第35話 崩壊のロンド

Side:マニーマイン


「ちっ、また魔道具がひとつ壊れた。クールエル、スペアを寄越せ!」


 バイオレッティが怒鳴る。


「これで、もう収納魔道具の中に予備の攻撃用魔道具は入ってないわ。さっきので最後よ」

「何で補充しない?」


「今は喧嘩より、モンスターに」


 私がそう言うと、パーティは討伐に全力を傾けた。

 そして、何とかオークキングを倒せた。


「さっきのことだが、なぜ補充しない?」

「お金がないのよ。収納魔道具の借金だって返さないといけないし」

「くそっ」


 私には何が問題か分かった。

 私達のパーティは魔道具に依存した戦い方になっている。

 これをやめない限りどうにもならない。

 戦い方が荒いのよ。

 バイオレッティやサーカズムはしょっちゅう怪我をするから、ポーション代も馬鹿にならない。

 クールエルの回復の腕はCランクの時のままで止まっている。

 最近まで、攻撃用魔道具での攻撃と、管理しかしてないもの。

 道具係と言った方が早い。


 これじゃ、早晩、私達のパーティは全滅する。


「とにかく、新しく借金してでも攻撃用魔道具を揃えろ」


 街に帰りクールエルと攻撃用魔道具を買いに行く。

 魔道具屋の店頭には核石に筋がたくさん入ったのが並ぶ。


「攻撃用魔道具を見せて頂戴」

「いらっしゃいませ。では奥に」


 値札を見てぞっとする。

 どれも金貨10枚を超える。


 金貨10枚って言ったら、オーク1頭の素材と同じ値段。

 オークはCランクでかなりの強敵。


 魔道具の補助なしだと私達がなんとか勝てるレベル。

 運用するには、20個は必要だから、金貨10枚それの20倍、それが必要。

 いま、狩っている獲物は、確かに金貨10枚では売れる。

 けど、魔道具の消耗率から考えたら赤字になるかも。


「ねぇ、クールエル。魔道具を買うのは正しい選択かしら」

「でも、リーダーが」

「店員さん、攻撃用魔道具を何回撃つと壊れるかしら」


「そうですね。金貨10枚のだと、平均すると100回ぐらいですかね。筋のほとんどない金貨50枚ぐらいなのは1000回ですが」


 私達が攻撃するのは1討伐に50回ぐらい。

 となると金貨10枚の敵に対して儲けの半分はもって行かれる。

 金貨50枚の最高級品を買うのがお得なのは分かる。

 でも、今の懐具合では手が出ない。


 半分なら黒字だけど他にも消耗する品物はある。

 ポーションもだし。

 武器も消耗する。

 特にAランククラスのモンスターはどれも硬い。


 ミスリルの剣でもなきゃダメージは与えられない。

 ミスリルの剣は最低でも金貨100枚ね。

 そういう出費がどんどん嵩む。


 今ならやり直せる。

 収納魔道具を売れば良いんだわ。

 借金はチャラにできるからこれだけでも負担は減る。

 でもバイオレッティは耳を貸さないと思う。


 とりあえず、攻撃用魔道具は補充した。


「リーダー、節約しないと」

「何をだ」

「あらゆることをよ。宿の質から始まって武器の質。とにかく色々」

「俺達はAランクなんだぜ。みすぼらしい物なんか持てるか」


 パーティを抜けたいけど、借金の保証人になっているから無理。

――――――――――――――――――――――――

名前:マニーマイン

レベル:237/237

魔力:2177/2177

スキル:3/5

  俊足 65/65

  斬撃 58/58

  火炎剣 84/84

――――――――――――――――――――――――


 これが現在の私のステータス。

 新しいスキルが生える余地はあるけど、他はもう成長限界。

 スキルが生えなかったのは楽をしてきたからかも。

 でもいまさら愚痴を言っても仕方ない。


 おそらくAランクパーティで私を使おうという所はないはず。

 今の攻撃の仕方を変えて技を磨かないと駄目。

 分かっている。

 けど、いまさらよね。


 モールス様は私達を見限ったのかな。

 そうね。

 きっとがわだけ成長して、中身が成長してないのを見抜かれたのね。


 卵みたいな私達。

 そとがわは石みたいで硬く見えるけど、中は液体。


 シナグルを笑えない。

 ヒモの詐欺師で頑張っているシナグルの方が、確実に成長している。

 成長の方向は間違っていると思うけど。

 私達も間違った方向に成長したのね。

 嫌になる。


「リーダー、このままだと不味い」

「魔道具の数は揃った。別に良いだろう。このままで」


 あー、それじゃ駄目なのよと言いたいけど、言ったら絶対に喧嘩になるわね。


「みんなできちっと会計を付けて考えましょ」

「お前がやれよ」

「分かったわ。私がやる。でも書類はみんなで読んで」

「ああ」


 今回の魔道具10個の仕入れは金貨124枚。

 オークキングとオーク護衛の素材が21枚。


 くっ、これだけで大赤字。

 武器の手入れが金貨5枚。

 大きな修復ではないからこれだけで済んだ。


 宿代が1日金貨3枚。

 なんでこんなにお金が出て行くの。


 あー、金庫番であるバイオレッティは何も感じないのかしら。

 ギルド口座からパーティの資金が減っていくのが分かるはず。

 また稼げば良い。

 軽くそんなことを考えているのかも。


 みんなの目を覚まさないと。

 私は会計報告を纏めた。


 みんなでそれを読む。


「そうだな。マニーマインの危惧も分かる。稼げるダンジョンに入ろうぜ」

「えっ」


 バイオレッティはダンジョンを避けているとばかりに思ってた。

 ダンジョンの死亡率は外とは比べ物にならない。

 第1階層のボスがレッサードラゴンよ。

 今の私達にレッサードラゴンとやって勝てるかしら。


 でも収入が増えれば、事態が好転するかも知れない。

 そうね。

 ダンジョンは良いかも。

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