第22話 妹の友達(1)

 翌日、おれは再び佐原日菜に連絡を入れた。


『あーちゃんに会わせて頂けるんですか!?』


 佐原の声は弾んでいた。

 死者が生き返っていることの異常さに、まるで頓着していないかのようだ。


「その前に。君は、妹に会ってどうするつもりなんだ?」


 モルテとの話し合いの結果、陸は佐原に会うのを承知した。

 ふたりがどんな話をしたのかは教えてもらえなかったが、陸のようすからして、あくまで条件次第ということは察せられた。


『……謝りたいんです』

「ケンカでもしたとか?」

『いいえ。ケンカにすら、なりませんでした』


 そこから先は、明らかに佐原の口が重くなった。

 深く追及するのはやめ、あらかじめ用意していた質問をいくつかして、とりあえず大丈夫そうだと判断した。


「それじゃあ、明日の夕方に」


 通話を終え、振り返ると、モルテが優しげに微笑んだ。


「おつかれさまでした」

「なんか、もどかしいな」


 ふう、と息をつく。


「陸から聞いてないか? その……ふたりのあいだになにがあったのか」

「いいたくないそうです」


 モルテは微笑みを浮かべたままだったが、口調はきっぱりとしていた。


、と――そうおっしゃっていました」

「なんだそりゃ?」


 おれに話せないこと。

 話すと気まずくなるから?

 だから、昨日から部屋にこもって顔を合わせようとしないのか?


「君には話したんだ」

「お答えいたしかねます」


 話したんじゃん。

 渋い顔をしてみせるも、モルテの表情は貼りついたように動かない。

 疎外感はあったが、それよりも無力感が強かった。

 つまるところ、これは陸と佐原の問題で、おれの出る幕などないってわけだ。

 でも、それならなんで、モルテには話した?

 考えれば考えるほど惨めな気分になる。

 きっと、濡れた子犬のような情けない顔をしていたのだろう。


「もう。仕方のないひとですね」


 モルテは、すすっ、とこちらに近づくと、腕を頭と背中に回してきた。


「なっ。ちょっ……!」


 抱擁され、そのままポンポン、と頭を撫でられる。

 まるで、あやされる子供じゃないか。

 慌てて抗議しようとするも、モルテは逃がすまいと腕に力を込めた。

 本気で逃れようとすれば突き飛ばす他ないと思い、あきらめて身を委ねる――いや、そうじゃない。

 こうされているのが、心地よいと思ってしまったのだ。


「大丈夫。アリクちゃんは、キリヤ君が思うより、ずっと大人ですから」


 無抵抗になったおれの耳許で、モルテはささやくようにいった。


「大人……か」


 思えばおれは、ずっと陸の親がわりになろうとしていた。

 親が我が子の成長に戸惑うのは、相手がいつまでも自分の懐の中にいるものだという勘違いからくるのかもしれない。

 見守りましょう、というモルテの言葉に、おれはうなずくしかなかった。

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