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 アイドルにはまっているだなんて、子供っぽいって言われそうで会社の人には言えない。でも、私の密かな心の支えとして、いつでもこれを制服のポケットに入れている。

 私は、そのパスケースをまたバックに戻すと、顔をあげた。

 うん。まだはっきりと聞いたわけじゃないもの。勝手に想像して落ち込んじゃうのはやめよう。課長から話があるまでは、私もいつもと同じ。それでいいや。

 そう決めたら、ちょっとだけ気分が浮上した。帰ったら、ラグバのライブ見ようっと。

 顔をあげて改札に入ろうとした私の耳に、陽気な男の声が飛び込んでくる。

「な、ちょっと付き合えって。絶対楽しいからさ」

「少しカラオケでも行くだけじゃん」

「と、通してください……」

 声の方を見れば、男とは対照的に消え入りそうな声で答えているのは、高校生くらいの制服の女の子だ。男二人に囲まれて、逃げるに逃げられないらしい。

 そばを通っていく人たちは、ちらと視線を送る人も多いけれど誰も彼らに声をかけたりしない。

 私も、反射的に目をそらしてしまった。関わったら、何をされるかわからない。

 そう思い通り過ぎかけて、視界に、震えるその子の足が目に入った。

 相手は男二人。怖い。

 でも。

 あの子はきっと、もっと怖い思いをしている。

 私は立ち止まって、バッグの中に入っているパスケースを上から押さえた。

(勇気をちょうだい)

 覚悟を決めて振り返ると、私は大きく息を吸った。

「と、通してあげてください」

「あ?」

 声をかけると、男たちは私に視線を向けた。

「なんだよ、知りあい?」

「違いますけど……嫌がっているんですからやめてください」

 その男たちは、二人でこちらに向いて私のことをおもしろそうに眺めてくる。

「なんだよ、あんたもまざりたいのか?」

「違います」

 と、すきをみてその女子高生はいきなり走り出した。

「あっ」

 無理やり私の横を通ろうとしたせいで、女子高生は私に体当たりする格好になってしまった。その衝撃で、私のバッグが思い切り飛ばされてしまう。

 手帳や財布がばらばらと飛び出て、その子ははっとしたように一瞬足を止めた。けれど、男たちが近寄ってくるのに気が付いて、泣きそうな顔で私を見るとそのまま走って逃げてしまった。

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