第34話 みんなが幸せになる道
Side:ヤルダー
街中を何かないかと歩く。
気をつけて観察すると、こんなにも色々な仕事があるんだな。
「お師匠様、浮浪児に出来そうな仕事はたくさんあります。なぜいけないのでしょうか。安くできると思います」
「そうなったらどうなりますか」
「ええと浮浪児が儲かる」
「それだけではないはずです」
お師匠様が悲しそうな顔をした。
何が悪かったのだろうか。
物作りじゃなかったからか。
いや、物作りでも同じことを言われた気がする。
よく考えろ。
とにかく考えるんだ。
例えば。
浮浪児が手紙配達人になったとする。
僕達はそれで良いかも知れないが、今まで手紙を配達してた人はどうなる。
仕事を失って食えなくなるんじゃないか。
仕事もそうだけど、物を作るのもそうだ。
やたらめったら作れば良いってもんじゃない。
仮に安く作れたとして、きっと恨みを買うだろう。
今まで調べたことをお師匠様に報告して考えを聞こう。
ヒントは出してくれないけど、何か言ってくれるはずだ。
「お師匠様、たくさん作っても誰も困らない物を作らないといけなくて、恨みを買うような仕事をしたらいけないのですね」
「そうね。迷惑を掛けたら、早晩、しっぺ返しされるでしょう」
考えは間違ってないようだ。
迷惑にならない物を考える。
あっても無くても困らない物がいいのかも。
そして、職人みたいな人が片手間でやっているようなこと。
片手間なら本業は無くならない。
そんな物があるかな。
街に再び出ると子供が石蹴り遊びをしてた。
懐かしいな。
僕もひもじさを紛らわせるためにやったりした。
食っていくのが精いっぱいだったから、そう頻繁にはできなかったけど。
石蹴り遊びに適した石を見つけるのが大変なんだよ。
これの取り合いで喧嘩になったこともある。
うん、懐かしい。
石を加工して売れば。
玩具が良いかも。
玩具専門の職人なんて聞かないから。
石で玩具を作る。
でも何を作ろう。
難しい加工は駄目だ。
子供じゃ出来ない。
答えが出たのにあと一歩が出ない。
「お師匠様、石から玩具を作ろうと思ったのですが」
「いいわね。それなら困る人もそんなに出ないでしょう」
やった、合格を貰えた。
ついて来なさいと言われて、向かったのはマイスト工房。
「こんにちは」
「おう、ヤルダーも来たか。答えは出たか」
「石で玩具を作る」
「まあ、合格点だ。だが、それ以上の計画は浮かばないって顔だな」
悔しいけどそうだ。
「ぐっ」
「そんな顔をするなよ。魔道具をひとつ作ってやろう。ラーラララ♪ラ♪ララ♪、ラー♪ラーラーラー♪ラーラーラーラ♪。ほらできた。起動してみろ」
言われた通りに起動すると鉄でできた円錐の物が落ちた。
「これが玩具?」
「ベーゴマだ。ひもを巻いて回すんだよ。やってみるからな」
シナグルがコマに紐を巻いた。
「ちっちのち」
シナグルがそう言ってコマを回した。
「うわ、回っている」
「例えばだな木箱に布を張る」
木箱に布が張られた。
そしてそのうえでコマがふたつ回された。
ぶつかり合い金属音を立てて弾かれるコマ。
「分かったと思うが、最後まで回っていた奴の勝ちだ。コマはみんな同じだから色を塗って識別するんだな」
「うん。でもこれの何が石なの?」
「地中に砂鉄はたくさんある。それを召喚してコマの形にしている。魔法のアイアンブリットと変わりない」
「なるほど」
この男は嫌いだが、少し見直した。
浮浪児が魔道具に魔力を込めて起動してコマを作ってもっていく。
僕達は木箱に布を張って、その上でコマを回して対戦した。
「それなに? 凄く面白そう」
「ベーゴマだよ」
さっそく食いついてきた。
「売って」
「1個、銅貨2枚だ」
「分かった」
子供は財布から銅貨2枚を出した。
これ一個売れば、パンが2個買える。
街の子供も交えて、夕方まで遊んだ。
次の日、遊びにきた街の子供は倍に増えていた。
また次の日は倍に。
ベーゴマを生み出す魔道具は僕が管理している。
でないと、たぶん浮浪児の誰かが大人に売ってしまう。
そうでなければ、取り上げられるに違いない。
僕は、いくらか魔法が使えるし、いざとなればお師匠様の名前を出せる。
あまり、こういうことでお師匠様の名前は出したくないけど。
「また欠けた」
ベーゴマのもととなった鉄が悪いのか。
遊んでいてよく欠ける。
欠けたら集めてくず鉄に売る。
誰も困らない。
「欠けたらバランスが崩れて上手く回らないから、新しいのを買ってね」
「お小遣い貰ってこよう」
「良い技を教えるよ。肩とか揉むとお駄賃に銅貨ぐらいはすぐに貰えるさ。皿洗いとかも良いかも知れない」
「やってみる」
こういう小技もあのシナグルに聞いた。
くそっ、なんで色々と知っているんだ。
お師匠様が良く言っている知識は力だと。
今ならその意味が少し分かる。
僕じゃ浮浪児を救えなかった。
石から玩具を作るアイデアを出したのは僕だけど、ほとんどやってもらったようなものだ。
「俺の魔力だと一日にベーゴマが3個作れるぜ。もう飢える心配はないな」
「ヤルダーには感謝しないとな」
「おう、俺達のリーダーだ」
こいつらを助けられたことだけでよしとするか。
浮浪児達の笑顔を見てたらどうでも良くなった。
ただ、もっと力をつけないといけない。
嵐のような事件が起こることがある。
その時に立ち向かえるように力を付けるんだ。
だけど、誰かを踏み台にした幸せは良くないし長続きしない。
ベーゴマで遊ぶ街の子供はみんな笑顔だ。
お小遣いをベーゴマで取られて悲しんでいる奴はいない。
みんなが幸せになる道を探し続けなきゃいけないんだな。
でないと、僕はお師匠様に悲しまれるような気がする。
そういう顔にはさせない。
よく考えるんだ。
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