第142話 不思議なペン

Side:エイタ


 不思議な棒を家に持って帰ってお父さんに見せる。

 お父さんはまず引っ張ったりしてみた。

 片方の端の黒い物が外れた。

 金属の尖った物が現れた。

 尖ってはいるが、先は丸くなっているみたい。

 お父さんは先を指で触った。


「驚いた。先に玉が入っているぞ。クルクルと回るようになっている」

「貸して、本当だ。何か不思議な感覚」


 ええと、指の感覚を楽しむ玩具かな。


「よし分解してみよう」


 お父さんに不思議な棒を渡すとお父さんは棒の端を捻った。

 どうやら捻ると分解できるらしい。

 中身は透明な細い棒で中に黒い何かが入っている。

 お父さんは針を透明な棒の中に入れた。

 何か透明な物が出て来た。

 お父さんはそれを指で確かめて匂いを嗅いだ。


「おそらく油だな」


 そして、さらに針を入れて黒い何かを出した。


「黒いのは何?」

「分からんが、形状から推察するにインクのような気がする」

「インク? じゃあこれがペン」

「羽ペンの先も空洞だろう。これも似ている」


 紙を持って来て、ベンだと思われる不思議な棒を走らせる。

 金属の玉が回るがインクは付かない。


「書けないね」

「ああ、壊れているんだろう。これを作ることができれば大儲けだな。この小さい金属の玉を作るのは大変だろう。この細工は挑戦してみたいが、不可能だ。おっと簡単に諦めたらいけないんだったな。ここにこれがあるということは、作れるってことだよな」


 不思議な品物もあるので、ネティブお兄さんが勤めている商店にワウンドーラと行くことにした。


「こんにちは」

「こんにちは」

「またお前達か。いらっしゃい。今度はどんな難題だ」


「お母さんの日のプレゼントを作りたいんだけど」

「これしかないというのが良いわ」


「子供の小遣いでなんとかなるものな。不思議な品は持ってきたか」

「うん、これ。ペンだと思うんだけど」


 僕はペンではないと思ったけど、お父さんはペンだろうと言っていた。

 たしかに形はペンだ。


「ふむ、不思議な感じの物だな。真ん中にインクが入っているのか。ちょっと貸してみろ。書けないな。どう使うんだ?」

「色々試したけど、分からないんだ」

「インクが中に入ったペンが作れれば、大儲けだよな。壊れているのだろう。直せるかな。まあ良いか。これを対価に依頼を受けてやる」

「本当」

「やった」


「そうだ。シナグル工房への行き方を教えてやる。魔道具が欲しいと祈れ」

「お母さんの日にプレゼントする物を作る魔道具が欲しい」

「欲しい」


 驚いたことにシナグル工房と書かれた表札のある扉が現れた。

 最近文字を覚えて、簡単な名前ぐらいならどうにか読める。

 工房はお父さんと良く行くので、単語は覚えている。


「扉が出た」

「私も」


「中にいる職人は気難しい。怖い男じゃないから安心して良い。ただ、心のこもった品とかを大事にする」

「分かった。家に帰って今まで作った品物を取って来る」


 家に帰り、木の細工、花束、花冠、かご、小袋を持って店に戻る。

 扉はまだそこにあった。


 ワウンドーラと頷きあって扉を開けて入る。


 中は工房だった。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」


 若い職人さんと、僕より少し年上の女の子が迎えてくれた。


「あの、お母さんの日の贈り物を作り出すの魔道具が欲しくて来ました」

「来ました」


「お母さんの日の贈り物を作る魔道具ね。対価はなんだ?」

「これ」


 今まで作った物を差し出す。


「良いだろう。苦労の跡が見える。魔道具を作ってやろう。定番の贈り物と言えばあれだな。ララーラーラ♪ラ♪ララーラ♪ラララーラ♪ラーラーラー♪ララーラ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪、ラーララーラ♪ラララー♪ラー♪ラー♪ラ♪ララーラ♪。できたぞ」


 石が木片に取り付けられる。


「これ、何?」

「ミシン目カッターだ。こうやって使う」


 職人さんは、紙に魔道具を当てて滑らせた。

 紙にポツポツと穴が開いた。


「これが母の日の贈り物?」

「ええと、どう使うのか分からない」


「このミシン目は紙を千切り易くする」

「千切ってみても良い?」

「ああ、好きにしろ」


 たしかに紙が簡単に千切れる。


「ええと分かんない」


 ワウンドーラもこれが何なのか理解できないみたいだ。

 僕も分からない。


「紙にお手伝いと書いて、ミシン目を入れる。お手伝い券の完成だ。色々と考えればさらに楽しい券が作れる」

「おう、凄い」

「わー、素敵」


 ミシン目カッターは凄い。

 たしかに、色々な券を作ったらお母さん喜ぶと思う。

 そうだ、この職人さんならあの不思議なペンを知っているかも。


「このぐらいの長さで端が黒で、真ん中は透明で、片方はキャップで、外すと金属で、先に金属の玉があるペンなんだけど知っている?」

「これか」


 職人さんはあの不思議なペンを取り出した。


「そうそれ。壊れてないそれを使う所を見てみたい」

「おう、良いぞ」


 職人さんはペンでお手伝い券と紙に書いた。


「凄い。本当にインクなしで書けるんだね」

「おまけに紙とボールペンも持って行け」

「ありがとう」

「ありがとう」


 さあ、帰って券を作るぞ。

 急がないと夕飯になって、明日になっちゃう。

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