第15章 戦いを止めた歌
第57話 貧乏くじ
Side:ケアレス・リード
私はケアレス・リード。
王国のトレジャ王国の貴族。
同じく貴族で、友であるリプレース卿の顔色が冴えない。
何か悩みごとか。
「友よ、悩み事なら打ち明けて欲しい。不甲斐ない私だが、悩み事を聞いて一緒に悩んでやることぐらいできる。さすれば、いくらか悩みも軽くなる」
「友よ、ルート川を知っているか」
「ああ、イスト領とウェス領の境にある川だな」
「それだ。その二つの領地が一触即発なのだよ。双方の意見を聞いて、争いを収めよとの王の命令だ」
「争いの原因はなんだい?」
「ああ、ルート川が干上がりそうなんだよ。とても二つの領を賄える水量ではない。川が干上がりそうなので鎧を着ても楽々渡れる。騎馬も渡れる。なのでどっちも相手を滅ぼそうと画策しているところだ」
「ふむ、由々しきことだ」
「誰も任務を受けたがらないので、私にお鉢が回ってきたというわけだよ」
「なるほど。争いを納めても、作物が不作では、両方に餓死が出るな」
「だから、誰もやりたがらない。恨みを買うだけだから」
「貧乏くじを引いたな。ならば私も一緒に背負おう」
「友が来てくれれば、百人力だ」
私は疲労回復と疾駆スキルの強みを活かし、現場に先立って到着した。
ふむ、確かにルート川が小川になっている。
枯れるのも時間の問題か。
焦る双方の気持ちは分かる。
飢饉が始まればもはや戦いなどしている暇はない。
今が絶好のチャンスというわけだ。
イスト領の街に入る。
街は活気づいている。
戦争が始まるともなれば物が飛ぶように売れるからだろう。
嘆かわしいな。
酒場も活気づいていた。
席がほとんど埋まっている。
「ウェスの奴ら、今度こそコテンパンにして奴隷にしてやる」
「そうだそうだ。今までの恨みを晴らせ」
「イスト子爵様は、兵士として参戦すれば金貨1枚をくれるらしい」
「太っ腹なイスト子爵様、万歳」
「万歳」
確かに一戦やろうという活気に溢れている。
「あなたは戦いに行き♪血塗られた手で♪我が子を♪恋人を♪愛しい人を♪何で抱ける♪私は悲しい♪平和の歌が届きますように♪……」
見事な歌だ。
彼女の歌で戦おうという男達の逸る気持ちが治まったような気がする。
でも駄目だ。
彼女の歌が終わると、男達はまた戦いの話をし始めた。
私は酒場を出て今度はウェスの街の酒場にやって来た。
「イスト野郎は殺せ」
「そうだ、殺せ殺せ」
「絶対に勝つぞ」
「おー、妻や子供達を犠牲にしないためにも戦うんだ」
楽器の演奏が始まる。
「あなたは戦いに行き♪血塗られた手で♪我が子を♪恋人を♪愛しい人を♪何で抱ける♪私は悲しい♪平和の歌が届きますように♪……」
この歌はイストの街でも聞いたな。
同じ人物か。
戦いを回避しようとい心構えは立派だが、どうにもならないだろう。
しかし、彼女の歌は私の心に届いた気がする。
私は彼女が歌い終えて、酒場から出る時に話し掛けた。
「私も戦争を回避するために動いている。だがどうしたらいいのか答えが出ない。戦いをやめさせても餓死者が出る結末も許せない」
「私はディヴァ」
「私はケアレス・リード」
「貴族ということは王が介入なされるの?」
「いや、たぶん渋ちんの財務卿は予算を出さないだろう。戦いを止めるのを話し合いでさせるつもりらしい。軍の派遣は考えてない」
「救いはないのね」
「だが、私達がこうやって行動したことは、必ずなんらかの実を結ぶはずだ」
リプレースが到着して双方の貴族の言い分を聞いても埒が明かないのだろうな。
シングルキー卿に頼るとしても、恐らくそんなにたくさんの水を出す魔道具は作れないだろう。
ダンジョンコアでも持って来れば別だが。
「私は戦場でも歌うつもり。声は届かないかも知れないし、無駄かも知れない。でも手をこまねいている訳にはいかないの」
「私もだよ。何らかの手は打つつもりだ」
情報が色々と集まった時にリプレースが到着した。
双方の貴族と面会して戦いをやめるように言ったようだが。
「駄目だね。聞く耳を持たない。戦いは明日、始まりそうだ」
リプレースが落胆している。
「僅かだが、戦いを望んでない人もいる」
「分かってるよ。でも、どうにもならない。もちろん、全力は尽くすけど」
友の苦しみが分かる。
戦いになればどっちが勝っても悲惨だ。
この戦いに勝者はいない。
負けた方は食料を奪いにゲリラ戦を仕掛けて泥沼化するだろう。
飢えた民衆を抑えるのは大変だ。
「水をなんとかすることを考えようではないか」
「それがいいかもね」
「てっとり早いのは井戸だな」
「それは私も考えた。しかし、井戸は掘っても水が出ないことが多い」
私の井戸という意見に対して、リプレースが否定的な意見を述べた。
リプレースの言うことも間違ってない。
井戸掘りは大変なのだ。
シングルキー卿に水の出る位置を探し出す魔道具を作ってもらおうか。
だが、農民は井戸が実際に使えるか分からないから、協力しそうにもない。
民衆の協力が得られないのなら無意味だ。
それに1日ではな。
井戸を掘るだけでも何日かは掛かる。
だが、井戸という案は捨てられない。
手を考えるしかない。
私は井戸掘りの魔道具と考えながらイストの街を散歩した。
見覚えがある扉が、路地の中に見えた。
おお、神はシングルキー卿に頼れとの仰せか。
考えはまとまっていないが、相談してみよう。
なにか良いアイデアが出るかも知れぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます