第29話 疑念のフーガ

Side:マニーマイン


 私達のパーティ銀色の閃光に強制依頼がきた。

 レッサードラゴンが街道に出たらしい。

 私達が駆け付けると、シナグルが女3人に囲まれていた。


 あいつ、ヒモにでもなったのかしら。


「何でここにいるのよ」

「何ですかその目は? SSSランクのシナグルを目の前にして生意気過ぎます」


 魔法使いの女がそう私達を咎めた。


「いつから、シナグルがSSSランクになったのよ。SSSランクはモールス様ただひとり」

「だから、そのモールスが」

「マギナ良いから」


「あなたがSランクの殲滅のマギナ。なんでシナグルをそこまで持ち上げるのか知らないけど、この男は詐欺師よ」

「その言葉は聞き捨てならないな」


 女剣士がいちゃもんを付けてきた。


「あんた誰よ」

「ソルだよ」

「Sランクの一撃のソル」

「そうだぜ」

「あなたまであの男に騙されているの」

「ソルも良いから。マニーマイン、俺には構うな。銀色の閃光は下がっていろ。ソル、マギナ頼む」


「おうよ」

「はい」


「だから何であんたが指示しているの」

「SSSランクですから」


「あんたもSランク冒険者?」

「私は魔道具ギルドの職員です。うちのエースに何かあっては困りますから」

「ギルド職員は引っ込んでなさい」


「ピュアンナも下がって。俺は最後の切り札だから」


 ああ、そういうわけね。

 全滅しても切り札だと言い張って戦闘には参加しない。

 上手く言い包めたわね。

 まあ、いいわ。

 邪魔しないなら。



 レッサードラゴンが飛んできたのでマギナが前に出る。


「では」


 マギナが杖をトンと地面に打ち付けると。

 地面から蔦の様に石が生えて空中のレッサードラゴンを捕えて地上に墜落させた。

 無詠唱なんて初めてみたわ。


「よっしゃあ【一撃必殺剣】」


 ソルが一撃でレッサードラゴンの首を刎ねた。

 これがSランク。

 レッサードラゴンがまるで赤子ね。


 シナグルはどうやってこの人達を騙したのかしら。


「じゃあ、最後ぐらい俺が」


 そう言ってシナグルが進み出て、ドラゴンを収納した。

 なんであいつが収納の魔道具を持っているの。

 ああ、二人に貢がせたのね。

 Sランク二人の財力があれば、容易いことね。


 そして、討伐隊は街に凱旋した。

 冒険者ギルドの酒場では今日は冒険者なら無料で酒と料理を出すと看板が出てた。


 何もしなかったけど、戦力として参加したのだから、食べてもバチは当たらないわよね。

 本当に何もしない駆け出しとかも喜んで飲み食いしているし。

 シナグルも飲み食いしてた。

 この男、厚かましいわね。

 あなたは冒険者資格がないでしょうに。

 言ったら、ソルとマギナが睨むから言わない。


 さすがにSランクと敵対したいとは思わない。

 でも私達もそろそろSランクよ。

 その時は言いたい事は言わせてもらうわ。


「やっぱりシナグルがいると討伐の安定感が違うぜ。あたいの一撃必殺剣は外したらクールタイムが長いからな」

「ですね。シナグルがいれば、大魔法も撃てる。外したらシナグルが時間稼ぎしてくれる。ううん、きっと仕留めちゃうね」


 何を馬鹿なことを言ってるの。

 あの詐欺男にそんな実力などないのに。


「マニーマイン、不満そうだな」


 リーダーであるバイオレッティも私同様に不満な顔を隠さない。


「そうね。虫唾が走るってこのことね。Sランクには喧嘩は売れないけど」

「まあな。喧嘩沙汰で処分を食らうのは得策ではない。気にせず俺達だけで楽しもうぜ」

「そうね、あのSランク二人のテーブルから離れましょう。下座に着くのは嫌だけど、あの会話は聞きたくない」

「だよな」


 全く、なんでみんなコロリと騙されるのよ。

 納得がいかない。

 それより、モールス様から手紙も魔道具も届かない。

 そろそろ、魔道具の在庫が尽きる。

 でも、そうなったら、魔道具屋で買えば良いだけね。


Side:シナグル・シングルキー


 マニーマインはまだ俺が底辺だと信じているんだな。

 冒険者は副業だから、別に下に見られても構わない。


「飲もうぜ、飲もうぜ」

「ソルはちょっと飲みすぎ。飲み潰れたら運んであげないわよ」

「そん時はシナグルにお姫様抱っこして運んでもらうさ」

「えー、私、酔っぱらった。シナグル、お姫様抱っこで運んで♡」

「ずるいぞ。アイデアの横取りだ」

「ねぇ、早く♡」


「ソル、運んでやれよ」

「うしっし、あたいが運んでやるよ」

「酔いが醒めちゃった。ソルが酔ったら、私が魔法で運んであげるね。途中落とすかも知れないけど」


 なんだかんだで楽しいな。

 駆け出しも無料とあってここぞとばかりに飲み食いしてる。

 こういう雰囲気は好きだ。


「よし、俺からはカレーを差し入れするぞ」

「待ってました」

「カレー好きなのよね」


 ギルドの酒場の厨房にカレールーを届けた。

 そして10分ほど経ってカレーの良い匂いが立ち込めた。

 駆け出したちが目を輝かせて、出てきたカレーを凝視する。


 ご飯にカレーも良いけど、ナンみたいなパンともよく合うんだよね。

 ここはパン文化であるので、ナンみたいなパンも存在する。


 パンをカレーに浸して食べる。

 パンに練り込まれたバターとの相性もいい。


 マニーマイン達に目をやるとカレーを物凄い勢いで食べてた。


「このカレーはシナグルのおごりだ」


 マニーマイン達の手が止まる。

 そして恨めしそうな目つきをした。

 食べたければ食べたらいいのに。

 駆け出したちが凄い勢いでカレーを食べる。


 マニーマイン達は酒を飲むことで誤魔化そうとしたようだ。

 盛んに一気飲みしている。


 そんなんじゃ楽しくないだろ。

 無粋な奴らだな。

 自棄酒は体に良くない。

 もっとも別に彼らがどうなろうと構わない。

 たぶん駆け出しの誰かが宿に運ぶだろう。

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