第一章

裏表友人。

朝7時。眠い目をこすりながらリビングへ行く。

「あー…。」

忘れていた。この家にはもうひとり住民がいたことを。

ソファで猫のぬいぐるみを抱きしめいて寝ているこの少女は悪楽あくらキラ(仮)昨夜、買い物に行った時に呼び止められて、半強制的にご飯を御馳走した。

その後、辛い過去を話してもらい、今に至る。二重人格者だ。

音を立てないようにして、朝ごはんを作る。

作るとは言っても、大層なことはせず、サンドイッチをお昼の分と一緒に作るだけだ。


食パンを二切れ取り、パンの耳を切る。このパンの耳は残してあとでラスクにする。俺の糖分補給のために。

ちょうど朝、実家からの仕送りが届いたので、その中に入っていた野菜を使わせてもらう。

ハム、レタス、マヨネーズを手に取り、皿を出す。ハムはそのまま、レタスは食べやすい大きさにカットして皿に置いておく。

次。

たまごを手に取り、皮を割り、温めておいたフライパンの中に入れる。

ジューと、美味しそうな音が鳴り響き、キラが起きてくる。

「むにゃぁ…あ、おはよ。」

「…よく寝れたか?」

「え、全然。ソファから何回落ちたことやら…。」

と、頭を抱え、はぁ。とため息をつく。

どうやら寝相が悪いらしい。まぁ、ソファだったら落ちるのも当たり前か。

そう思いながら料理?に集中する。

今作っているのはスクランブルエッグだ。そのまま食べても美味しいが、マヨネーズと合わせてパンで挟むと美味しい。

本当はお店で売っているような、ゆで卵を使ったものが良かったが、ゆで卵を作るのが面倒くさくてやめた。


お皿に盛り付けたものを、テーブルの上に置く。

3のパンを置き、キラを呼ぶ。

「今日の朝ごはんはサンドイッチかー!洒落てんなー」

「好きな具を挟んで食べてくれ。」

「わーい」

ウキウキとパンに野菜などを置く。


ピンポーン

来たか。

「ん?お客さん?」

「ちょっとお前に紹介したい人が居てな。飯で釣った。」

「魚かよ。」

キラのツッコミは無視し、足早に玄関へと向かう。

鍵を開けて、ドアを開けると、そこには糸目イケメンが居た。

「やっほーい」

「朝からテンション高いな。」

「歩風こそテンション低すぎない?」

「しょうがないだろ。がいるんだから…。」

「あー例の子?」

「うん。」

短い会話を交わし、部屋の中へと上げる。


「うまーって、誰?そこの糸目イケメン。」

サンドイッチを食べる手を止めて、俺の方を向く。

「今から紹介する。」

「どうもこんにちは!僕の名前は裏流狼うらるうるふと申します!歩風とは小学生からの仲で、ここのアパートに住んでいます!歩風に飽きたら僕のとこにおいで~いーっぱい楽しませてあげるからねー」

まーたろくでもないことを口にする…。


こいつは見た目はイケメンだ。

少しだけボサボサした髪の毛。前髪は右目あたりで上げていて、とても似合っている。イケメンだからこそできる髪型だと思う。

一番の特徴は糸目だ。

薄い笑顔を貼り付けてキラと談笑する。

ちなみにうるふはネット界隈で有名な配信者らしい。たしかにこいつに合っている職業だと思う。

こいつは嘘をつくのが得意だからな。


「キラ、うるふの言葉はあんまり信用しないほうがいいぞ。」

「え?なんで?」

「うるふはな…裏が…」

「はーい!お話はここまで☆早くご飯くれー!」

うるふは話を強引に終わらせて、俺に飯をねだった。

まぁいいや。じきに分かることだ。


「うまっこのレタスうんま!」

「それはよかった。」

うるふはもぐもぐとサンドイッチを食べる。

それに負けじとキラも、ものすごいスピードで食べる。ちなみにキラはこれで3個目だ。

「いやー。毎日こんなご飯が食べられてキラちゃんは幸せものだな〜!」

「羨ましかったら毎日来れば?みんなでご飯食べようよ!」

話がとんでもない方向に傾く。

こいつらは…引き合わせちゃマズい人種だったか。

「わー!みんなでご飯食べよー!いいよね〜?歩風??」

「ダメに決まってるだろ。金がないから1人でも危うい食費なのに+2人分ってキツすぎる。」

「…金があればいいんだな?」

「あ、あぁ。食材があれば何人増えても問題ないからな。」

うーん…なんか嫌な予感がする。

「…これで…どうですか?」

スマホが入るので精一杯なバッグの中に、ぎっしりと敷き詰められたお札。すべて一万円…ではなく、半分の5000円だった。

「は?」

あっけにとられる俺。

「これ、全部で10万円ほどあります。すべてスパチャで稼ぎました。」

最低だなオイ。

「は、はぁ…。」

「おーすごい。初めてこんなに5000円札見たー」

「どうです?これで満足でしょうか?」

金があればいいって言っちゃったもんなー。

しょうがない。腹をくくってここは承ることにしよう。

「…わかった。ただ、この手はもう使うな。俺のプライドがすべて崩れ落ちる。」

「りょーかいっ」

「わーいみんなでご飯だー!」


美しい容姿を持つ友人。

その裏は―――

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