで子供は6年生の男の子のみ。華奢で地味ないイメージではあるが目はパチリと大きく可愛らしい女性である。初めてあった時にすれ違いざまに振り返り二度見したことを覚えている。
まさかそんなふたりが不倫問題で揉めることになるなんて。それもこんな田舎の小学校ともなると、小さな火種はやがて周りを巻き込み、大きな山火事へと転がるように広がってゆくのに時間はかからないだろう。
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この度は1話目を読んでいただきありがとうございます。
是非暇なときにでも、続きを読みにきてくださいね〜
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