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私たちが話題にしていたのは、おふざけ担当のカツヤが、ぽやんとしたフミヤをからかいすぎてちょっとファンからも可哀想と声があがったネタだった。
「タカヤってぜってー、笑顔で怒るタイプだぞ?」
「あー……うん、わかる」
想像する。普段穏やかでいつも微笑みを浮かべているタカヤが怒るところ。そんな顔は想像できないし、あのままの笑顔で怒られたら、それは怖いな。
「でもさ、タカヤが怒っているように見えるなら、それって、怒っているというより叱っている……心配してるんだよ、きっと」
「へ?」
ストローを咥えたまま、久遠がきょとんとした。今日もアイスコーヒーだ。
「心配?」
「そう。怒って見えるほど誰かのことを心配しているんだよ。もしもタカヤが怒るなら、そういうこと、じゃないかな」
普段はおとなしくても、ちゃんとメンバーのみんなに目を配っている。タカヤが間に入ると、みんな安心して笑顔になれる人だ。少なくとも、ライブのMCなんか見てるとそんな感じ。そういう人は、どんなことがあれば怒るんだろう。
そんなことを考えている私を、久遠は、なぜかじ、と見つめている。
と。
「もーらい」
すい、と久遠の飲んでいたコーヒーのグラスが持ち上げられる。二人で顔をあげると、サングラスをかけた男が二人立っていた。そのうちの一人が、久遠のコーヒーを勝手に飲んでる。
げ、と久遠が声をあげた。グラスを戻しながら、その男がにやりと笑った。
「デート? いつの間にこんなにかわいい彼女作ったんだよ、久遠」
「ばっ、ちがっ」
「照れることないよ。いいことじゃないか。こんにちは、お嬢さん」
言いながらコーヒーを飲んでない男の方がサングラスを外した。
笑顔の綺麗な人だった。おっとりした喋り方が好感を持てる。
「こ、こんにちは」
久遠の友達かな? コーヒーを飲んでた方がずいっと私の前に顔を出した。
「ねえねえ、久遠の彼女ってことは、今度のコンサート来るんでしょ? 俺……」
「コンサート?」
「康、いきなり失礼だよ。まずはちゃんと挨拶を……」
……あれ?
私、この人会ったことある?
笑顔でたしなめる様子とか、深く響く声とか、どこかで……
考えていてあることに思い当たった途端、急に鼓動が早くなった。
緑の髪でも瞳でもないけれど。
すごく、あの人に、似ている。
「……タカヤ……?」
つぶやかずにはいられなかった。笑われるとか誰とか言われる可能性も考えずに、口からその名前がこぼれた。
私の声に反応して、その人はまた私に向いた。
「ええ。久遠がいつもお世話になっております。僕は……」
「直人。こいつは知らないよ」
久遠の言葉に、その人は笑顔のままちょっと固まってから、ゆっくりと首をまわして久遠を見る。
「え?」
「俺はなんも言ってないよ、こいつに」
あちゃー、とコーヒーを飲んでいた男がわざとらしく額を押さえた。
「何お前、彼女にも自分の事内緒にしてんの?」
文句を言いながらこちらもサングラスをはずす。
「えっ? イチヤ?!」
「はーい! イチヤだよー!」
明るすぎるくらい明るく言った彼は、舞台の上そのものの声と笑顔。
二人とも、ラグバのメンバーだ。
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