018 余計な心配
仕事を定時に終わらせたオレは、兄の店に顔を出した。
「よっ、恭也」
「いらっしゃい」
時間が早かったせいか、客はオレしかいなかった。
「ビールちょうだい。一緒に飲もう」
「うん。ちょっと待ってて」
ビールを待ちながら、オレは兄に尋ねた。
「この後ラーメンでも行こうと思うんだけどさ、いい店ある?」
「豚骨なら……ヒカリヤかな。並ぶけどね」
「ん。自分で調べるよ。えっと……」
スマホで検索すると、ずらりと出てきたラーメンの写真。これを見るだけでヨダレが出てきそうだ。そうしているとビールができあがった。
「はい、どうぞ」
「かんぱーい」
一人で缶ビールを飲むのも好きだが、こうして兄に注いでもらうのもいい。父や母が生きていたら、一緒にここに来ることもあったかもしれないな、なんて感傷的になった。
「龍也、ラーメン行くのはいいけど普段は食事どうしてるの?」
「ん? 外食かコンビニ。恭也は?」
「こういう生活だからね……食には気をつけてる。自炊してるよ」
「一人暮らしだろ? よくやるなぁ」
オレの部屋のキッチンは物置と化していて、袋麺すら作ることができないというのに。まあ、小さい頃から兄は器用だったからな。こういう仕事に落ち着いたのも弟としては納得だ。兄は続けて聞いてきた。
「仕事は在宅って言ってたけど、運動はしてる?」
「いや……全然。今日も久しぶりに外に出たよ」
「そろそろ意識した方がいいよ。僕も階段使うようにしてる」
「まだまだ平気だって」
何だか今日の兄は口うるさいな。人が気持ちよく飲んでいるというのに。オレはビールをぐいっと飲んで言い放った。
「余計な心配なんだって。オレも恭也も、もう大人なんだから。自分のことは自分でなんとかする」
「何かあったら言ってよ。僕もこっちに越してきてすぐ行けるようになったんだからさ」
「それはお互い様。恭也もたまにはオレのこと頼れよ」
兄はメガネの位置を直し、じっと見つめてきた。
「もう……家族は僕たち二人しかいないんだからね」
「うん。わかってるって。ところで、じいちゃんの名前使ったの、何で?」
「そりゃあ、好きだったからだよ」
「いいじいちゃんだったよな。頑張って日本語勉強してくれてさ」
ビールが尽きたので、オレはお目当てのラーメン屋に行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます