二面性ギャル。

まさかだが…いや、そんなわけない。

それより…


「ホタル…。」


聞いたことない名前をこのギャルは言っている。

こいつはさっき、「悪楽キラ」と名乗った。

それがなんだ。急に「ホタル」と名乗って…。


「ほえー…?」


ポカーンとした顔をして、天井を見上げている。

なんか…既視感があるな。

うーむ…。あ、あれだ。

みたいな感じだ。


「な、なぁ。ホタル…?」

「え?ホタル…?さっき教えたでしょ?オレの名前はキラだよ??」


…は?わからない。わからないよ!!なにがあったんだ?この一瞬で。

頭を抱えるオレを見て、薄ら笑みを浮かべるキラ。


「うーん…まさかだけど…出ちゃった?」

「あれか?おばあちゃんみたいな口調になってるあれ。」

「そそ。隠すつもりだったんだけど…やっぱり無理だったな。」


1人で窓の方を観ながらなにかを思い起こすような表情をする。

俺のほうは決して見ようとしない。


「昔からこんななんだ。真逆の人格が出て。みんなから気持ち悪がられて、離れていっちゃう。」


すこしだけ微笑みながら俺の方を向く。

俺は今、どんな顔をしているんだろう。


「せっかく積み上げてきた物が一気に崩れ落ちた。最初は自分のことが二重人格だなんて思わなかった。思えなかった。…思いたくなかった。だけど、記憶がところどころなくなっていた。いつの間にか仲良くしていた人たちが、オレのことを「おばあちゃん」なんて呼び出して。最初はなんのことかわからなかった。」


過去を聞いているうちに、驚きよりも悲しみのほうが勝っていた。

だからギャルになって、みんなから好かれるように…。


「って…こんなこと、歩風くんに話してもなんもないよね。しかもさっき会った人に。」


なんにも悩んでいなさそう(失礼)なのに、常に周りを見て、引かれないように気をつけながら過ごしている。

誰かに言いたかったんだろう。

この痛みを。


「い、いや。色々教えてくれてありがとう。」

「こんなやつと、居たくない?」


俺の目を見つめてそんな事を言う。

俺は少し考え、


「居たいとは思わない。」

自分の気持ちを偽る必要はない。

正直な感想を言う。


「そっかぁ。そうだよねー。当たり前の反応だよ。」


でも。と、俺は付け加える。

「居たくないとも思わないさ。」


あくまで中立。

キラはそれでも充分だった。


「えっと…それってさ、もっとここに居ていいってことでおーけー?」

「…まぁ、行く場所が見つかるまでは、な。」


花が咲くようにだんだんと笑顔になってきて、

「じゃあ、行く場所がなかったら?ずーっと一緒にいてもいい?一生いていい?」

「それはやめてくれ。早く自分の行く宛を探せよな。」


スケールがデカすぎる。

捨てたつもりだと思っていた人との関わりは、心の何処かでまだ根強く生きていた。

これは情けというものか。どうしてもこのか弱い少女に手を差し伸べたくなる。


気持ちの整理のために一旦風呂に入る。

キラが、「オレが先に入る!レディファースト!!」

と、言ってきたが、無視して風呂に入った。


やるべきことは一通り終えた。

流石にカロリーが高すぎる夜。

眠気が襲いかかる。


「俺は寝る。キラはどうする?」

「オレも寝ようかな。今日は色んなことがありすぎて疲れたわ。」


そんな言葉をかわしながら寝室へ向かった。


「「あ」」


重なった声には。

どちらか1人、安眠できなくね?

という気持ちが汲み取れた。


何故か。答えは寝室にはベッドが一台。

これでおわかりだろう。どちらか1人がベッドで寝れない。

もちろんベッドは2人で寝れるような広さではない。


…別に、2人で寝れるような広さでも、添い寝なんて真似はしたくない。

やましいことなんてほんとうに考えていないぞ。本当だ。


「さーて。勝負といこうじゃないかー?」


俺の方を向き、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

俺は思った。

どれだけこいつは図々しいやつなんだと。


「おかしいだろ。ここは俺の家だ。家の主はここだ。」


と言い、自分の胸をぼん。と叩く。


「いやー。そ、それでも、こっちはお客…」

「いや。ただの居候だ。」


食い気味に否定する。キラは自分のことをお客だと思っていたのか。


「いやいや!ちゃんと許可は取ったよ!?ってか早くベッドを譲れー?」


しつこいやつめ、このベッドは譲らねぇ。

深夜のベッド争奪戦が今、始まった。


しかし、ベッド争奪戦は早々に打ち切られた。

…お隣からのチャイム連打のせいで。



ということで、俺と二重人格ギャルの楽しく、不思議で、ブラックな生活が始まった。

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