第27話

 赤スパ祭りも落ち着いたので、ようやく上層探索をスタート!


 ちなみに、ダンジョンに入ってみのりちゃんの服装は天草高校の制服からスカベンジャーの装備に変わっている。


 革鎧に小さな盾、それにダンカリでも安価で取引されてるレアリティが低い一般的な剣……。


 まさにスカベンジャーをはじめたばかりのビギナーって感じだ。


 でも、みのりちゃんはご令嬢様なんだし、お金を出せばもっといい装備でダンジョンに潜れると思うんだけどな。



「ねぇ、みのりちゃん、お小遣いで良い装備買ったりしないの?」

「はわ、はわわわ……憧れのまお殿と……一緒にダンジョンにいる……召されそう……」  



 みのりちゃん、完全に上の空である。



《wwww》

《みのりちゃん、がんばれ!》

《あわあわしてて可愛いw》



 さっきまで余裕な感じだったけど、探索を開始してからこんな感じなんだよね。


 ちょっとだけ心配。



「み、みのりちゃん大丈夫? もうすぐモンスちゃん出て来ると思うけど……」

「……っ! へ、へへ、平気でござるよ!」



 ギュンッと高速でこちらを振り向くみのりちゃん。


 だけど、その目はぎゅっと閉じられていて。



「こうすればモンスターを見なくていいので!」

「……でもそれじゃ、危なくない?」 



 モンスちゃんと戦うどころか、歩くこともままならないと思うんだけど。


 あ! ほら! 躓いて転びかけてる!


 し、心配だ……。


 まぁ、いざとなったらまおが【以心☆伝心】で仲良くなっちゃえばいい話なんだけど、いつもどうやってダンジョン探索してるんだろ?



「むむっ! 気をつけてくださいまお殿! モンスターの匂いがするでござる!」



 みのりちゃんが目を閉じたまま、くんくんと鼻を動かす。


 犬みたいで可愛いな。


 なんてほんわかしてたら、木陰からイタチのモンスター「エオリル」ちゃんが飛び出してきた。


 つぶらな瞳でこちらをジッと見てる。


 うふふ、可愛いなぁ。



「まお殿、ここは小生におまかせを!」



 みのりちゃんがフンスと鼻を鳴らす。



「小生があのモンスターを倒します!」

「えっ? ほ、ほんとに大丈夫?」

「ええ、問題ありません! 匂いがする方向に……お、おりゃ〜〜〜〜っ!」



 みのりちゃんが剣を構えてエオリルちゃんに突っ込んでいく。


 もちろん目を閉じたまま。


 だけどちゃんと居場所はわかってるみたい。


 ホントにワンちゃんかな?



「キ……キキッ!?」



 びっくりしたのか、エオリルちゃんの動きが止まった。


 奇声を上げながら猛ダッシュされたら、そら驚くよね。


 もしかして「すごい怖いから逃げたほうがいいかも」と思ったのかもしれない。


 エリオルちゃんは一瞬ためらって、みのりちゃんに飛びかかった。



「キィッ!!」

「むむっ!? モンスさんの声!? そこでござるかっ! そおぉぉぉおいっ!」



 振り下ろしたみのりちゃんの剣がエオリルちゃんに直撃。


 小さな悲鳴とともに、光の粒になって消えていく。



《すげぇwwwwww》

《匂いと音で仕留めたんだが》

《一撃だし、意外とみのりちゃんってば強い?》

《もしかしてこの方法でいつもダンジョンに潜ってるとか?》

《初心者なのに縛りプレイしてて草》

《違う意味の縛りプレイ好きそうだしな》

《おいwwww》



「す、すごい! 目を閉じたままモンスちゃんたちを撃退しちゃったよ!」

「はぁはぁ……これくらい、朝飯前でござるよ」



 爽やかにサムズアップするみのりちゃん。



「だけど、いつもより体の動きが良いでござる! これは間違いなく、まお殿のおかげでござるな!」

「……え? まお?」



 なんもしてないけど?



「実は小生、【下剋上】というスキルを持っておりまして、周囲のスカベンジャー殿との能力差が多ければ多いほど強くなれるのでござる!」

「……おお!?」



 つまり、まおとみのりちゃんのレベル差がすごいから、いつもより強くなってるってことか!


 何それすごい!



《wwww》

《ヤバいスキルをお持ちのようでww》

《ずるいwwww》

《超高レベルの魔王様との相性抜群じゃん》

《魔王様の右腕確定キタアアア!》

《頑張ったね、みのりちゃん! ¥5000》

《四天王入りおめ! ¥12000》



 さらっとスパチャやめい。


 ありがたいんだけどね。えへへ。



「ちなみに、小生、もうひとつ【モンスターシンドローム】というスキルも持っているでござる」

「おお、なんか強そうな名前! どんな能力なの?」

「モンスターを見ると気絶するって能力でござる」

「ん! ん〜……?」



 全然強くなかった。


 むしろ弱くなってるし。



《てか、さらっとスキル複数持ちなのねwwww》

《有用なスキルじゃないけどな・・・》

《初探索でモンスターに殺されかけてスキルを新しく習得したってこと?》

《後からスキル習得するとかあるん?》

《基本無いな》

《おれ、初探索でリセット食らったけど、もらわなかったよ(´;ω;`)》

《おおう・・・》

《涙拭けよ・・・》



 ふ〜む、どうやらモンスター恐怖症の正体がそれっぽいな。


 しかし、【モンスターシンドローム】かぁ。


 みのりちゃんに求めてるのは強さじゃないから【下剋上】はどうでもいいけど、【モンスターシンドローム】はどうにかしたいところ。



「まぁいいや。みのりちゃんの強さは置いといて……その【モンスターシンドローム】の克服をがんばってみよう! とりあえず目を閉じずにモンスちゃんを見て、少しづつ慣れていこ?」

「はいっ!」



 笑顔でピッと手を挙げるみのりちゃん。


 いい!


 この笑顔、守りたい!



《あの、魔王様? 強さは置いとかないでもらえますか?》

《魔王軍なんだから強さは重要だろwww》

《ある意味破壊的な強さだけどな、みのりちゃん・・・w》

《キャラの濃さは間違いなく一位》



 しかし、モンスちゃんに慣れていこうって言っても、いきなり野良モンスちゃんでやるのは危険かなぁ?


 さっきのエオリルちゃんみたいな可愛いモンスちゃんだったらいいけど、ちょっと怖い見た目のが来ちゃったら気絶しちゃいそうだし。


 ここはかわいい推しモンちゃんから始めたほうがいいかも。


 というわけで、【この指と〜まれ♪】で呼び出してみた。


 一番怖くなさそうな見た目をしてる、歩きキノコの「エリンギ」ちゃんだ。


 ダンジョンの奥から、ひょこひょこと子供くらいの大きさのキノコちゃんが歩いてくる。



「どうかな、みのりちゃん? この子はまおが呼んだエリンギちゃんなんだけど、これくらいなら平気?」

「い、いえ、ちょっとめまいが……」



 すでに顔が青くなってる。



「ですが、これくらいだったら、何かするようなことがあれば耐えられる気がするでござる……」

「興奮……あっ」



 わかった! きっとあれだな!


 脳内麻薬のあどれら……あど……あどれら。


 あどばり……えっと、なんだっけ?


 とにかく、それをドピュドピュ分泌できるようなことがあればイケる感じだね!



「よしきた、みのりちゃん! まおにまかせて! で、何をしたらいい!?」

「エッチな感じのオスみがあるモンスさんをお願いしますっ!」

「……エッ!?」


《wwwwww》

《エッチなオスみwww》

《いいぞもっとやれ》

《あ、わかった! この子、色々残念な人だ!》

《可愛い口からエッチなオスみとか、背徳感ぱねぇなw》

《みのりちゃん背徳感がすごい》

《み背す》

《み背すwwww》

《盛り上がってまいりましたwwww》

《てか、あずき姐といい、魔王様の周辺って面白キャラしかいないのかよwwww》



 ちょ、ちょっと待って。


 エ、エッチなオスみって、どど、どういう意味!?


 雄のモンスちゃんを出せばいいってことかな!?


 ええっと、たぶんそうだよね!?



「え〜と、じゃあ……みろろん! かむひあ!」

「ぶもっ!」



 どすどすとみろろんがやってくる。


 それを見たみのりちゃんは──。



「……んあああああっ! カッコいいぃいいぃい!! 圧倒的感謝っ!」



 感謝しちゃった。


 でも、【モンスターシンドローム】の効果も発動してないみたい。


 おお、これは行けるのでは!?



「まお殿、もっとです……もっとオスみのあるモンスさんを呼ぶのです!」

「おっけ!」



 さらに、キングゴブリンの「ごぶたろう」も呼んじゃう。


 この子は表参道10号で仲良くなったんだけど、みろろんに勝るとも劣らないくらい、筋肉マッチョさんなんだよね。



「はぁはぁ……」



 恍惚とした表情のみのりちゃん。



「ふ、ふたりとも……いいっ……実にけしからん……でござる」  

「ぶ、ぶも〜……?」

「ご、ごぶ……?」



 何かを察知したのか後ずさるみろろんとごぶたろう。


 みのりちゃん目が完全に据わっちゃってるし、流石にちょっと怖いかもしれない。



「あ、あの、みのりちゃん、みろろんとごぶたろうに何をしてもらえばいいかな?」

「相撲」

「相撲」



 え? 何で?


 何を求めていらっしゃるの?


 ん〜と……よくわからないけど、みろろんとごぶたろうに軽く相撲をしてもらう。



「……」



 がっぷり四つで相撲をはじめるモンスちゃんたちを冷めた目でみつめるまお。


 だけど、みのりちゃんはそれがすごくよかったらしくて。



「んはぁ、んはぁ……」



 顔を真っ赤にして大興奮していらっしゃるご様子。



「こっ、ここっ、これはたまらんでござる! 雄々しいモンスさんの筋肉と筋肉が激しくおしくらまんじゅうして……どど、どうしよう!? どこに課金すればいいのかな!? ああもうだめだ、天に召される我……っ! はうっ! 小生、尊死っ!」

「うえええっ!? み、みのりちゃん!?」



 突然パタッと倒れちゃった。


 だっ、だめだ〜っ! 


 やっぱり【モンスターシンドローム】の効果が発動してしまったっ!



《大草原》

《腹いてぇwww》

《みのりちゃん、ファンになりましたw》

《みのりちゃん・・・》

《この子、腐ってやがる・・・》

《早すぎたんだ・・・》

《やめいwww》


「み、みのりちゃん……」



 だけど、気を失ったみのりちゃんってば、すんごく幸せそうな顔をしていて。


 うう、そんなにモンスちゃんのこと、好きなんだね……。


 合格っ! オーディションは合格だよっ!


 むしろこっちからお願いしたいくらい!


 まお以上のモンスちゃん愛……しかとこの目に焼き付けたよっ!

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