第28話
「でも笹原先生はそれで実際言うこと聞いて良い大学に行ったんやろ? 親御さん厳しかったと思うけど笹原先生を思ってのことやろ?」
「安中先生も息子さんのこと叩いてるんですか?」
叩くわけないやん、という言葉は喉に引っかかって出てこず、首を横に振ろうとしたがなぜか動かなくて、笹原と視線がかち合ったままだった。私は間違った教育をしているわけではない。嘘をついて否定する必要はないのだ。
「家族ごとに教育方法は違うからええやん別に」
「息子さん、納得してるんですかそれ」
「なんなん急に食いついてきて。そんなんあんたに話す必要ある?」
笹原はわざとらしく眉間に皺を寄せて私を睨みつけた。演技臭いのが痛々しく思えて視線を落としたのに、私の視界はなぜか黒板を捉えていた。右頬が大量の細かい針で刺されているように痛くなってきた。笹原に視線を戻すと、彼女は左手を握ったり閉じたりしていた。ビンタされたことに気付き、体内から熱が滾ってきた。
「何すんねん」
「安中先生が息子さんにしてることと同じことです」
「はあ?」私は言った。「こんなんただの暴力やないか」
「違いますよ」笹原は手のひらに息を吹きかけた。「安中先生は息子さんにちゃんと勉強してほしいから叩くんですよね。それって教育のためですよね。私は安中先生に息子さんへの暴力を止めてほしいから叩いたんです。教育ですよ教育。これで言うこと聞いてくれますよね」
叩かれた頬は電気が走っているようなちりちりとした痛みが続いている。
「親子と他人では話が違うやないか」
「一緒です。私も安中先生も息子さんもみんな同じ人間で日本生まれの日本人で日本語を操る生物ですよね。そこまでカテゴリーが一緒なら親子も他人も大して変わりませんよ」
「そんなんただの屁理屈やないか。いい加減にせえよ。調子に乗って。何やのあんた、気持ち悪い」
「私の言ったことを屁理屈って言うのであれば、安中先生が息子さんを叩く理由も屁理屈ですよね」
「どこがやねん」
笹原は素振りのように手を動かしており、私は笹原の腕の可動域に入らないように後ろに退いた。
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