第30話

 突如として現れた、SS級の都市伝説モンスター「クリスタルドラゴン」──かもしれない水晶ドラゴンちゃん。


 遅れて下層から逃げてきたスカベンジャーさんたちも、足を止めてドラゴンちゃんを見上げている。



「な、なんだこりゃ……」

「水晶の……ドラゴン?」



 彼らの瞳に浮かんでいるのは恐怖の感情。


 一方、まおとみのりちゃんはというと──。



「キラキラトカゲたん……はじめてみるモンスちゃんだぁ……」

「はわわぁ……水晶のモンスさんとか、かっこよすぎるでござる……経済的援助をしたい……」



 まぁ、大興奮だよね。


《あの、おふたりさん?》

《目が怖くて草》

《時と場所を選んだほうがいい気がするんだなぁ!》

《www》

《うん、間違いなく同類だわこのふたりwww》



 こんな綺麗なモンスちゃん、見たことない。


 どど、どうやったら仲良くできるかな!?


 なんていうかこう、生き物って感じがしないし……。


 やもりんには多少なりとも感情が見えたけど、この子には全くそれがない。


 だって、水晶だもん。


 う〜ん、都市伝説っていうくらいだし、お友達になるのは流石に難しいのかなぁ?


 なんて首を捻ってると、クリスタルドラゴンちゃんがぐぐぐっと身を起こす。


 体のあちこちから、パラパラと水晶の欠片が地面に落ちた。



「……ん?」



 異変が起きたのはそのときだ。


 クリスタルドラゴンの表皮から落ちた小さな結晶が蠢き出し、ミニサイズのドラゴンちゃんに変わったのだ。



「う、うわっ!?」

「小さなクリスタルドラゴン!?」



 それを見て、スカベンジャーさんたちが驚いた声をあげる。


 な、なんぞコレ!?


 ミニサイズドラゴン……ミニドラちゃん!?


 ちょっと待って!? 


 かわいすぎるんですけど!!!


 持って帰りたいっ!!!



「キィッ!!」



 そんなプリティなミニドラちゃんたちが、一斉にスカベンジャーさんたちに襲いかかった。



「う、うわああっ!?」

「こ、こいつ、すばしっこい!」

「まずい! 皆、地上を目指して逃げろっ!」



 四野見さんが慌てて全員を避難させる。


 だが、一度広がってしまった混乱はそう簡単に収まらない。


 一部のスカベンジャーさんは、なんとか上層に続く階段に向かって走り出したけど、多くの人たちが次々とミニドラちゃんの餌食になっていく。


 あわわわわ!?


 見た目は可愛いけど、やってることは全然可愛くないぞ!?



《これは地獄絵図・・・》

《やばすぎる! 魔王様も逃げて!》

《おいおい、こいつら他のモンスターも襲ってないか!?》



 ふと見れば、追いかけてきたコボルトちゃんやハーピーちゃんもミニドラに襲われている。


 Wikiに「クリスタルドラゴンは周囲の生き物に見境なく襲いかかる」って書いてたし、この子、マジのマジでクリスタルドラゴンじゃない!?



《どういうこっちゃ?》

《見境なしに襲っとるな》

《こりゃあ間違いなくクリスタルドラゴンだな・・・》

《こええええええ!!!( ゚д゚)》



 でも、どうして9号ダンジョンなんて比較的低レベルのダンジョンにクリスタルドラゴンが現れたんだろう?


 もしかして、他のダンジョンでも大量にモンスちゃんが現れてるのと関係してる?



「……いや、そんなことは今はどうでもいい」



 考えるのはあと。


 今やるべきことは、ただひとつ。



「みのりちゃん! みんなを助けよう!」

「……えっ?」

「このままだと、全員ミニドラちゃんに殺されちゃう! !!」



 それだけは絶対避けないと!


《え? え?》

《助けるって、そっちかいwww》

《やっぱり魔王様だなぁ》

《平常運転》

《スカベンジャー<越えられない壁<モンスちゃん》

《あの、魔王様? そこは建前でもスカベンジャーを助けるって言ったほうがいいのでは・・・》

《欲望に素直な子!wwww》

《魔王様は自分に正直なのである》


「みのりちゃん、ミニドラちゃんを見ても平気?」

「あ〜……ちょっと立ち眩みがします……」


 ううむ……ダメか。


 クリスタルドラゴンちゃんは平気みたいだけど、ミニドラちゃんは厳しいみたいだな。


 だけど、まおが目隠ししたまま戦うわけにもいかないし……。



「ええい、それじゃあ力技だっ!」



 指を掲げて【この指と〜まれ♪】を発動。


 ダンジョンの奥から、どすどすとみろろんが現れる。



「はわ〜〜〜っ!?」



 それをみるなり、目を輝かせるみのりちゃん。



「き、きき、筋肉マッチョのモンスさんキタでござる!」

「……ぶ、ぶもっ?」



 大興奮みのりちゃんに見つめられた瞬間、意気揚々とやってきたみろろんが、ぎくっとした顔をする。


 え? ど、どした?



「みろろん! みのりちゃんと一緒にいて!」

「ぶ、ぶぶ、ぶもっ!? ぶももっ!?」

「……え? 怖い? みのりちゃんが?」

「ぶ、ぶももっ!? ぶもっぶもっ!」

「みのりちゃんはすごくいい子だよ!? それに、今はやばいモンスちゃんが現れて緊急事態なんだ! お願いみろろん! みろろんと一緒だったら、みのりちゃん気絶しなくてすむし!」



 あんまり刺激が強かったら逆にイッちゃうけど。


 そこらへんは、いい塩梅でよろしくおねがいします!



《魔王様、しれっとみろろんと会話出来てて草なんだが》

《あわあわしてるみろろんかわいいww》

《しかし、渋谷20号のダンジョンボスも恐れるみのりちゃんって一体・・・》



 みろろんは、しばし悩んだ後、「ぶもっ!」と胸を叩き、みのりちゃんに「よろしくおねがいします」と言いたげに頭をさげた。


 うん、本当にいい子! あとでいっぱいナデナデしてあげるからっ!


 これでみのりちゃんも大丈夫。


 鼻から、つつっと赤いものが垂れてたのが気になったけど。



「あのモンスターはキミが呼んだのかい?」



 四野見さんが声を駆け寄ってきた。


 さきほどまで彼がいた場所に、ミニドラちゃんの破片が散らばっている。


 どうやら他のスカベンジャーさんたちを守っていたみたい。



「はい! ミノタウロスのみろろんです!」

「ミノタウロス……なるほどそうか、キミが噂の魔王様だったのか! キミの強さは神原から聞いてるよ!」



 え!? トモ様から!? 


 一体どんな話をしたんだろ?


 超絶にかわいいスカベンジャーさん……とか?


 やだ、はずかしい!



「魔王様、クリスタルドラゴン撃退に協力してくれないだろうか?」

「まおは魔王じゃないですけど、もちろん協力します!」



 モンスちゃんたちのためにね!



「よし! それじゃあ、僕と一緒に、ひとまずクリスタルドラゴンを下層に追いやって──」



 と、その時だ。


 四野見さんの言葉を遮って、まおたちの足元から鋭く尖った青白い結晶が突き出てきた。



「くっ!?」



 咄嗟にバックステップで回避する四野見さん。



「これは、クリスタルドラゴンの攻撃か!?」



 振り向くと、スリスタルドラゴンがこちらを見下ろしていた。


 どこかドヤってるような雰囲気がある。



「がおっ!」



 そんなクリスタルドラゴンが雄叫びを上げ、地面から結晶を発生させていく。


 猛烈な速度で尖った結晶が四野見さん……それに、みろろに守られたみのりちゃんやスカベンジャーさんたちに襲いかかる。


「あわっ……あわわっ!? 怖いでござるっ!!!」

「ぶももっ!!!」

「くそっ! 攻撃が速いっ!」



 みのりちゃんの足元から出てくる結晶はみろろんが全て破壊してくれているみたい。


 四野見さんは、焦りながらも華麗な身のこなしで結晶を完璧に避けていく。


 流石はBASTERDに所属するトップスカベンジャーさんだ。


 反応速度が桁違いっていうか。


 ……え? まお? 


 見事にクリスタルドラゴンちゃんの結晶攻撃を喰らいまくってるよ?


 だけど全くの無傷。


 だって、足元からズバッ、ズババッと結晶が突き上げてきてるけど、足に刺さる瞬間に砕け散ってるんだもん。


 必死に回避してる四野見さんの前であんまり言いたくないんだけど……これ、別に避けなくても良くない?


 というかこの攻撃、まおの【キラキラ☆結晶】と似てる気がする。


 配色はまおのほうがかわいいけど。


 そんなまおを見て、四野見さんとみろろんに守られたみのりちゃんが、不安げに声をかけてくる。



「ま、魔王様!? だだ、大丈夫ですか!?」

「まお殿!? 無事なのでござるかっ!?」

「え?」



 ズバッ、ズバッ。



「その、足元から結晶が!」

「足元足元!」

「ごめん、良く聞こえない!!」



 ズバッ! ズババッ!



《wwwww》

《魔王様?》

《え? もしかして気づいてない?》

《これ、魔王様の防御力が高すぎて結晶が破裂してるのか?》

《クリスタルドラゴンさん、ガン無視されてて草》

《可哀想》



 や、ガン無視してるんじゃなくて効いてないだけなんだよね。


 でも、なんでだろ?


 まおには全く効いてないけど、クリスタルドラゴンの結晶攻撃に四野見さんは防戦一方の様子。



「くそっ……これじゃあ近づけないな」



 一緒に下層に追い返そうと言ってたけど、かなり遠くに行っちゃった。


 四野見さんって接近戦タイプだし、あそこからじゃ無理かなぁ?


 う〜む。ここはまおがひとりでやるべきか。



「四野見さん! クリスタルドラゴンはまおが大人しくさせます! なので四野見さんは、みのりちゃんと一緒にミニドラちゃんを!」

「えっ!? ミニドラ!?」

「あ、う、ええっと……ちっちゃいドラゴンちゃんのことです!」



 ミニドラちゃんとか急に言われてもわかんないよね?


 ごめんなさい。



「わ、わかった! こっちは僕にまかせてくれ!」

「お願いしますっ!」

「キミも気をつけて!」



 大剣を構え、ミニドラちゃんに突っ込んでいく四野見さん。


 射程範囲外に出たのか、四野見さんを追っていた結晶攻撃が止んだ。



「……ぐるぅ」



 クリスタルドラゴンがまおを見る。


 というか、いつのまにか、まおの足元からも結晶が出なくなってる。


 意味ないって気づいたのかな?



「……さて、と」



 少々、思考タイム。


 四野見さんにまかせろってカッコよく言ったはいいけど、ここからどうしようかな?



《魔王様どうすんだ?》

《流石に苦戦しちゃうんじゃね?》

《魔王様が苦戦とかありえんwww》

《ここは【超・理不尽パンチ】を使ってワンパンで沈めてもろて》

《でも、理不尽パンチの射程に近けなくね?》



「ふ〜む……」



 問題はそこなんだよね。


 まおの必殺奥義おくぎ【超・理不尽パンチ】を叩き込むにしても、周囲のミニドラちゃんたちが邪魔で近づけない。


 かといって、クリスタルドラゴンに【キラキラ☆結晶】を使っても、意味なさそうだしなぁ。


 障害になるのはおびただしい数のミニドラちゃん。


 この中に飛び込めば、まおとて無傷ではいられない──かもしれない。


 言わば、交通量が多い道の横断歩道を赤信号で渡るようなもの。



「あ〜もう、めんどくさい!」



 考えるのがめんどくさくなっちゃったまおは、空に向かって指を掲げる。



「推しモンちゃんたち、全員集合だよっ!」



 【この指と~まれ♪】を発動。


 向こうが数で勝負するのなら、こっちも数でなんとかしちゃうもんね!


 すぐに、わらわらとまおの推しモンちゃんたちがそこかしこから集まってくる。



《そうきたかwww》

《うわあああああああっ!?》

《配下の推しモン大集合》

《すんげぇ数のモンスター来たんだがwwww》

《どっから来たwwwww》

《これはマジの魔王軍で草なんだ》

《え? これ全部魔王様の部下なの?》

《やべぇ数www》

《世界征服できんだろこれ・・・》



「えっへっへ……」



 素晴らしい光景に、思わず笑みがこぼれちゃう。


 だって、今までこんな数の推しモンちゃんたちを呼んだことなかったし。


 もしかして、ここが天国ヘブンってやつ!?


 幸運グッドラックダンスっちまいましょうかねぇ!!!



「……よおっし、いくよっ!!! みんなっ!!!!」



 気合を入れて、拳を突き上げる。



「赤信号、みんなで渡れば怖くないっ! それ、まおに続け~~っ!」

「がおっ!」

「ぴぎっ!」

「ごぶごぶっ!」

「ぶも〜っ!」

「わふっ!」



 クリスタルドラゴンちゃんに向かって……いざ、突貫っ!

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