ギャルっぽくないギャル。

キラが帰ってきたら、生気の抜けた顔で「ただいま…」なんていうから、うるふが何を教えたのか、大体わかった。


「うるふから裏の顔を教えてもらったな?」と、聞いたら、「あれが裏なんて信じたくない。」といい、俺の部屋にこもってしまった。


たしかに俺も『あの姿』を見たときは驚いた。

口から言葉という言葉が出ず、ただ呆然と立ち尽くしてしまっていた。

しかも小2の夏休み。俺の家でお泊り会をしていたとき、寝る前にふと見てしまった裏の顔。


うるふはいつから嘘をついているのだろう。

少なくとも小2の時点ではもう嘘をついている。自分の本性を隠している。

隠すということは、それが悪いことだと気づいているということ。

それに少なくとも小2の時に気づいた時点であいつはかなりの切れ者だな。


「はぁ…。」


考えれば考えるほど、うるふのことがわからなくなっている。


「ん…。あぁ。もうこんな時間か。」


現在の時刻は20:00

結局パンの耳ラスクは作る時間がなくて、台所はぐちゃぐちゃ。

正直なんにも作りたくないなぁ…でも…


キラの様子が気になる。

もし落ち込んでたらラスクを作ってあげよう。

食べ物で元気を出してもらおう。


そう思い、こっそり俺の部屋を覗く…って


「おぉぉい!?何やっとるんじゃぁぁ!?」

「んえ?何やってるって…小説見てるだ…」


キラが言い終わらないうちに、パソコンを取り上げた。


「えぇ?ちょっとパソコン返してよー!」

「返すかよ!?で、どこまで見た?」

「どこまでって…過去編まで見たかな…」


俺の小説には何本か小説がある。

過去編があるほど長い小説は一本しかない。


少女が一人の世界に取り残されてしまい、元の世界に帰る方法を捨てられた機械たちと一緒に探す…というストーリーの小説だ。

その話の過去編ってことは…37話中29話くらい見てる…


「結構見たな…。」

「ねぇ、小説書いてるってことはさ、小説家目指してるの?」


目指してる…って言われたらそうじゃない。


「いや。目指していない。。」


思い出したくないな。

大手企業から声がかかり、ウキウキと出版した本は全然売れなく、それ以降企業から声はかかることはなく、俺は小説を書くことを「趣味」と考えてしまっている。

一応仕事。だけど趣味。

意味がわからないから「引きこもりニート」として生活している。


「そっかー。色々あったんだね。」

「あぁ。『いろいろ』な。」

「んー。ここはもうちょっと…ここは理由を入れたほうが説得力が…。」


キラの手には俺のパソコン。

俺の手には猫のぬいぐるみ。


「…いつ取ったんだ!?」

「回想シーンのとき。」


くそっこいつの前で隙は出さないようにしよう。


「んー?ここは絶対会話が必要でしょ。うわっフラグ回収早すぎるだろ。オレでも無理だぞ。」


ボソボソと俺の小説に文句を言う。いや、捉えようによってはアドバイスだな。


「ねぇ。小説、もっと良くしたいって思ったことない?」


前からキラは話上手だと思った。

突拍子もないことを言うときが多々あるが、話してて飽きない。

それは、行動でも、話でも飽きないように工夫しながら、喜怒哀楽を表している気がする。


あくまでも俺の予想だ。

これが意図してやったものなのなら、すごいな、とだけ。

しかし…


「ここは主人公の戸惑いを表す文章を。うんうん…。いや、その言葉はふさわしくないよ。」


いつの間にか俺は椅子に座らせられ、アドバイスを淡々と受ける。


めっちゃ先生じゃん。

え、俺いつから家庭教師つけてもらった?


教え方が上手い。

最初から答えを教えるのではなく、俺に考えさせる。

それでもダメだったらヒント。それでもダメだったら答え+なぜそうなるのか。


こいつは…かなりの天才なのでは?

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