第5話
「じゃあな、昴。これ、来週まで借りていいか?」
「ああ、いいぞ。俺はもうクリア済みだし、ゲームは遊んでも減るものじゃないしな」
「ありがと。また明日学校でな!」
子供の成長は早いもので昴たちは小学生になっていた。進学すれば自然と友達も変わっていくわけで。放課後から遊んでいた昴は、日が落ちたのを合図に男友達の和樹と別れた。
家に帰り、手洗いうがいを済ませてリビングに行く。冷蔵庫から飲み物を出して準備万端。今日は漫画雑誌の発売日。今日の朝、お母さんに出かけるついでに買ってきてと頼んでいた。
先週の続きが気になる昴は、そわそわしながらリビングを探すがどこにもない。買い忘れたのかと思い、お母さんの部屋に向かう。
「お母さん、漫画って買ってきた?」
「買ってきたわよ。リビングに置いたんだけど、なかった?」
昴は首を横に振ると、もしかしてと呟いて駆け出した。向かったのは自分の部屋。勢いよくドアを開けると、そこにはアイスをつつきながら漫画を読んでいる七海がいた。
ベッドの上で足をばたつかせて楽しそうにページをめくっている。帰ってきた昴に気づくと、七海が振り向いてドアの方を見た。
「ふぁ、すばるんだ。おかえり」
「……おかえり、って。それ、俺が楽しみにしてたのに最初に勝手に読むなよ」
「いいじゃん、漫画は読んでも減るものじゃないし。あ、そうだ!」
不満そうな昴に、七海は嬉しそうにアイスを見せた。バニラアイスが白くて丸い餅生地に包まれている、かわいい猫耳が目印の雪丸だいふく。一箱二個入り。
しかし、目の前にあるのはいつもの白いものではなくピンク色の餅生地。猫耳は桜餅の葉っぱをイメージしているようで先がギザギザ。七海がいつものように遊んだようで、その猫耳は変形していてたれている。そのため、最初は猫だったはずなのに今はもう雪うさぎに近い。
「これねこれね、ひな祭り限定味の桜餅味なんだよ。もちろん、すばるんの分もあるよ」
七海はえへへと笑い、今日発売したのと言いながら一口食べた。おいしいようで幸せを噛みしめるように食べている。しかし、何かに気づくと慌てた様子で幸せをごくりと一気に飲み込んだ。
「あっ、でもすばるんのは一個だけだからね!」
「いや、別に俺はいらな……ん? 一個だけ?」
七海の言葉に疑問を感じた昴がキッチンに置かれている冷凍庫を開けると、そこには桜餅味の雪丸だいふくの山があった。それを見て昴はため息をつくと、がくりと肩を落として部屋に戻る。そんな様子の昴など気にせず、七海はのんびりと漫画を読んでいた。
「なあ、七海。自分の家みたいに使ってるけど七海の家は隣だろ。自分の家の冷凍庫に入れておけよ」
「私、すばるんのお母さんに自分の家だと思って過ごしていいって言われたもん」
「それは保育園の頃に七海の親の帰りが遅かったからで、今は一人で留守番くらいできるだろ。漫画は貸してやるけど、せめてあの部屋で読めよ」
昴は赤い屋根が目印の隣の家を見ると、向かいにある部屋を指さした。七海の部屋はあそこだろと指摘すると、七海はぷくーっと口を膨らませる。
「この部屋は私たちの秘密基地でしょ」
いつかの秘密基地、もとい空いていた部屋は昴が成長した時に使う子供部屋だった。段ボールはどこにもなく、今ではベッドに勉強机、本棚など、昴の持ち物が並んでいる正真正銘昴の部屋。
「いつも言ってるけど、この部屋は俺の部屋だっ!」
「いいじゃん、すばるんのケチっ!」
【KAC20242】泣き虫ななみと隣のおうち【一万文字】 ほわりと @howarito_5628
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