016 紹介

 あったあった。店の名前も間違いない。あたしは扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 メガネをかけたマスターが出迎えてくれた。達己が言っていた通り、いい男だ。


「カンパリソーダください」

「かしこまりました」


 あたしは指を組み、マスターの仕草を眺めた。バーテンダーさんがお酒を作る様子を見るのは好きだ。期待が高まる。あたしはマスターに話しかけた。


「シュウさんと達己の紹介で来たんですよ。さっきまでRainingレイニング行ってました」

「ああ、そうだったんですね。ありがとうございます」

「達己が神戸のバーに来てくれたことがあって、そこで知り合って」

「ということは、神戸の方ですか?」

「はい。今日はビジホ泊まって明日帰ります」


 カクテルが出来上がった。カンパリベースはあたしのお気に入りだ。


「うん、美味しい」


 あたしはタバコを取り出した。すかさずマスターは灰皿を出してくれた。


「ええ店ですね。近かったら通うのに」

「ありがとうございます。神戸は……行ったことないんですよね」

「お酒飲むんは困らないですよ。仕事終わり巡るんが楽しくて」


 あたしは大学生の時にショットバーにハマってしまって以来、ほとんどのお金をお酒に使っている。あとタバコかな。二十歳になった日から吸い始めたハイライトはすっかりあたしの相棒だ。


「お兄さん、来てくれたら案内しますよ」

「ふふっ、その時はよろしくお願いします」


 うーん、脈ないな。夜遊びばかりしているせいで、そのくらいのことはすぐにわかるようになった。まあ、いっか。


「もう一杯だけ飲んで帰ります。ウイスキーがオススメて聞いてますけど」

「そうですね……どんな飲み方がお好きですか?」

「ハイボールにしてもらおかなぁ。あんまりクセないやつがいいです」

「では……ジェムソンですかね」


 マスターは緑色のボトルを手に取った。これなら神戸のバーでも見たことがあった。アイリッシュウイスキーだったかな。


「うん、スッキリしてますねぇ」

「ええ。飲みやすいと思います」


 また来ることがあるかはわからないけれど、その時はお世話になろうっと。

 店を出たあたしは電話をかけた。


「達己ぃ、終わったぁ? あたしも飲み終わった。うん。うん。ほな、家行くでぇ」

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