第47話 裏がある任務

Side:コインシェープ


 俺はコインシェープ、守備兵だ。

 街の治安を守るのが仕事。


「任務を与える。金貸しのベイスの家で叫び声が上がったそうだ。様子を見に行け。聞き込みでは昨晩も喧嘩してたらしい。もし、誰が殺されているようなら、犯人は殺せ。凶悪犯だからな。街の外へ追いかけてもだ。時間はいくら掛かっても構わない。確実に殺せ」

「了解しました」


 変な任務だ。

 叫び声が上がったから行けというのは分かる。


 だが、ついさっきあったことだろう。

 それなのに昨日の様子が聞き込みされている。

 犯人を殺せというのも奇妙だ。

 裏がありそうだが。


 任務とあれば仕方ない。

 ベイスの家では妻が殺されていた。

 金庫が空だったことから、おそらく犯人はベイスだろう。

 金庫にはこじ開けられた跡がないからな。


 だが、妻を脅して金庫の開け方を知ったとも考えられる。

 とにかくベイスだ。

 怪しいことに間違いはない。


「ベイスの手配書を作れ」


 大急ぎで手配書が作られた。

 ベイスの顔を知っている者は多い。

 良い手配書ができたと思う。


 さっそく目撃証言がでた。

 その近くで奴を見つけた。


「見つけたぞ」

「【恫喝】止まれ」


 くっ、奴のスキルが放った声で俺の足は止まった。

 だが、奴が逃げ込んだのは行き止まり。

 恫喝スキルは、連発はできない。

 調べはついている。

 強力なスキルほどそういう制約がある場合が多い。


 袋小路に行くとベイスの姿は跡形もなかった。

 壁をよじ登って屋根に逃げたか?

 まあ、ありがちだ。


 守備兵でもある門番から報告がきた。

 怪しい男が乗合馬車で街を出て行ったと。

 なんで捕まえない。

 この無能が。


「どういう風体の男だ」

「顔が無残にただれていた男です」


 話を聞くと変装していたので、ベイスではないと思ったらしい。

 くっ、それでも無能だ。


「何か言ってたか」

「連れの男が幼い時に怪我とか言ってたような」


 行先を予想するのは大変でもない。

 乗合馬車のルートを調べりゃいい。

 ルートを調べるのは別の者にやらせるとして、俺はベイスが逃げる前に何をしてたか調べるか。


 見つけた場所の近くの酒場でベイスに似た男を見たという人がいた。

 酒場は普通の酒場だった。

 安くもないし、高くもない。

 場末でもないし、高級でもない。


「ああ、グッピさんですか」


 ベイスに似た男はグッピと名乗ったらしい。


「その男だ」

「奇跡が起きたんです。病気の人達が次々に治って」

「治癒の魔道具か。また大層な物が出て来たな」


 驚いたことに治癒の魔道具で何人もの病人を癒している。

 あのクズで悪党な奴がそんなことをするか。

 別人かも知れない。


「で権力者に狙われているってんで。ロウを顔に垂らして絵具で肌っぽく見せたんです」


 しかし、グッピは怪しい奴だ。

 ロウで変装したらしい。

 犯罪者でなければそんなことをする必要はない。

 別口だったとしても捕まえるに限る。


 俺は馬に乗って乗合馬車を追跡した。

 ある村でグッピの足取りがつかめた。


「グッピさんですか。聖人みたいなひとですね」


 重病人を治したらしい。

 ベイスの手配書を見せると、この男だという。

 グッピとベイスは同一人物か。


 だが、行動がベイスらしくない。

 もしベイスだとしたら、どういう心境の変化だろう。

 悪党の行動をとると目立って捕まる。

 そう考えたのか。


 いや、善行はかなり目立つぞ。

 それより治癒の魔道具をどこで手に入れた。

 国宝クラスだろう。

 ベイスの金じゃ足りないだろう。

 貸し付けた奴から借金の形に奪いとったか。


 だが、その魔道具は村の祠に安置されている。

 まるで要らないとでも言うように。


「それでグッピはどこに行った?」

「知りませんよ。いつの間にかいなくなってたんです」

「ここに連れて来た男がいるだろ」

「ええ、スタッピッドですね」


 そいつに話を聞くか。

 そいつは俺のことを犯罪者でも見るような目つきで見た。

 こいつはだめだな。


「グッピはどこに行った」

「知りませんよ。なんでも追われているらしいです。門番にも仲間がいるそうで」


 ああ、グッピの敵だと信じ込まされているな。

 善人のグッピを迫害する奴だと。

 どう言ったものかな。


「あいつは悪党のクズで、妻を殺した」

「グッピさんがですか。信じられません。目が殺人者のそれじゃなかったですよ。嘘を言ってますね。あなたはグッピさんに危害を加えようとする悪い人達じゃないですか」

「そんなことを言って怖くないのか。俺が悪い奴だったらどうする」

「平気です。グッピさんのためなら命を懸けられます」


 こいつ、目が座っている。

 どうにもならないな。

 足取りはそのうち掴めるだろう。

 方々の街に手配書を送ったからな。


 だが、これは普通の事件じゃない。

 そんな予感がする。

 俺は街に戻るとベイスのことを調べ始めた。

 取り立てにはスキルを使っている。

 暴力は振るわない。


 意外だな。

 ただ、結婚指輪でも何でも持って行くそうだ。

 本当にクズだな。


 金利も法定のものを超えたりはしない。

 犯罪歴はなしか。

 夫婦仲は普通だな。

 二人とも浮気している。


 だから浮気で揉めたことはない。

 他のことでしょっちゅう喧嘩してた。

 だが別れない。

 こういう夫婦もいる。

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