第31話

 大地を揺らし地鳴りを響かせ、まおと推しモンちゃんたちが津波のごとくミニドラちゃんの群れに突っ込む。



「ぎ、ぎゃおおっ!?」



 予想外の展開だったのか、クリスタルドラゴンちゃんもびっくりしちゃったみたい。


 そんな主を守ろうと、ミニドラちゃんたちが四方八方から飛びかかってきたんだけど、推しモンちゃんたちが蹴散らしまくる。



「きゅるるん!」

「ぎゃおぎゃお!」

「ぴきっ!」

「ごぶぶぶっ!」

「つっこめえぇぇぇぇっ!!! 敵は本能寺にありいいいいっ!」



《いや、どういうことだよw》

《魔王様が謀反した側で草》

《まおたん無双キターーーー!》

《どうなってんだこれwww》

《ミニサイズとはいえ、相手はクリスタルドラゴンだぞ!?》

《勢いに乗った魔王軍を止めることなどできないのだ!》

《むしろ勢いだけでどうにかしとるw》



「やもりん、やっちゃって!」

「くるぅ!」



 前に出てもらったのは、体が大きなやもりん。


 ミニドラちゃんの群れを切り裂いて、後続のまおたちに「道」を作る大事な役割。


 うんっ! いいよいいよっ! 


 クリスタルドラゴンちゃんまで、おおよそ10メートルほどだよっ!



「ぎゃぎゃおっ!」



 流石に危険を感じたのか、クリスタルドラゴンちゃんが動いた。


 まおの【キラキラ☆結晶】に似た攻撃を繰り出し、やもりんや他の推しモンちゃんたちを止めようとする。


 だけど──。



「はい! もっかい、やもりん!」

「きゅっ!」



 やもりんが舌を鳴らし、巨大な火球をぶっ放す。


 地面から突き出てきた結晶ごと、ミニドラちゃんを吹き飛ばした。



《ふぁあああああっ!?》

《やもりんのヘルファイアキタァァァァァ!!》

《大・爆・発www》

《いけいけやもりん!》

《いけいけ魔王様!》



 ミニドラちゃんの半分くらい吹き飛んだけど、クリスタルドラゴンちゃんは無傷みたい。


 だけど、ヘルファイアの衝撃でクリスタルドラゴンちゃんが一瞬怯んだ。


 チャンス到来!


 ここぞとばかりに一気に距離を詰める。


 残り5メートルくらい!



「ぎゅぎゅ……っ!」



 クリスタルドラゴンちゃんもめげない。


 ミニドラちゃんたちが折り重なって巨大な壁になって、立ちふさがる。


 スキルじゃなくて力技で止めてきた。


 流石にやもりんの足が止まり、続く推しモンちゃんたちの動きが止まる。



「ぎゃおっ!」



 そして、みんなの足が止まったところに結晶攻撃が──。



「ぴぎっ!?」

「ごぶっ!!」

「……っ! み、みんなっ!?」



 推しモンちゃんたちが弾き飛ばされた。


 やもりんやわんさぶろう、体の大きな推しモンちゃんたちは無事な様子。


 だけど、このままだと良いようにやられちゃう。


 む〜っ! ちょっと頭にきちゃったよ!


 推しモンちゃんたちを傷付けるのは許さないからっ!



「クリスタルドラゴンちゃんっ! これ以上はだめだよっ! やもりん! わんさぶろう!」

「きゅいっ!」

「わふっ!」



 最初にまおが、ミニドラちゃんの壁に向かって【どどんがどん☆】を放つ。


 続けてやもりんのヘルファイア。


 そして、わんさぶろうの連続爪攻撃、ジェノサイドクロー。



《おおおお!》

《ナイス連携!》

《さすまおだわ》

《息ぴったりで草なんだが》



 まおたちの連携攻撃で、ミニドラちゃんの壁が崩れはじめる。


 どかんばきん。


 ずどんぼかん。


 次々とそこら中で大爆発が起きて、もうわけがわからなくなってきた。



「……ふっふっふ……あっはっは! それそれっ!」



 何だかまおのテンションも大爆発!


 気持ちよくなってきたぁああああっ!



《魔王様、顔! 顔!》

《顔が極悪》

《大爆笑wwww》

《魔王様、自重してもろてw》

《これは間違いなく魔王だわ》

《スカベンジャーたちの視線が痛い・・・》

《四野見さんも唖然としとるwww》

《なんかうちの魔王がすんません》

《そらそうなるわなw》 



 そうして、ついにミニドラちゃんの壁が崩れ、やもりんが突破した。



「ぎゃおっ!」



 やもりんがクリスタルドラゴンちゃんの体に食らいつく。


 表皮が砕け、キラキラと結晶片が舞い散る。


 だけど、その表皮が次々とミニドラちゃんに変貌し、やもりんに襲いかかってきた。


 無数のミニドラちゃんにまとわりつかれ、やもりんの動きが止まる。



「や、やもりん!?」

「きゅう……っ」



 ああっ! 


 やもりんがやられちゃう!


 このっ! いい加減にしろっ!



「こらああああああっ! クリスタルドラゴンちゃん、だめっ! やめなさいっ! めっ!」

「……ぎゅっ!?」



 まおの声に、びくっとして動きが止まるクリスタルドラゴンちゃん


 同時に、やもりんにまとわりついていたミニドラちゃんも。


 ……あれ? 固まった?


 なんで?


 ええと……何だかわかんないけど、今がチャンス!!



 このまま一気に終わらせたい──けど、どうやってやろう?


 剥がれ落ちた表皮の破片がミニドラちゃんになっちゃうことを考えると、たくさん殴ったり爆発させたりは逆効果……。


 てことは、ここはやっぱりかな!?



「いくよっ! 喧嘩両成敗の【超・理不尽パンチ】じゃッ!!」



 まおの右手が青く輝く。


 魔力をカミソリのように鋭く尖らせる、必殺奥義。



《でたぁあああああw》

《魔王様、喧嘩両成敗って意味わかってんのかな?》

《むしろけしかけたのは魔王様なんだがwwww》

《とんでもない言いがかりwww》


「おりゃあああぁああっ!」



 ダダッと走って、やもりんの尻尾の力を借りて一気に跳躍。


 空中でクルッとひねりを入れて、クリスタルドラゴンちゃんの顔面にパンチをぶち込む。


 刹那、爆発。


 ガラスが砕けるような音。


 それを聞き届け、まおは華麗に着地。


 決まった……。



「ふっ、またつまらぬものを粉砕してしまったか」



 もうもうと舞い上がっていた砂煙がサアッと晴れる。


 まおの予想ではクリスタルドラゴンちゃんは、いなくなっているはずだったんだけど──。



「……ぐるぅ」

「うえっ?」



 まおの目に映ったのは、傷一つついていないクリスタルドラゴンちゃん。


 ウソでしょ!?


 これはちょっと予想外の展開!!



《うえええっ!?》

《冗談だろwwww》

《魔王様の一撃必殺のおくぎが効いてないだと!?》

《魔王様のおくぎ、敗れたり!》

《ありえねぇww》


「……どゆこと?」



 【超・理不尽パンチ】で倒れない相手はいない。


 だって奥義だし。


 なのに、表皮に傷ひとつついてないのはちょっとおかしい。


 あ、もしかしてスキルで防いだ、とか?



「……ん?」



 と、クリスタルドラゴンちゃんの周囲に、大きな水晶の破片が散らばってるのに気づいた。


 大きな水晶っていうか、クリスタルドラゴンちゃんの体っていうか……。


 もしかして、クリスタルドラゴンちゃんの体の一部?


 でも、ミニドラちゃんに変身しないな。


 破片が大きすぎるから?



「……ていうか、体小さくなってない?」



 クリスタルドラゴンちゃんをよく見ると、体がだいぶ小さくなってるような気がした。


 いや、確実に小さくなってる。


 だって、前はとなりにいるやもりんよりも大きかったけど、今はひとまわりくらい小さいし。


 ……もしかして、致死級のダメージを食らうと脱皮するとか?


 でも、そんなことある?



「よくわかんないけど、もう一発やって確かめてみよう!」


 

 実際やってみたらわかるからね!


 1回でだめだら2回やっちゃうもんね。


 2度あることは3度あるっていうし!


 ……あれ? 意味違ったっけ?



「おりゃあああっ! 【超・理不尽パンチ】ッ!」

「ぎゅっ!?」  


 すどん、と巨大な爆発が起き、クリスタルドラゴンちゃんが砕けた。


 巨大な水晶片が飛び散る。


 だけど──本当に脱皮するように、砕けた水晶の中から小さいサイズのクリスタルドラゴンちゃんが現れた。


 やっぱり予想通りみたい。



「まだまだっ! 【超・理不尽パンチ】ッ!」

「うぎゅっ!?」

「もう一丁! 【超・理不尽パンチ】ッ!」 

「きゅいっ!?」

「追加で大盛り【超・理不尽パンチ】一丁お待ちッ!」

「……きゅっ」



 脱皮を繰り返し、ついにミニドラちゃんサイズになっちゃった。



「きゅ、きゅ……っ」



 まおから逃げようとして足がもつれ、ころっと地面に転がってしまう。


 かわいい。


 ここまできたら、もう危険はないよね?



「……クリスタルドラゴンちゃん?」

「きゅっ!?」



 ミニクリドラちゃんがギョッとまおを見上げる。



「ちょっとおいたが過ぎたみたいだね?」

「きゅ、きゅうっ!?」

「うん! めっ! だよ?」

「きゅうぅ……」


《wwww》

《クリスタルドラゴンが落ち込んでて草》

《何このかわいいやりとりwwww》

《これ、やもりんのときと同じだw》

《超イレギュラーの都市伝説モンスターが怯えとるww》

《さすまおやで・・・》


「反省しましたか?」

「……きゅう」

「はい、じゃあ皆にごめんなさいして?」

「きゅう」



 ちびっこくなったクリスタルドラゴンちゃんが、推しモンちゃんたちに向けて小さく頭を下げた。


《いや、お母さんかよ》

《ちゃんと頭下げてて草なんだが》

《素直だねwww》

《これはかわいい・・・》


「……はい、というわけで、推しモンの皆! クリスタルドラゴンちゃんはみんなに迷惑をかけたけど、ちゃんとごめんなさいしました! この件はこれでおしまいです! というわけで、仲直りのよしよし」

「うっきゅう……♪」


《以心☆伝心が発動しました》



 あれ? 頭を撫でたら心を開いてくれちゃったみたい。


 えへへ、しかたないなぁ。


 キミは今日から──うん! 「ぴかどら」ちゃんね!



《お、おおおお・・・》

《さすまおだわ》

《クリスタルドラゴンの鎮圧成功したww》

《捕獲ともいうが》

《まさかクリスタルドラゴンすら相手にならんとは・・・》

《やっぱりどう考えても魔王なんだよなぁwww》



 クリスタルドラゴンちゃんが大人しくなってくれたからか、ミニドラちゃんたちもいつの間にか消えていた。



「まま、まお殿!」



 みのりちゃんがやってきた。


 その隣には、みろろんと四野見さんもいる。



「け、怪我はありませんか!?」

「大丈夫だよ。みのりちゃんは?」

「小生も大丈夫でござる。みろろん殿が守ってくれたので……」

「ぶもっ!」



 ムキッとマッチョポーズを取るみろろん。


 それを見てみのりちゃんが「尊氏!」と卒倒した。


 ミニドラちゃんに襲われていたスカベンジャーさんや四野見さんも無事の様子。


 うん、良かったね。



「ええっと……魔王様? こ、これはどういう状況?」



 四野見さんが、まおの周りにいる推しモンちゃんたちを警戒しながら、恐る恐る声をかけてきた。 



「そ、そ、そのおびただしい数のモンスターたちは一体……そ、それに、その小さなドラゴンは?」

「あ、気になっちゃいますよね? ぴかどらちゃん、かわいくないですか? 仲良くなっちゃったんですよぉ……えへへ」

「……え? ぴかど? 仲良く?」



 四野見さんが、折れそうなくらい首をひねった。


 一時はどうなるかとおもったけど、意外な出会いに感謝だね〜。


 四野見さんは理解できなかったみたいだけど、みのりちゃんは「小生もそう思うでござる!」とキラキラした目で賛同してくれた。


 この子、本当にわかってる!

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