第27話 この花を見れば頑張れる

Side:ネティブ


 神様のシーソーを操作することになった。


「よし、ラ♪と歌ったら短く、ラー♪と歌ったら長くだ。そして大事なのは故郷の花をイメージすることだ」

「はい」


「よし、行くぞ。ララララ♪ラーラーラー♪ラーラー♪ラ♪ラー♪ラーラーラー♪ララーラー♪ラーラ♪、ラララーラ♪ララーララ♪ラーラーラー♪ララーラー♪ラ♪ララーラ♪」

「あれっ、意外に難しい」

「失敗したか。まあ良い。魔石はまだある。もう一度だ」

「はい」


 何回かやり直して出来上がった。

 花瓶の形の魔道具を起動すると故郷の花の幻が現れた。

 そうだ、この花だ。

 涙が溢れてくる。

 人の前でみっともないと思うけど、溢れてくるのは仕方ない。

 ああ、いつか、休みが長く取れたら故郷に帰ろう。

 それまでは頑張る。

 この花を見れば元気が湧くさ。


「できたな。どうせお金は持ってないだろうから、今回はただで良い。次にここに来る時は金を忘れるなよ」

「はい」


 そして、きた時にくぐった扉を抜けると路地だった。

 今のは夢?

 頬を抓ると痛い。

 手には花瓶の形の魔道具がある。


 振り返ると扉は消えていた。

 あそこはきっと天界だな。

 マイスト工房って言ったっけ、覚えておこう。


 それから、寂しくなると幻の花を映し出しては、無聊を慰めた。

 ある日魔道具が壊れた。

 気は進まなかったが、もう来るなと言われたあの魔道具店に持ち込んだ。


「うん、見事な仕事だ。どこで手に入れた?」

「ええと、マイスト工房」

「道理でな。さすがSSSランクの仕事だ」

「マイスト工房ってこの世に存在するの」

「ああ、トレジャ国のロンティアという街の工房だ」

「あそこにまた行けるんだ。それで魔道具は直る?」

「ああ、溜石が割れている。寿命だな。取り換えれば問題ない」


 溜石が交換され、黄色い故郷の花が映し出された。


「これが、お前さんが探していた故郷の花か。地味だな」

「地味と言われようが、春になるとこの花が群生してそれは綺麗なんだ」

「そうか。まあ人の趣味にとやかくは言わないよ」


 それにしても、あの扉は何だったんだろう。

 神様が奇跡を起こしてくれたのかな。


「マイスト工房の話を聞かせてよ」

「核石ってのは壊れたらまず直らない。これを確実に直せるのは、マイスト工房にいるSSSランクのシナグルだけだ」

「へえ、まずってことは稀に直るのか」

「ああ、クラッシャーという魔道具を使うと稀に直る。見せてやろう」


 奥から道具が持って来られた。


「これだ。神様のシーソーだ」

「神様のシーソーねぇ。まあそうかもな稀に凄いお宝の核石ができちまう。神の奇跡ってわけだな」

「俺はこれで、この魔道具の核石を作った」


「ほう。お前さんが作ったのか。詳しく話してみろ」

「シナグルが歌を歌ってその通りにこの椅子を押すんだ」

「その歌はどんなだ」

「忘れた」


「使えない奴だな。秘術の一端でも物にできたら、お前さん、魔道具師としてSランクだぞ」

「いいんだよ。核石が壊れたらマイスト工房に持って行って直してもらうから。その時は絶対にどんなことをしてでも行く」


 何回も花を映し出した。

 多い時は一日に100回を超える。

 そして、ついに核石が壊れた。

 でもトレジャ国までは遠い。

 どうしよう。

 考えていたらあの路地を通りかかった。

 あの扉が出現しているではないか。

 急いで、花瓶の魔道具とありったけのお金を掴み、その扉に駆け込む。


「いらっしゃい。ええとネティブさんだったよな」

「ええ、核石が壊れた」

「核石の修理なら簡単だ」


 シナグルはそう言うと花瓶から核石を外して、神様のシーソーに載せた。

 そして歌って、あるタイミングで座席を一度押した。

 そして、核石が再びはめ込まれる。


「直ったよ」

「お金はこれで足りる?」

「ああ、足りるよ」

「嘘だ。こんなに安いわけない。最初に核石を作ったのだって金貨1枚は要るはずだ」

「材料費だけで別に良いんだよ。今回は手間賃を少し貰ったけど、貰い過ぎだな」

「ありがとう」


 シナグルは無理して安くしてくれたんだな。

 恰好を見ればそいつが金を持っているかは分かる。

 僕も店で働いて、そういうのが分かるようになった。

 なのでシナグルはそういう料金設定にしたんだな。

 いつか必ず返すよ。

 そのためには、店の仕事を頑張って独立させて貰えるぐらいにならないと。


 何かないかな。

 ポケットを探る。

 そういえばどこの国の硬貨か分からないお金を客が使った。

 店をやっているとそういうことがある。

 普通は両替商に持って行くことを勧めるのだけど、銅貨だったのでそこまでしてもらうのも申し訳なくて、僕がその銅貨を交換した。

 それがポケットに入っていた。

 コレクターにとってはお宝かも知れない。

 それを出すと、シナグルの目つきが変わった。


「どこでこれを?」

「客が持ってきたんだ。客も由来は知らないらしい」


 シナグルがそれを見て泣いている。


「これはニホンという国のお金だ」

「聞いたことはないけど、シナグルが生まれた国?」

「そんな感じだ。これを俺にくれるのか」

「やるよ。今までの足りない分には届かないと思うけど、また何か変わった物が安く手に入ったら持って来る」

「ああ。待ってるよ」


 誰にも故郷があるんだな。

 俺だけじゃない。

 みんな帰りたくて仕方なくても頑張っているんだ。

 俺も頑張らないと。

 もし俺みたいに心が折れそうになっている奴を見かけたら、マイスト工房があることを教えてやろう。

 シナグルならきっと心が慰められる一品を作り出すに違いない。


 神様は見ててくれる。

 シナグルの故郷のお金が彼に届いたように、良いことをしてれば良いことがある。

 僕もなるべく親切を心掛けよう。

 そういう積み重ねが大切なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る