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「彼氏じゃないんだ」

「いたらまっさきに留美に話すわよ」

 そう言ったら、留美は嬉しそうに笑ってお弁当を片付け始めた。私がぼうっとしている間に、ほぼ食べ終わっていたみたいだ。

「彼氏といえば、五十嵐課長のことだけどさ」

「なんでそこで課長が出てくるのよ」

 留美が少し声を落とした。私は、自分のお弁当を食べながら答える。

「あんたと課長って、付き合ってたりする?」

「は? なん……むぐっ」

 思わぬことを聞いて、思わず口の中のご飯飲み込んじゃった。目を白黒させている私を気にせずに、留美は続けた。

「いや、なんとなく。課長がやけに華のこと気にかけてるように見えてさ。最近、二人の距離感が近くない?」

「ないない! だいたい、あれだけの人だもの。恋人くらいいるでしょ」

「それが、全然らしいよ? こないだ部長たちの飲み会でそう言ってたって、中山ちゃんたちがさわいでた」

「そうなんだ。もしかして、めちゃくちゃ理想が高いとか?」

「あの課長が?」

 うん、それはなさそう。あれだけ器の大きな人なら、女性に対してああだこうだと注文をつけたりしないだろう。きっと彼女になる人は幸せだろうな。

 お茶を飲みながら、のんびりと留美が続けた。

「私はいいと思うけどね、五十嵐課長。華はどうなの? 課長のこと」

「どうって言われても……」

 かっこいいとは思うし、尊敬もしている。人としてとても憧れてはいるけど……いざ、自分が課長とつきあうなんて、おそれおおくて考えられない。

 そんなことを言ったら、留美が笑った。

「うちらだってもう結婚しててもおかしくない年なんだから、そう考えてみてもいいのに。私から見ても、課長絶対、華のこと気に入ってると思うな」

「ええ? そんなことないわよ」

「あるわよ。華に対しては、課長めっちゃ優しいもの」

「課長は誰にだって優しいわよ」

「立場と性格上、一人をひいきするような人じゃないけどね。それでもいくらか人によっては、見てれば態度が違うわよ。例えば」

「えー、そうなんですかあ? 今度私も連れてってくださいよう」

 と、ざわざわしている食堂の中で、ひときわ甲高い声が聞こえて振り向く。

 そこには高塚さんが、社の男性と一緒に食堂に入ってくるのが見えた。

「あれ、営業の赤城君じゃん。今度は彼がターゲットか」

 留美が声をひそめて言った。

「ターゲット?」

「こないだまでは、秘書課の山本君にはりついてた」

 どっちも、20代独身イケメンで、社内はおろか社外でも人気のある人たちだ。

 見ていると、二人でメニューを選んでいる。赤城君も、高塚さんに甘えられてまんざらでもない様子だ。二人一緒にいると、美男美女で絵になるなあ。

「高塚さん、かわいいもんねえ」

「ああいうのはかわいいって言うんじゃなくて、あざといって言うのよ」

 遠慮がない留美の言葉に苦笑する。

「でも、私が同じことやっても、きっとあんなには喜んでもらえないだろうし」

「ばかね、華。そんな見た目だけで近寄ってきてちやほやする男なんて、絶対ろくな男じゃないって。それに、華はちゃんとかわいいわよ。だから課長だって……」

「水無瀬さん」

 まさにその時、当の課長に呼ばれた。

「は、はい」

 私はあたふたと立ち上がる。き、聞かれてないよね?

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