第3話:おまえは俺が守る。

「時乃は俺の親父「酒呑童子」の話をどこまで知ってる?」


「伝承にある話は、お爺様から聞いたことはあるけど、子供の頃だった

からあまり記憶に残ってないかな」


「そうか、じゃ〜俺がなんで封印されたかも含めて話してやる」


「平安時代の話だ・・・京の都は摂関貴族の繁栄の影で民衆の暮らしは厳しい

ものだったんだ。

大江山を棲家にしてた俺の親父、酒呑童子は、そんな王権に背き都から姫君

たちをさらっては困らせていた。


だが親父を退治するよう、お上から勅命を受けた源頼光は、藤原保昌や

家来の四天王「坂田公時、渡辺綱、卜部季武、碓井貞光」らと山伏に扮して

大江山にやってきて友好の印だと言って親父とと手下の鬼に酒を飲ませて

酔わせ、その隙に親父らを打ち倒した。

俺はその時、まだ未熟だったため捕らえられ封印されたんだ。

殺されなかったのはまだ俺が幼かったからだろう?」


「その後のことは俺は詳しく知らないが、俺を封印した金剛杵剛杵(こんごうしょを、おまえの叔父の先祖の誰かがこの蔵に隠したんだろう」

「どう言う意図があったかは俺は知らんがな・・・」

「後半は俺の想像だ・・・」


「そうなんだ・・・そんなお話だったんだね」

「今の話だと、やっぱり私のご先祖様の坂田公時さんも酒呑童子の討伐に参加

してたんだね」


「そう言やそうだな・・・これも何かの縁か・・・皮肉なもんだ。

打たれたものの先祖と打ったものの先祖がこうして相見えてるとはな・・・」


「だが、時乃が俺の封印を解いたことで、その影響だろう、大江山に住み着いてる

化け物どもまで復活させてしまったようだな」


「感じるんだ・・・大江山の憎しみの塊みたいな異様な空気をさ」


「え?そうなの?・・・なんでそんなことに」


「連鎖反応ってやつじゃねえか?」


「それが本当なら大変・・・どうしよう」

「化け物って・・・妖怪とか魑魅魍魎とかって人たちのことでしょ?」


「そうだな・・・人じゃねえけどな」

「そいつらが世に徘徊するようになったら地獄の扉が開いたようなもんだ」

「都はたちまち暗黒の世界に包まれるな」


「なんとかならない?」

「ならねんえな・・・一度でもそうなったらそいつら全員封印するのは至難の技だ」

「修行鍛錬を積んだ坊主でも苦戦するだろうよ」

「封印なんて悠長なこと、やってられねえ・・・全員ぶっ殺すしかねえな」


「阿須迦は戦わないの?」


「なんで俺が?・・・俺だってそいつらと同じ穴のムジナだぜ」


「でも、私のしでかしたことで、このまま放っていおけないよ」

「おまえのせいじゃねえよ・・・何も知らずにやったことだからな」


「でも責任感じる・・・」


「こんなこと、お願いできることじゃないかもしれないけど、私のために

化け物を退治してもらうって訳にはいかない?」


「おいおい、簡単に言ってくれるぜ」

「おまえのためだと?・・・俺がおまえにどんな義理があるんだよ」


「封印から解放して自由にしてあげたでしょ?」


「それを言うかよ・・・」


「ったく・・・」


「そんなに困ることでもあるの?」


「せっかく自由になれたのによ・・・また揉め事の尻拭いか?」


「お願い・・・私のためと思って」


「まったく女はいつでもそれだよ・・・そんな切なそうな顔でお願いされたら

断れねえだろうがよ」


「・・・・・・」


「分かった・・・分かったよ・・・協力してやるよ」

「まあ、どうせ暇だしな・・・」


「ありがとう阿修迦・・・」


「おまえが坂田 公時の子孫とはな・・・歴史が繰り返されるなら俺がおまえに

打たれることになるんだぜ」


「そんなこと・・・絶対ないから、私が修釈迦に勝てるわけないでしょ?」


「まあ、そうであって欲しいな」

「ああ・・・そろそと夜が白んできたか・・・」

「夜が明けるぞ・・・おまえは自分の部屋に帰れ」


「阿修迦はどうするの?」


「俺か?俺は、これからは人間の姿に化けて、ずっとおまえのそばにいるさ」

「今夜から俺がおまえの目になる・・・そしておまえを守る」


「もし、おまえが倒されたら俺はこの世から消え去ることになるからな」


「どう言うこと?」


「金剛杵の封印を解いた瞬間から、おまえと俺は精神的にシンクロしてるんだ」

「お互いの魂が結びついて切っても切れないようになったのさ」

「おまえが傷つけば、俺も傷つく」

「だから、おまえが死ねば、俺も死ぬ」

「逆に俺が死ねば、おまえも死ぬ・・・そういう運命で結ばれてしまったんだよ

俺たちは・・・」


「いいから・・・もう寝ろ」

「これから忙しくなるぞ・・・」


阿修迦はこれ以来、人間の姿になって陰に日向に目の見えない時乃を守りながら

大江山から現れはじめた化け物と対峙して行く。

それに加えて阿修迦を狙う人間も現れて、時乃とふたり化け物と人間との戦いの

渦中に身を投じていくことになる。


完。





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天翔ける鬼皇子と盲目の少女。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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