022 アプリの案内

 合ってた、ここだ!

 道に迷った時に入ったショットバー。あれから検索してレビューサイトを見つけて、内装は覚えていたので写真で判断できたのだ。

 辿り着けるか不安だと同期に漏らしたら、地図アプリには案内機能もあるのだと教えられて。音声案内に従ってなんとかたどり着けた。


「いらっしゃいませ」


 マスターは、あたしのこと……覚えているだろうか?


「あのぅ、あたし、以前道案内をしてもらった者なんですけど」

「ああ、あの時の。また来てくださったんですね」

「はい。今夜はガッツリお酒飲みますね」


 注文したのはジントニック。マスターは灰皿も置いてくれた。


「名刺とかもらってもいいですか? あたしも渡すので」

「はい。どうぞ」


 あたしたちは名刺を交換した。川上恭也さんか。これから川上さんと呼ぼう。


「ほう……樫田かしださんはリフォーム関係のお仕事なんですか」

「ええ。ショールームでご案内をしてます。水回りには詳しいですよ」


 土日祝が出勤の仕事だけど、定休日の水曜日は人が少ない街で買い物ができるので、そんなにしんどくはない。


「川上さんはいつからバーテンダーを?」

「高校を卒業してすぐです。憧れがありましてね。二十歳になるまではほんのお手伝い程度でした」

「そこからお店を持つようになるなんて、凄いですよ。あたし、なんとか受かったのが今の会社だっただけで……別に仕事には愛着ないんですよね」


 一人で暮らしていくには十分なお給料を貰えているし、転職するのもリスキーだから、とりあえず今のところに留まっているといったところ。だから、こうして夢を叶えた人のことは眩しく見える。


「僕は色々と運が良かったので。人に恵まれててここまで来ました」

「人に恵まれる、ってことは、人徳があるってことですよ。川上さんのお人柄がいいから、いい人が寄ってくるんです。あたしはそう思いますよ」

「ありがとうございます」

「いやぁ……あの日は本当に助かりました。駅まで送ってもらっちゃって」

「今夜は大丈夫ですか?」

「はい! アプリに案内してもらうので」


 あたしは二杯目を何にしようかとボトルを眺めた。どうやらウイスキーが多いようだ。


「決めた。ハーパーがいいです。ソーダ割で」

「かしこまりました」

「あっ……川上さんも一杯いかがですか? この前のお礼もしたいですし」

「では、頂戴します」


 あたしたちは乾杯した。


「このお店、何人まで入れますか?」

「十人までですよ」

「じゃあ、同期連れてこようかなぁ……。大人数だと予約しておいた方がいいですよね?」

「そうですね。貸切にもできますよ」

「じゃあ、計画練ります!」


 すっかり気分の良くなったあたしは、帰ってから同期たちに連絡した。

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