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「は?」
「あんたみたいなひ弱な女一人であんなの相手にするなんて、どう見たって勝ち目はないだろ?」
な?! 助けてくれたのはありがたいけど……なに、この男!
「だって」
「だってじゃないよ。それともあんたも目的は一緒か? あいつらと遊びたかったのか?」
「そんなわけないじゃん!」
「だったら、ああいうときは自分で声を掛けようなんて思わないで、駅員か警察を呼べよ。もしくはそこらの男に声をかけて……」
「だって誰も助けてなんかくれなかったじゃない!」
怒鳴った私を見て、男は口をつむぐ。
「誰も見てるだけであの子を助けなかったじゃない! 駅員呼びに行ったって、その間に連れてかれちゃうかもしれないし! 私だって平気なんかじゃない! まだ足の震えが止まらないくらい怖かったよ! 怖かったけど、あの子はもっと怖かったと思う……から……」
うっかり泣きそうになってしまって唇をかみしめる。こんな男の前で泣きたくない。
うつむいた私の視界に、男の手元が入った。
「あ、それ!?」
その男が持っていたのは、緑色のパスケース。私はあわててバッグの中を探るけどやっぱりない。さっき、バッグを落とした時に拾い損ねたんだ。
「五十嵐……るな?」
男にパスの名前を読まれて、か、と顔が赤くなる。うわあああ、恥ずかしい。
それは、本当の私の名前ではない。
本来パスを入れる透明なそこには、ラグバの公式会員証が入っていた。5人のシルエットとRAG-BAGの文字がおしゃれにデザインされている。知っている人でなければ、デザインされたRAG-BAGの文字は読み取りにくいだろう。対して、ローマ字で記載されている会員の名前ははっきりとわかる。それを、読まれた。
会員名の刻印は自由にできたので、どうせ誰にも見せないし、むしろ本名で作って人に見られてばれちゃったら困ると思って、考えた末、仮名で作ったんだ。
「そ、そうよ。拾ってくれてありがとう」
「ほら。もう落とすなよ」
言われて、私はそれを受け取ろうと手を出す。
「よく、がんばったな」
微かに聞こえた声に、私は顔をあげた。薄いガラスの向こうの目が、驚くほど優しい。
「え……?」
「……あんたの方が、早かった。俺がもう少し早く気づいていれば、あんたにあんな怖い思いさせなくて済んだんだ」
さっきとは打って変わった優しい声に、私はぽかんとしたまま男を見上げている。照れくさいのか、少し視線をそらして男はパスケースを私に押し付けた。
「バカなんて言ってごめん。あんた……勇気あるよ。でも、無理はするな。俺みたいに、絶対、他に助けてくれる人はいるから」
え。まさか、謝ってもらえるなんて思わなかった。しかも、心配してくれてる……?
……今怒鳴ったばかりの女に、ごめんて言える方こそ勇気あるでしょ。
「ありがと……」
なんだかこっちも照れちゃって、戸惑いながらパスケースを受け取った。
じゃあ、と言ってそのまま駅に向かう男をなんとなく目で追っていると、ふいにふらりと体勢をくずして男はその場にしゃがみこんでしまう。
「え?! あの、どうしたの?!」
驚いた私は、膝をついてしまった男の横に同じようにしゃがみこむ。
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