第51話 直った髪飾り
Side:ネティブ
路地に出現した不思議な扉を潜ると、工房に出た。
あれっ、ここどこだ。
てっきり、マイスト工房だと思ってた。
「誰かいますか!」
しばらくして、2階から人が下りて来た。
「いらっしゃい」
シナグルだ。
迎えてくれたシナグルは変わってない。
「工房を建て直した?」
「独立したんだよ。マイスト工房だったのがシナグル工房になった」
「おめでとう」
「ありがと。それで今日はどんな魔道具?」
「それが、髪飾りの修理を頼まれたんだ。お代はこれさ」
僕は壊れた髪飾りと謎の取っ手を出した。
「これは、ピーラーじゃないか。壊れているけど直してみるか。物々交換で手に入るとはいえ、ここに流れてきたのも何かの縁だ。直してやらないとな」
「知っている品なんだな。何の道具?」
「皮むき器だよ」
「何だ。生活雑貨か。安くて悪いね」
「それで髪飾りをどうしたいんだ?」
「故郷の花みたいに幻に出来ないかなと幻にできれば、職人に似た物を作らせることもできるし、できなかったら幻を眺めて我慢してもらう。不本意だけど。とにかくお客さんにはできるだけ良い品を届けたいんだ」
「新品みたいにしたら駄目なのか」
「駄目じゃないと思う」
「じゃ簡単だ。この半田の部分を切って削ぎ落して、残った銀の部分だけをこの箱に銀貨と共に入れる」
シナグルは箱にそれらを入れて魔道具を起動した。
そして、取り出すと髪飾りは新品になっていた。
歪んだ所などどこにもない。
「ありがとう。これでお客様に満足して貰える」
「じゃあ次はピーラーだな。ええと刃の部分がないから、ステンレスだな。鉄とクロムとニッケルか。この世界、クロムはないんだっけ。仕方ない物々交換でステンレスを手に入れよう」
言っていることのほとんどが分からない。
これだから天才はと思わないでもない。
それともシナグルの故郷が凄いのかな。
作業を見守る。
さっきの箱に召喚された板と共に入れて、魔道具を起動。
取り出された奇妙な道具をみる。
「これが皮むき器? 研究してみたい。しばらく貸してくれないか」
「持っていって、いいよ。俺はこの道具をいつでも手に入れられるから」
「ありがとう」
きっと凄い道具なんだろうな。
扉から出て、店でエイタを待つ。
エイタはしばらくしてやって来た。
「直ったぞ」
「やった。お兄さんありがとう」
受け取り証と交換で髪飾りを渡す。
「どう?」
「新しくなっているけど、いつも見てた髪飾りだ」
エイタが物凄い笑顔になった。
この笑顔で報われた気がする。
「気をつけて帰るんだぞ」
「うん」
はぁ、終わった。
古いままで元通りになったら良かったかも知れないが、これが僕の限界だ。
僕が用意できる最高の品だと思う。
「おう、どうだ。最高の品を渡せたか?」
「会頭、はい、自分が納得する品を渡しました」
「そうか。今回の件を忘れるなよ」
「はい」
「よくやった。あの子供の笑顔を見たら結果は聞かないでも分かったがな」
褒められた。
この店に勤めて初めてじゃないだろうか。
いい気分だ。
今日はいい夢を見れそうだ。
会頭に飲みに誘われた。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「俺はよ。新人の時にある課題を出された。羽ペンを仕入れからやるっていう課題だ。どうなったと思う」
「上手くこなせたんですよね」
「いいや。俺は自分で水鳥を獲れば安く上がると考えた。ここまでは良かった。幸い俺は田舎で罠猟の経験があるからな。それで鳥を捕まえだんだが、羽ペンに適した種類じゃなかった。獲れども獲れどもそればっかり」
「それでどうしたんです?」
「根負けして適してない種類の羽を羽ペンにしちまった」
「売れなかったんですね」
「ああ、売れなかった。見事なまでによ。値段を下げようかととも思ったが、負けた気がしてな。それで綺麗に包装して売った」
「売れたんですか」
「ああ、売れたさ。だがある客が買ってすぐに包みを解いた。それでがっくりした顔をしたんだよ」
「それを見て俺は、大変な間違いをしでかしたと気づいた。それで急いで猟師に羽ペンに適した羽を売ってもらって、今まで売った客全てに謝って回ったさ。前より綺麗に包装して中身を良い品に変えたのを持ってな。それからだよ。できる限りで最高の品を売ろうと思ったのは」
「そんな失敗を」
「お前も良く考えろ」
「はい」
俺は正しかったのかな。
でも包装には気を使わなかったな。
自信がある品だったら包装にも気を使わないと。
だけど、中身が伴っていなければ駄目だ。
包装でワクワクを演出して、中身の満足感で驚きと喜びを演出するんだ。
次の日、エイタが来た。
「昨日はありがとう。お母さんがお礼を言いなさいって」
「どうだった?」
「ばっちり」
「お母さんは笑顔だった?」
「うん、お父さんも。弟か妹ができるかも知れないって」
「そうか」
弟か妹?
それは置いといて、僕は間違えなかったんだな。
でも慢心はすまい。
もっとできたはずだ。
ここで満足したら成長が止まる気がする。
シナグルにほとんどやってもらったからな。
次に似たような依頼が来た時は自分で解決するぞ。
そのためには人脈を広げる。
きっとあの難題をこなせた職人はシナグル以外にもいるはずだ。
店の仕入れ先の職人を少しずつ聞き出そう。
生命線だから簡単には教えて貰えそうにないけど。
頑張ればきっと。
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