第25話
地獄の書類選考が終わった次の日。放課後。
まおは新部室のこたつに足を突っ込んでへばっていた。
主な原因は寝不足と精神疲労。
だって、書類選考だけであんなに大変だったのに、リアルで会ってひとりを選ぶなんて、心労でなけなしの身長がすり減っちゃうよ。
あずき姉の話では、候補者と一緒にダンジョンに潜ることになるみたいなんだけど、ホント先が思いやられる。
書類選考を通過した候補者の実績を見ると「大久保11号クリア」とか「荻窪7号ソロRTA記録保持者」とか、凄そうな人たちばっかりだったし。
これ、まおなんかが偉そうに選んで大丈夫なのかなぁ?
あずき姉は「ピンとこなかったら知名度で決めるのも手」とか言ってたけど、そういうのはあんまりやりたくないんだよね。
だってほら、なんかガチ感があるっていうかさ?
別に大魔王軍を有名にしたいとか、これっぽっちも思ってないし。
むしろ、有名になってほしくないし!
勘違いしないでほしい。ノリノリでオーディションやってるふうに見えるけど、大魔王軍なんてやりたくないんだからね!?
ホントだよ!?
「……てか、あずき姉まだかな?」
こたつの天板に顎をのせて、何気なしに時計を見る。
今日、ひとりめの同行者さんをあずき姉が連れてくるらしいんだけど、帰宅が遅くなっちゃうとお母さんに怒られちゃうよ。
ぶちキレたまおのお母さん、マジで魔王だからなぁ……。
「おまたせ〜」
などと考えていたら、白衣を着たあずき姉が現れた。
これが普段の教師スタイルなんだけど、いつもこの格好で登場して欲しい。
「ちょっと遅いよあずき姉。帰りが遅くなっちゃうとお母さんにぶっ飛ばされちゃって──ふぇ?」
変な声が出てしまったのは、あずき姉が可愛い女の子と一緒だったから。
一瞬、ちずるんかなと思ったけど違うみたい。
背は、まおやちずるんと同じくらい小さくて、お目々がくりっとしてる。
肩くらいまで伸びてるツヤツヤの栗色の髪。
ピンクのリボン。
どこかほんわかした雰囲気が出てる。
かっ、可愛い。
てか、誰だろう。天草高校の制服を着てるから、同じ学校の生徒なんだろうけど……。
「ちょ、ちょっと待って、あずき姉?」
「あずき先生な」
「そ、その可愛い子、誰?」
「ふっふっふ……良くぞ聞いてくれた」
あずき姉が不敵に片頬を吊り上げる。
「この子こそ、スカベンジャーチーム大魔王軍の応募者にして、我がダンジョン部の入部希望者、みのりちゃんだっ!」
「……おおっ!?」
その子が!?
てか、入部も希望してるの!?
あずき姉に紹介されたみのりちゃんは、しばらくあわあわしてから、素早い動きでギュンッと120度くらい頭を下げた。
可愛い。
「は、はじめまして、まお殿! 小生、湯川みのりと申す者でござる!」
「おお〜! 湯川みのりちゃ……んん?」
ん、待って。
気のせいかもしれないけど、なんだか口調、変じゃない?
しょうせい?
ござる?
いつの時代の人かな?
「あ、あの、小生はまお殿の隣のC組の生徒でして、まお殿のことは有名になる前からこっそり写真とか隠し撮りしていたでござるよ! ちなみに、まおチャンネルの最初の登録者が小生でござる!!」
「あ〜、え、ええっと、そうなんだ。ありがとう!」
ちょっと不穏なこと口にしてたけど、チャンネル登録してくれてたのは素直に嬉しいな。
てか、ちゃんと見てくれてた人がいたんだなぁ。
それなら早く言ってくれればよかったのに──って、ちょい待ち。
バズる前ってダンTV登録者は「1」だったんだけど、あれってあずき姉じゃなくてこの子だったの!?
……え? てことは、同接2もみのりちゃん!?
「まおのダンTVチャンネル? モチ登録してるぜ(キラッ)」とか「毎回冷やかしで観てるぜ(キラッ)」とか言ってたのウソだったの!?
あ、でも、毎回ちゃんと感想くれてたしな……。
どうやって観てたんだろ。不思議だわ。
しかし、と恥ずかしそうに頬を赤らめているみのりちゃんを見て思う。
見た目はめちゃくちゃ可愛いのに、口調とのギャップがすごい子だなぁ。
というか、みのりちゃんってば、どっかで見たことがあるような……。
「わかるぞまお。みのりちゃんの正体、気になるよな?」
あずき姉がまおの心を読んだかのように口を開く。
「聞いて驚け! 見て笑え! このみのりちゃんは、あの湯川財閥のご令嬢なんだぞ!?」
「うえええっ!? 湯川開発!?」
「財閥な!」
まお、知ってるよ湯川開発!
総資産はウン百兆円とも言われてるおっきな会社……。
銀行とか自動車の企業とか数え切れないほどの子会社を持ってる──って教科書で読んだ事がある!
そ、そんな凄い会社のご令嬢が、こんな平凡な高校にいるなんて……。
普通、ナントカ学園とか行くもんじゃないの?
ほら、すごい人たちが恋愛頭脳戦をしてる、貴族や士族を教育する目的で創立された由緒正しい名門校みたいなさ!?
「そ、そんな名家のご令嬢様が、どうしてこんな落ちぶれた部活動に?」
「おい」
すかさずドスの利いた声で突っ込んでくるあずき姉。
みのりちゃんは気にする様子もなく「えへへ」と恥ずかしそうにはにかむ。
可愛い。
「あ、あの……実は小生も昔からモンスターのこと、カッコいいなぁと思ってまして、えと、シコリティが高いというか」
「……シコ?」
「それでまお殿が大魔王軍を立ち上げたと聞いて、これはモンスター推しとしても、原初のまお殿ファンとしても絶対加入不可避と決意した次第なのでござるよ!」
握りこぶしを作って、ふんすと鼻を鳴らすみのりちゃん。
可愛い。
シコなんちゃらの意味はわかんないけど。
「で、でも、小生、ちょっと悩みがありまして」
「え? 悩み?」
「は、はい……実は、初めて潜ったダンジョンでスライムに殺されかけてから『モンスター恐怖症』になっちゃって、モンスターを見ると気絶しちゃうのでござる……」
「へぇ! そりゃまた難儀な──え?」
え? え?
モンスター好きなのに、モンスター恐怖症なの?
なにそれ。猫好きなのに重度の猫アレルギーなんですみたいな悲しい結末……。
というか、モンスターを見たら気絶しちゃうって、大魔王軍云々の前にスカベンジャーとして致命的なのでは?
「ええ、まお殿が危惧しておられることはわかります……」
みのりちゃんがシュンとした困り顔で続ける。
かわ(略)。
「このままじゃ、カッコいいモンスターを見つけても、貢ぐことすらできない……小生のこの、稀有な性癖ゆえに!」
「性癖」
性癖じゃなくて持病みたいなもんだと思うけどな。
それに、可愛い顔して性癖なんてセンシティブな言葉、口にしないほうがいいと思うな。
「ま、まお殿っ!」
「は、はいっ!?」
名前を呼ばれ、ぴしっと背筋を伸ばしてしまった。
「小生、本来ならまお殿のようにカッコいいモンスターを遠くから眺めたり、できれば触ったり、なでなでしたいのでござるよ! でも、気絶しちゃうのでござるっ!」
みのりちゃんは、真に迫る顔で続ける。
か(略)。
「なので、まお殿……大魔王軍のオーディションの傍ら、小生のトラウマ克服の協力をお願いできないでござろうか!? この通りでござる!」
「うん、いいよっ!」
頭ぺこりからの即断。
考える必要はない。
可愛いは正義なのである。
「わかったよ! 全部まおに任せて、みのりちゃん! そのトラウマ……まおがまるっと解消してあげるからっ!!」
「お、おおおおお! 本当でござるかっ!? ありがとうございますっ!」
感極まったのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねはじめるみのりちゃん。
「やったぁ! やったぁ!」
「えへへ!」
みのりちゃんと一緒にぴょんぴょんぴょん。
こんな可愛い子が喜ぶ姿を見たら、つい顔も緩んでしまうというもの。
あずき姉も「やったね! 廃部は回避できたぜ!」とキャピキャピしはじめたのはビジュアル的にちょっとつらかったけど。
だけど、我が大魔王軍とダンジョン部に超逸材が来たんじゃなかろうか。
見た目が可愛くてモンスちゃん好きって、もはや最強でしょ。
──その変な口調だけはどうにかしてほしいけど。
まおのどストライクゲキカワ少女なのに、ちょっと残念というかさ。
いや、これはこれで、良いの……か!?
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