005 レビュー

 わたしの趣味は食べ歩き。そしてそれをレビューサイトに投稿すること。

 美容外科の事務の仕事は定時で終わるから、そこから街に繰り出すのが何よりも楽しみなのだ。

 けれど、この辺りの店はある程度行き尽くしてしまった。そろそろ新規開拓したい。

 そう思って足を伸ばしてみたら、あったあった。良さげなバー。看板を見て検索をしてみたけど特にヒットしなかった。もしかして、ここをレビューすれば、わたし一番乗りかも。

 扉を開け、中をのぞくと、メガネをかけたカッコいい男性マスターがグラスを拭いていた。


「いらっしゃいませ」


 わっ、声もいい。この時点ですっかり気に入ってしまった。


「ええと……モスコミュールください」

「かしこまりました」


 バーにはよく行くけど、こんなにみっちりボトルが並んだところなんて初めて。見たところ、ウイスキーが多いのかな。詳しくないから、何が何だかわからないけど。


「どうぞ。モスコミュールです」

「綺麗。写真撮っていいですか?」

「構いませんよ」


 えっと、角度はこのくらいかな。暗い店内でもきちんと写るよう、カメラ機能なら使いこなしていた。

 一口飲んだだけで、爽やかでいい気分。何かつまむものが欲しくなって尋ねてみた。


「何か軽く食べたいんですけど」

「チーズは大丈夫ですか? 今日はバケットがありますよ」

「じゃあそれで」


 マスターは一度奥に行き、何やら作業を始めた。しばらくして、チン、という音。トースターで焼いたのか。


「お口に合うといいのですが」


 白いプレートの上に飾られた、クリームチーズが乗ったバケット。さらに小さくて赤くて丸いものがかけられていた。これは知ってる。ピンクペッパーだ。もちろん写真を撮った。

 サクサクしたパン生地に、しっとりとしたチーズがよく合う。お酒もすすむ。本当は赤ワインとかがぴったりなのかな。


「んー! 美味しいです」

「それは良かったです」


 さて。こういう店だし、許可を取っておこう。


「あのぅ、レビューサイトに投稿していいですか。良かったところ、たくさん書くので」

「それはありがたいです。うちはまだオープンしたばかりなんですよ」


 それから、具体的な開店日や営業時間も確認した。夜六時から翌二時まで。定休日は火曜。素早くスマホにメモした。

 満ち足りた気分で店を出た。帰ったら早速載せちゃおう。最後にマスターのお名前も聞いたんだった。川上かわかみさん。わたしと同い年くらいだったのかな。物腰も柔らかくて素敵だったし、またお会いしたいな。

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