第9話 †遅刻の言い訳†

中学のとき、競技場を貸し切った体育祭があった。体育祭の種目はやたら個人種目が多かった。運動音痴なおいらにとって、恥を晒すだけの個人種目は、この上なく憂鬱で、避けて通りたいものだった。



おいらは、お腹が痛いといってトイレにこもり、遅刻していこうと思いたった。幸いなことに、気持ちと身体が直結しているおいらは、ストレスがあると一瞬でお腹が痛くなるので、嘘をつくという罪悪感を覚えることもなく遅刻を実行することに成功した。


確か、プログラムの最初のほうに走る種目が凝縮されていたので、1時間ほど遅れれば苦手な徒競走や長距離走を回避できると考えた。


しかし、トイレの外から母がせかしてくるので、いつまでもトイレにいるわけにもいかない。


仕方なくおいらは家を出た。

みんながどうやって会場まで行ったのか知らない。本来であれば交通機関で行くような距離だったと思うが、お金を持ってくるのも忘れ、徒競走を回避したいおいらは、競技場までわざわざゆっくり歩いた。1時間以上は歩いたと思う。


はるばる先の競技場にようやくたどりついた時、晴れていたはずの天気は辺り一面真っ暗になっており、雨が降り出していた。

これは誤算だった。

傘も持たずに来たので、びしょ濡れだ。


でも、そこまでして会場にたどりついた自分がカッコよくも思えて、遅れてきた言い訳をどうしようか("腹痛"ではカッコよくないから、別の何か)をあれこれ考えながら競技場に入った。


するとどうしたことだろう。

階段を抜けた先の広い広い競技場は、もぬけの空だった。



おいらはしばらく呆然と立ち尽くした。


体育祭は、雨で中止になったのだ。




おいらは、お金もないのでまた、どしゃぶりの雨の中を、1時間以上もかけて戻るのであった。



こんなことなら、体育祭に大人しく出ていればよかった。



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