023 レオパ
もう何回目だっけな、この店は。毎週通い詰めているわけではないが、川上さんには顔を覚えてもらったし、常連ヅラしてもいいだろう。
「姜さん。いらっしゃいませ」
客は俺だけだった。真ん中の方に座って足を組んだ。
「ジントニックで」
「かしこまりました」
話すことといえば、やっぱりあのことだ。
「それで、川上さん。まだ気になりますか、レオパ」
「気になるんですけどねぇ……」
この前川上さんは俺の働くペットショップに来てくれた。丁度空いていたのもあって、初心者向けの爬虫類……レオパードゲッコーを紹介したのだ。
「やっぱりエサがちょっと」
「ですよねぇ」
レオパは基本的にコオロギを食べる。生き餌でもいいが冷凍されたものも売っている。人工飼料もあるにはあるのだが、個人的にはオススメしない。
「僕、どうも虫は苦手なんですよ……小さい頃は平気だったはずなんですけどね」
「慣れると早いんですけどね。まあ、無理強いはしませんよ」
「……ジントニックです」
「ありがとうございます」
川上さんの作る一杯は美味い。酒なんて酔えれば十分、と思っていたこともあったが、ここに通うようになって、丁寧に作られたカクテルはやはり格別だと感じるようになった。
「そういえば、なぜ姜さんは今のお仕事に就いたんですか?」
「趣味の延長です。中学生くらいかな……爬虫類にハマって」
「じゃあ、天職ですね」
「それは川上さんもでしょ? お酒、お好きなんですよね」
「はい。大好きです」
そうにこやかに微笑まれると、思わずドキリとしてしまった。今の「大好き」は「お酒」のことであって、うん……。おかしいな、俺。話題を変えてしまうことにした。
「新人の子に、ちょっとこわがられてるみたいでしてね。俺、やっぱりいかつい雰囲気ありますか?」
「身体が大きいですからね……多少は。でも、お話すると温和な方だと感じますよ」
「仕事中はどうもピリッとしたモードに入っちゃうというか、それもいけないんでしょうね」
「ただ、そういう癖って抜けないものですよ。時間をかけて姜さんのことを知れば、打ち解けてくれるんじゃないですかね」
ふうっ、と俺はため息をついた。明日は新しく生体が入ってくるので、その新人の子と作業に追われるのだ。
「まあ、焦らずいきますか……」
「そうですよ。ここでのお酒もゆっくり飲んで行って下さいね」
その日はいつも以上に居心地がよくて、四杯も注文してしまった。
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