第20話

「う、くっ……な、なな、なんでだ!?」



 悶絶していた木下が憤怒の表情で顔を上げるが、そのおでこは真っ赤に腫れ上がっていた。


 すんごく痛そう。



「の、能力が4分の1になってるはずなのに、なんでこんな力が……」

「多分、レベルが高いからかな?」

「レ、レベル!? お、お前、一体何レベなんだ!?」

「さぁ?」


《さぁwwww》

《草》

《【悲報】魔王様、自分のレベルがわからない》

《だと思ったw》

《魔王様にレベルという概念はない・・・》

《さすまおすぎて草》



 ステータス画面みたいなのがあったらわかりやすいんだろうけど、生憎そういうのはないからなぁ……。


 ダンジョンに初めて入ったときに習得するユニークスキルって、ポッと頭に降りてくる感じだったんだよね。


 まさにひらめきっていうか。



「このクソガキ……ッ! 俺をコケにしやがって! だったら何回も能力を半分にして──」

「面倒だからやめい」



 木下の腕をむんずと掴み、思いっきり放り投げた。



「ふぎゃっ!?」



 天井に頭をぶつけ、ビタンと地面に落下。


 うん。これも痛そう。



「こ、この野郎ッ! 俺をこけにしやがって……ブッ殺してやぁぁあああるああああっ!」



 顔を真赤にした木下が必死に剣を振り回してくる。


 当たっても痛くないけどウザいから避けようとしたけれど、ちょっと足の動きが鈍い気がするな。


 レベルが4分の1になってるから?


 ん〜、多少は影響があるみたい。


 そのせいか、ちょこちょこ木下の剣の直撃を受けてるけど、やっぱり痛くなかった。



「あっはっは! どうした魔王!? 俺の剣が全く避けられてない──」

「えい」



 木下が剣を振り下ろしてきたタイミングを見計らい、切っ先を掴んで膝でへし折ってやった。


 これでヨシ。


 ああ、すっきりした。



《www》

《すげぇw》

《えいwwww》

《パワー系幼女様》

《超物理》

《剣って膝で折れるもんなのか?ww》


「お、俺のアロンダイトが……」



 真ん中からポッキリ折れてしまった剣を呆然と見つめる木下。


 なんだか希少価値が高そうな名前の剣だね。


 見るも無惨になっちゃったけど。



「お、お、お前っ! こ、ここ、こんなことをして良いと思ってんのかっ!?」 



 泣きそうな顔で木下が続ける。



「崇高な動物保護活動をしてる俺をさんざんこけにして、お前には罪悪感ってもんが無いのかっ!?」

「あるわけがないっ!」

「……っ!?」



 どどん!



《wwww》

《言い切ったww》

《かわいい》

《ドヤ顔たすかる》

《さすまお》



 だって、胡散臭いっていうのも厨二病ってのも事実だもん!


 動物愛護とか嘘っぱちだし!



「てか、そもそもの話、動物愛護とか言ってモンスちゃんたちにひどいことをしてるのはそっちだよね!? モンスちゃんを怒らせてスカベンジャーさんにけしかけたり、ダンジョンを壊したり……罪悪感もってほしいのはそっちなんですけど!?」

「はっ、コレだからお子様は! 俺はお前らスカベンジャーや世間のクソどもに目を覚ましてもらうためにやってんだよ! 道楽でモンスター殺してるクソガキが偉そうに言ってんじゃねぇ!」

「ク、クソガキ……ピキピキ」



 こんの野郎。


 またまおのことガキって言いやがった……。



《あの、魔王様、お顔が》

《怒ったとき口でピキピキっていう人はじめてみた》

《とにかくかわいい魔王様》

《怒っても可愛いってずるいwww》



「さ、流石にキレちまったぜ……かくごせいや、うんこ木下。モンスちゃんたちの積年の恨み、まおが晴らしてやるけんのう!?」

「ションベンクセェまな板のガキが、いきがんなって言ってんだろっ!」

「だっ、だからまおはまな板じゃないっつってんだろがあぁっ!! おめ、ぶっころ!!!!!」



 もう許さない!


 まおの怒りに呼応するように、右拳が青白く輝き出す。


 またたく間に、まおの体を覆い尽くすくらいの光の渦になり、周囲の空気が震えだす。



「こ、これは……」

「なんだぁ!?」



 驚きの声をあげるトモ様と木下。


 まおは輝く右拳をうんこたれ木下の頬めがけて振り抜いた。



「はああああっ! 喰らえぃ!! 必殺ッ!!! 【超・理不尽パンチ】ッ!!!」

「……ふんぎゃあああああっ!?」



 見事まおのグーパンが木下の頬を撃ち抜き、凄まじい爆発が巻きおこった。


 その衝撃が空気を震わせ、大地に大きな穴を穿つ。


 舞い上がる砂塵が晴れた後、その場に立っていたのは──まおただひとり。



《( Д ) ゚ ゚》

《え? え?》

《あの・・・木下が消えたんですけど・・・?》

《グーパン一発で消滅したww》

《うそだろ!? あいつ、結構レベル高いはずだぞ!?》

《超理不尽パンチwwww なんぞそのスキルwwww》


「説明しよう……このスキルは拳に強力な魔力を溜め、カミソリのように鋭く研ぎ澄ませて放つ必殺の奥義おくぎ。この拳を受けた相手は──死ぬ!」


《おくぎwwwww》

《いや、確かにおくぎって読めるけど、なんだろうこの絶対間違ってる感www》

《過程は細かいのに、結果が雑wwwww》

《死ぬwww》

《おれらが笑い死ぬわwwww》

《本当に理不尽すぎて草》

《腹痛いwwwww》

《魔王様も意外と厨二なんですね》


「……ふっふっふ」



 またつまらぬものを粉砕してしまった。


 だけど、敵ながら褒めてやろう、うんち木下。


 まおに最終奥義の【超・理不尽パンチ】を出させるなんて。


 流石は勇者と自負するだけのことはあった……。



「まおたん!」



 などと厨二病を発症していたら、トモ様が駆け寄ってきた。



「だ、大丈夫か!? 怪我はないか!?」

「はい! まおはこの通り元気です!」



 無傷も良いところなので、くるっと回って決めポーズ☆


 ピースサインで舌をぺろり♪



《あざとかわいい》

《よき》

《可愛い》

《かわいい》


「……かわいい」

「ん? トモ様?」

「あ、いや、なんでもない」



 なんだろ。


 今、トモ様がすんごくだらしない顔をしてたような気がしたけど。



「し、しかしすごいなまおたん! まさかあの木下をワンパンで倒すとは! 先日、同じようにあの男に妨害されたのだが、撃退するのに相当骨が折れたぞ」

「そ、そうだったんですね」



 そっか。トモ様も苦戦した相手だったのか。


 まおに本気を出させるくらいだったし、もしかすると一般的には強敵だったのかもしれないなぁ。


 でも、まおの【超・理不尽パンチ】で強制送還&リセットしたし、もうあの凶悪スキルで悪さはできないよね?


 うむ、うむ!


 ダンジョンの平和は守られた!



《木下リセットか。おつかれさまでした》

《そっか。リセットされたから、【ジャッジメント】がなくなったんか》

《ざまぁwwww》

《勇者討伐に成功したなww》

《だけど、モンスター愛護会に喧嘩売って平気なのか?》

《確かに。木下がリーダーだけど、他にもヤバいメンバーたくさんいるしな》

《目の敵にされないか?》

《あずき:対処します》

《おお》

《wwww》

《あずき姐・・・頼れる御方だ》



 モンスター愛護会ってそんなにヤバい組織だったのね。


 見た目は「動物愛護の非暴力組織」って感じなんだけど……。


 でも、目的のためなら手段を選ばないってのが今回わかったし、ひょっとして仕返しとか受けちゃう?


 ううう、それは嫌だなぁ。


 ここはあずき姉にお任せしちゃおう。



「と、とにかく、コラボを続けましょう! トモ様!」

「え? ……あ、うん、そうだな!」



 ハッと我に返るトモ様。


 あ、もしかしてコラボ中だってこと、忘れちゃってました?


 まぁ、色々ありましたからね……。


 というわけで、邪魔者を排除したまおたちはコラボを再開することに。


 想定外のことが起きまくったけど、まおの100チャレは無事終わったし、散歩をしながらまったり下層を歩いて周ることに。


 ……あれ? 


 そう言えば、何のために100チャレ始めたんだっけ?



《魔王様! ご報告です!》



 と、コメント欄に報告が。



《ツリッタートレンドで『魔王まお』が日本一位・・・さらに、『Maou Mao』が世界トレンド一位になっています!》

《すげぇwwww》

《世界一位ww》

《Maou Maoってw》

《世界デビューおめ!》

《魔王様の存在が世界にバレてしまったか・・・》


「……せ、世界トレンド一位?」



 すごい……のかな?


 いまいちわからないけど……。



「す、すごいぞ、まおたん!」



 だけど、トモ様はすごく興奮しているご様子。



「いまだかつて、世界トレンド一位を取ったダンジョンストリーマーはいないぞ! これは快挙だ!!」

「そ、そうなんですか!? すごい? まお、すごいの?」

「ああ、すごすぎるぞ! さすがまおたん……これは、さすまおすぎる!」

「えへへ……ま、まぁ、これくらいどうってことないですけどね?」



 えっへん。


 これはドヤっても許されるやつだよね?



《すさまじいドヤ顔》

《かわいい》

《近年稀に見るドヤ顔》

《ここ10年で最高のドヤ顔だな》

《50年に一度の出来栄え》

《ワインの評価かよ》

《wwww》

《でも、魔王の冠がついてるけどいいのかな?》


「……あっ」



 言われて気づく。


 確かに、トレンドになっているのは「Maou mao」……つまり、魔王まお。


 これは魔王という汚名が、海を越えて海外にまで広まったということでは?


 ……あ! そうだった!


 100チャレはじめたのも、モンスちゃんを従えている魔王じゃないってことをパワーで知らしめるためだった!


 だけど、結局、世界に魔王まおの名前を広めただけ……。



「……んあああああああっ!!!!」

「ど、どうしたまおたん!?」



 うなだれるまおに駆け寄ってくるトモ様。



「どこか痛いのか!? やはり木下との戦いで怪我をして──」

「プリティまおのブランドがあああああああああっ!」

「は? プリティ?」



 どうしてこうなるの?


 まおの予定では、トモ様とのコラボでキラキラプリティまおたんとしてリブランディングされるはずだったのに……。


 だけど、海外にまで広がっちゃった以上、まおにはどうすることもできず。


 ──というわけで。


 悲しみに襲われているまおをよそに、トモ様とのコラボ配信は大盛りあがりの中、終わりを迎えることになった。



「……それでは皆、また次回の配信で会おう!」

「おつまおでした! またね~!」


《おつ~》

《ふたりとも可愛かった!》

《最高に楽しかったです》

《またコラボみたいです!》

《おつまお〜〜〜》



 魔王軍のみなさんもかなり楽しんでもらえたみたい。


 トモ様の配信も大盛況みたいだったし、これは大成功と言えるのでは?


 魔王の悪名が広がったのだけはいただけないけどね。


 このコラボをきっかけにトモファミの皆さんも、まおのチャンネルを登録するという動きが出て、登録者数が凄まじい伸びを見せた。


 家に帰って確認してみれば、140万の大台に。


 すごい。


 もうすぐトモ様に追いついちゃうよ……。


 余談だけど、帰るときにトモ様から「うちの事務所の社長がまおたんに会いたいと連絡があった」って言われて、興奮しすぎてたから「ありがとうございます!」って返しちゃったんだよね。


 冷静に考えると、うちの事務所の社長ってBASTERDの社長ってことだよね?


 ……やっぱりさっきの無しでお願いしますって言いたいけど、いまさら無理かなぁ?

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