第4話
「なんだ」
父親の声。
「何が起ったんだ」
隣の部屋の親達が慌てて起きて来る。
真一は二人の部屋に飛び込んだ。
「あ、荒木さんの声だ。納屋にいたんだ」
「なんですって、エターナルの?」
母親の声が恐怖で引きつる。
「行かなきゃ」
布団から、飛び出す真一。
「待ちなさい」
捕まえようとする父親の手をかいくぐり、真一は外に飛び出した。
彼の眼に飛び込んできたのは――。
炎上する、納屋。
そして、火達磨になって納屋の周りをはじけるように動く小さい影。
「う、うそだ。あ、荒木っ」
近くの小川に誘導しようと、彼女に近づく彼を大きな手が羽交い絞めにした。
「やはり、知っていたな」
その声に、真一は凍りついた。
昨日の朝、声をかけてきた公安だ。
「やめてくれ、その子はなにも知らないんだ」
父親が公安の筋肉質の腕にとりすがる、そのとたん、ばらばらと飛び出した若い男達が父親をまるで布切れのように公安から剥がすと、太い棒でぼこっと音がするほど殴りつけた。
父親の口元から血飛沫が散り、そのまま空をきって地面に投げ出された。
「お父さん」
「あなたっ、私たちあの化け物とは関係ないんです。止めて、止めてくださいっ」
母親も駆けつけて来た。
「止めろ、悪いのは僕ひとりだ。お父さんとお母さんは関係ない」
真一は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶ。
自分はなんという事をしてしまったのだろう。
彼の頭の中には恐怖と後悔の嵐が吹き荒れる。
目の前で、炎に包まれた小さな人影が動きを止め、ばたりと倒れた。
そのまま固まりを包んだ炎は勢いを弱めることなく燃えさかる。
「全く、なんてことをしてくれたんだ」
公安の男は薄笑いを浮かべて、真一の胸倉を掴むと頭より高く上げ、そのまま乱暴に足の下にたたきつけた。
「お父さん、しっかりして」
痛みに全身を小刻みに震わせながら、なんとか立ち上がりうずくまる父親のもとに向かう真一。
そんな真一に再び殴りかかろうとした若い男の足に、母親がすがりつく。
「邪魔をするな、化け物を救おうとしたこの裏切り者どもめ」
男の手刀が一閃した。
ぼとり。
と、何かが母親の眼窩から落ちた。
母親の右目から吹きだす血潮。
「やめてくれえええええっ」
朝焼けを少年の叫びが切り裂いた。
「で、クイーンは見つかったのかね」
くるりと椅子を回して、カーキ色の服に身を包んだ青年が入口に立ちすくむ部下に詰問した。
「い、え……」
詰問する青年の中央から二つに分けられた眼にかぶさるくらいの長さの髪は白い。
そしてその下の鋭い眼光は髪を通してすらも、見るものに畏怖を感じさせた。
「担当者としての能力に欠けるものは、私の部下としては失格だな」
形の良い赤い唇がぐっと歪んだ。
「あの狡猾で下劣な化け物どもを殲滅するのが私達の役目だ、そして能力のない部下もな」
部下の顔にはびっしょりと汗の粒が浮かび上がる。
「お、お慈悲を」
部下の口から搾り出すような声がもれた。
「高村隊長」
それが、彼の最後の言葉だった。
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