第28話

 ちょっとしたハプニングはあったものの、みのりちゃんのトラウマ……【モンスターシンドローム】の克服方法がわかったのは収穫と言えるよね。


 方法は簡単。みのりちゃん好みのモンスちゃんに来てもらえばいい。


 まぁ、興奮ゲージが振り切れちゃうとだめだけど。


 「オスみ」(意味は不明)の強いモンスちゃんを同行させ、適度に興奮させることで気を失うことなく、探索を続けることができた。


 てなわけで、上層をクリアして中層に到達。


 中層も変わらず新緑が芽吹く森林エリア。


 代わり映えしない風景ってのもあるけど、みのりちゃんの【下剋上】スキルの効果もあって探索が順調すぎて、ちょっとだけ配信がマンネリしてきちゃった。



「というわけで、ここからはクリエイティブ配信にします! どどん!」


《どどんww》

《なんだどうした》

《いきなりブッコミきたああああ!?》

《何だか知らんが、とにかくよし!》

《クリエイティブ?》

《笑いをクリエイティブするの?》

《もうしてる定期》


「ちがうから!」



 笑いをクリエイティブなんてした記憶ないし!


 というかこの流れ、配信の定番になってきてるよね……。


 何ていうんだったっけ、こういうの?


 風物詩? 


 趣がある?



「いきなりどうしたんでござるか? まお殿?」



 キョトン顔でみのりちゃんが尋ねてきた。



「ほら、探索も順調だし、みのりちゃんのトラウマもなんとか克服できそうだし、ここいらでみのりちゃんにちょっとしたプレゼントを贈ろうかなって」

「……ふぁあああっ!? プレゼント!?」 



 素っ頓狂な声をあげるみのりちゃん。



「も、もも、もしかして……大魔王オーディションの合格記念的な!?」


《うそだろw》

《うおおおお! みのりちゃん、大魔王軍合格じゃあああ!》

《異論はないよ。みのりちゃん、かなりいいキャラだしな》

《てか、オーディション一人目にして合格者!?》

《他の書類選考通過者はどうすんだww》


「あ、ごめん、そういうわけじゃなくて、オーディションに参加してくれた記念品みたいなものだよ。プレゼントって言っても、そんな大したものじゃないし」



 まぁ、まおとしては合格者はみのりちゃんでオッケーなんだけどね?


 でも、ひとりめで決めるのは流石に他の希望者に悪いし、正式発表は全員にちゃんと会って、あずき姉の意見も聞いてからかな。



「それに、まおって前々からクリエイティブ配信したかったんだよね。だって頭良いアピールができそうじゃない?」

「た、確かに! さすがまお殿!」



 ぱちぱちと手を叩くみのりちゃん。


 えへへ。ありがとう。


 この子、本当にいい子だなぁ。


《動機が草なんだが》

《アピれるかもしれんが、それを口で言っちゃったら元も子もない》

《逆に頭悪そうww》

《さすまおだわ》



 そこ、シャラップ!


 こういうコメントをさせないためにも、クリエイティブ配信って重要だと思うんだよね! 


 すごいところを見せつければ、バカにされることもなくなるだろうし。


 というわけで、早速アイテム生成しちゃいます。



「まお殿のアイテム生成、すごく楽しみでござる! ぜひ実況解説付きでみたいでござる!」

「わかったよ、みのりちゃん!」



 この子、ビギナーなのにわかってる!


 そういうの、重要だよね!



「ええと、他の生産スキルはどういうふうに使うのかはわからないけど、まおの【あたし好みにな〜れ】は、まず頭の中で完成イメージを作ります。生成されるアイテムはイメージ通りのものになるからね」

「なるほど……」


《え?》

《イメージてww》

《いやいやwww》

《その時点でおかしいw》

《普通アイテム生成って、アイテムのレシピ本を呼び出すところからだよな?》

《だな》

《リストの中から作りたいアイテムを選んで、必要素材を探すのが普通だと思うけど・・・》



 え? そうなの?


 なにそれめんどくさ。



《レシピ本がないなら、どうやって必要な素材を調べるん?》


「え? イメージしたものを作るために必要な素材はスキルが教えてくれますけど?」


《スキルが教えてくれる》

《グー◯ル先生かよwwww》 

《高性能AIで草》

《なんて便利なスキルだw》

《やっぱり生産メインでやってるチームが絶対欲しくなるスキルだな》


「……?」



 なんだかコメント欄が騒いでるけど、よくわからん。


 とりあえず、みのりちゃんに贈るプレゼントを想像しよっと。


 可愛いみのりちゃんにピッタリのピンクの宝石がついた指輪がいいかな。



《フェアリーリングを作るために必要な素材は「マンドレイクの株」がひとつです》



 すぐに【あたし好みにな〜れ】が素材を教えてくれた。


 ふむふむ。


 イメージした指輪は「フェアリーリング」ってやつか。


 必要素材は「マンドレイクの株」……。


 あ、その素材なら前にトモ様と100チャレしたときに拾ったやつがあるな。



「どうやら素材を取りに行く必要はなさそうです! すでに持ってました!」


《てってれ〜ん♪》

《なにこのご都合展開www》

《さすまおだわ》


 というわけで、腰のポーチから素材を取り出す。


 ちなみにこのポーチって、ダンジョンにはじめて潜ったときにもらえるやつで、素材とかアイテムとかなんでも収納できるんだよね。


 もちろんダンジョンの外に持っていくことはできないけど。


 マンドレイクの株を手にとって、スキルを発動させる。


 すると素材がキラキラと光出して、やがて小さな指輪へと変わっていく。



「……はい、できました。フェアリーリングです」

「うわぁああああっ!? かっ、可愛いっ!!」



 指輪を見て、可愛らしい笑顔を覗かせるみのりちゃん。


 指輪も可愛いけど、みのりちゃんも可愛い。



《ファッ!?》

《( ゚д゚)!?》

《ちょま》

《うわあああああっ!?》

《まじかよ!?》

《フェアリーリングだと!?》

《体力自動回復効果があるっていう激レアOP指輪だよな!?》

《30号レベルのダンジョンのルート品ドロップで小数点以下の確率》

《絶対出すのムリじゃんwwww》

《実物初めて見たんだが》

《ダンカリで最後に取引されてるの35万だぞw》

《草草草》

《ま、まぁ、驚かないけど?》

《これ、市場大暴落すんじゃね?》

《魔王様、ダンカリの取引相場までワンパンできて草なんだが》



 35万円とかそんな馬鹿な。


 だってこれ、マンドレイクの株で作れるやつなんだよ?


 みのりちゃんにお似合いの可愛い指輪だけど、絶対そんな高くないよ。


 どうせ名前が似てるヤツと間違えてるだけでしょ。


 ホントにもう。


 魔王軍のみんなって、そそっかしいというか。


 もっとしっかりしないとだめだぞ?



「というわけで、はい、どうぞ」



 みのりちゃんに指輪を渡す。



「オーディションに参加してくれてありがとうね。みのりちゃん」 

「あ、あ、ありがとうございます、まお殿! これは小生の宝……いや、湯川家の家宝にさせていただくでござるよっ!」

「家宝って。あっはっは」



 何いってんだワロス。


 だって、みのりちゃんの家って超すごい名家なんだし、これくらいの指輪なんて毎月のお小遣いでも買えるでしょうに。


 表参道とかに並んでるブランド店に行って「このウインドウのここからここまで包んでくださる?」とか言っちゃってるはずなのに大げさだなぁ。


 でもまぁ、喜んでくれてるならプレゼントして良かった。



「……よし、そろそろいい時間だし、上層に戻ろっか」



 みのりちゃんの家も門限ありそうだしね。


 ウチは門限破ったらお母さんが魔王になっちゃうけど、みのりちゃんのところも相当きびしそうだ。


 帰りはわんさぶろうに送ってもらおうかな。


 そう考えて、【この指と〜まれ♪】を発動しようとしたとき。



「……うわっ!? な、何事!?」

「わ、わわわ!? じ、地震でござるかっ!?」



 まおたちがいるダンジョンが、突然激しく揺れはじめた。

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