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「おはようございまあす、五十嵐課長ぉ。コーヒーでぇす。どうぞ」

 いつのまにか、高塚さんも近くに来ていた。

「おはよう、デスクに置いておいてくれ。ああ、水無瀬さん、早速だけどちょっといいかな」

 課長のそっけない返答が不満だったらしく、高塚さんはちょっと機嫌の悪い顔でコーヒーを置きに行った。留美がその後ろできししと笑うのが見えた。


「はい、なんでしょう」

 課長は、自分の持っていたノートパッドを示した。どうやら、ここに来る前にすでに部長と打ち合わせをしていたらしい。

「この資料作ったの水無瀬さんだよね。このデータの元の書類どこにあるかわかる? 細かい数字が知りたいんだ」

 営業や窓口の仕事はとっくにデジタル化してるけど、総務の事務仕事はまだアナログが多い。

「各支店の実績資料ですね。これでしたら、書庫にしまってあります。どこか不明な点がありましたでしょうか?」

「いや、そんなことはないよ。ただ部長が、品川支店と横浜支店の比較をもう少し詳しく知りたいと言ってね」

「品川と横浜なら、単独でファイルに分けてあります。すぐに持ってきますね」

「いや、いいよ。高塚さん」

「はあい!」

 コーヒーを置いてまた戻ってきていた高塚さんが、ここぞとばかりに笑顔で返事をする。


「資料室から、この資料を持ってきてくれ」

 一瞬だけ嫌そうな顔をした高塚さんは、次には本当に申し訳なさそうに上目遣いで課長を見上げた。

「すみませええん。私、主任から資料作りを頼まれていて、これからそれをやっちゃいたいんですう。水無瀬さんがわかるなら、本人が行ったらいいんじゃないですかあ?」


 高塚さんの言っている主任から頼まれたデータの打ち込み、急ぎじゃないからと任されたのは昨日の話だ。さすがに一日かけても終わらないのはいかがなものか。

 ちょっとイラっとしかけたけど、私はポケットに忍ばせた緑のパスケースを押さえる。

 よし、平常心平常心。


「課長、私、行ってきます。高塚さん、それどこまで終わっているの?」

「えっとお」

 嫌そうな顔で自分のPCを指した。

 う。打ち間違い多い……けど、ほぼ終わってはいた。


「もう終わるわね。もう一度見直したらお昼までに終わらせて主任に確認してもらって。OKが出たら決済に回してね」

 私が言うと、高塚さんはトーンの低い声ではあいと答えた。私は課長に向かう。

「では課長、すぐ戻ります」

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