第17話

 小さな部屋にぎゅうぎゅう詰めになったモンスちゃん。


 こんなモンスターフロアは初めてみるけど、なかなかに可愛い子がたくさんいる。


 鬼みたいな見た目の筋肉マッチョな「バスターオーガ」に、つぶらで大きな目に体が生えたようなキモかわいい「イビルアイ」。 


 さらに岩の肌を持ったトカゲ「ロックリザード」に惚れ惚れとする見事な骨格をしている骸骨剣士の「ボーンソードマン」……。


 どれも可愛さB級以上のモンスちゃんたちばかり。


 そんな大勢のモンスちゃんたちは、我先にとまおに襲いかかろうとするけれどぎゅうぎゅう詰めになっているのでうまく動けないみたい。


 う〜ん、ちょっと可愛そう。



「し、しかし、本当に大丈夫なのか? まおたん?」

「はい、問題ありません。ちゃちゃっとモンスちゃんどかして、スポナーまでの道を作っちゃいますね」

「……え!? どかす!? どうやって!?」



 ぎょっとするトモ様。


 

「こういうときに使えるのが、通路に立ちふさがるモンスちゃんを押しのける『ノックバック』というテクニックなんですけど、トモ様も知ってますよね?」

「ノックバック? もちろん知っているが……まおたんは『バッシュ』のスキルを持っているのか?」


《ノックバックって、盾で相手をふっとばす「バッシュ」スキル持ちができるテクニックだよね?》

《魔王様、バッシュスキルももってるの?》

《どんだけスキル持ってんだwww》

《まぁ、魔王様って千のスキルを持つJKだし・・・》


「ん? 持ってないですけど?」



 てか、バッシュ? なにそれ?


 なんだか外国のパンの名前みたいでおいしそう。



「良くわからないけど問題ありません! コツさえつかめばノックバックは簡単なので! こうやって、少しだけ助走をつけて……はい、走る!」



 ばびゅん!


 思いっきりモンスちゃんに体当たり。


 襲いかかってきたバスターオーガちゃんがふっとんでいった。



《ファーーーーッ!?》

《ゆうに魔王様の10倍くらいありそうな相手が吹っ飛んでったんだがwwww》

《\(^o^)/》

《たまげたなあ》



 バスターオーガちゃんはピンボールの玉みたいに、天井や壁にぶちあたりながら数体のモンスちゃんを巻き込みつつ部屋の奥へと消えていく。


 よし、ノックバック成功!



「どうです? こんなふうにノックバックというテクニックを使えば、モンスターフロアも安全にクリアできます! みなさんも是非使ってみてください!」



 お、勢いではじめたけど、なんだかレクチャー配信みたいでかっこよくない?


 さすまおだわ。



《無理》

《できるか定期》

《そんなことできるスカベンジャーいないよ》

《草草草》



 いやいや、できますって!


 騙されたと思ってチャレンジしてみてよ!


 そんな感じで、2、3回ほどノックバックをやってモンスちゃんをふっとばしたところで、ようやくスポナーが見えてきた。



「よし! トモ様! スポナーまでの道ができましたよ!」

「……えっ?」



 振り向いたまおの目に映ったのは、部屋の入口で固まっているトモ様。


 あれ? どしたんだろ?



「トモ様?」

「……う、うむ! そうだな! だがこのまま、まおたんがスポナーも破壊しちゃうというのはどうだろう!?」

「え? まおが?」

「だって、ほら、まおたんは100チャレの最中だし……その、無関係の私が手をだすのも少し違うかなと……」

「そうですね! わかりました!」



 撮れ高、重要ですもんね!


 ちょっとドン引きしてたような感じがしたけど、気のせいだよね!



「よし、それじゃあ行ってきます! 【私ってば無敵すぎる】!」



 気合を入れ直してスキル発動。


 スキル無しで突っ込んでも問題なさそうだけど、一応ね。



「いくぞぇ! おりゃあああああああっ!」



 ノックバックの要領で助走をつけて一気にスポナーまで駆け抜ける。


 モンスちゃんたちがまおと遊びたいって飛びかかってきたけど、愛でたい欲望を鋼の精神でグッと抑えて無視する。


 立ちふさがってくるモンスちゃんをふっとばし、肩を掴まれてたら払い除け、抱きつかれたらぶん投げる。


 そうしてたどり着いたモンスタースポナーなんだけど……。 



「むむむっ」



 異変に気づき、思わず足を止めてしまった。


 瞬間、まおを追いかけてきたモンスちゃんたちが覆いかぶさってくる。


 あ、ちょっと考え事してるからごめんね。


 両手を振り上げ、彼らをふっとばす。



「ふんっ!」


《wwww》

《もう驚かねぇ!》

《あのさぁ・・・》

《モンスターの群れがゴミみたいに宙を舞っとるwww》

《あ、こういうの、アニメでみたことある》

《おれも》



 コメ欄が騒いでるけどそれどころじゃない。


 なにせ、目の前のスポナーから、絶え間なくモンスちゃんがポンポン出てきているのだ。


 スポナーはモンスちゃんを発生させる巣なんだけど、流石にこんなに出てこないよね。


 こんなスポナー、見たことない。


 ……ていうか、ちょっとすごくない?


 こんな数のモンスちゃんがウミガメの卵みたいに無限に出てくるなんて──最高すぎなんですけど。


 これ、お家に持って帰れないかな?


 わくてか。



「まおたん! 大丈夫か!?」

「……はっ」



 トモ様の声に、我に返る。



「大量のモンスターが吹っ飛んだのが見えたのだが、何かあったか!?」

「だだ、大丈夫です! スポナーを持って帰ろうとか思ってないですから!」

「そうかスポナーを持って帰…………はい?」


《は?》

《持って帰る?》

《なるほど。世界征服のためにモンスタースポナーを使おうってわけですね》

《かしこい》

《さすまお》



 だ、だから思ってないってば!



「ちゃ、ちゃんと今から壊すんで見ててくださいね! えい! 爆発しちゃえ! 【どどんがどん☆】!」



 スポナーをじっと見つめてスキル発動。


 瞬間、巨大な爆発の連鎖が起きる。


 その爆発の渦に、スポナーだけじゃなく周囲のモンスちゃんたちも飲み込まれていく。



《なんか大爆発したんだがwww》

《いやいやいやいや》 

《( Д ) ゚ ゚》

《なんぞこれなんぞこれ》

《おれたちはなにをみているんだ・・・》

《モンスターごとスポナーを吹き飛ばしてて草》

《なんつースキルだよwwwww》



 この【どどんがどん☆】もまおのユニークスキルのひとつで、意識を集中させた場所に連続爆発を起こすっていう能力なんだよね。


 でも、距離が離れ過ぎちゃうと威力が減衰しちゃうから、中距離用かな。


 中々に使えるスキルなんだけど、一番の難点は──ちょっとだけ気持ちよくなっちゃうこと。



「それ【どどんがどん☆】! そ~れ【どどんがどん☆】! あっはっは!」


《まだまだおわりじゃないどん☆》

《みなごろしだどん☆》

《あっはっは》

《かわいい》

《魔王様ご乱心w》

《おやめください魔王様! ダンジョンが壊れます!》


「あっはっは! それそれ~」



 ズドン。ドカン。バキン。


 ダンジョンの壁はえぐれ、地面に大きな穴が開く。


 スポナーがあった部屋は、猛烈な爆風と砂塵の中に沈んでいく。


 砂煙のせいで視界が悪くなり、【どどんがどん☆】が発動しなくなった。


 ううむ……もうすこし爆発させたかったんだけど、残念。 


 煙が晴れ、現れたのはまっさら綺麗になった部屋。


 やった! スポナーは破壊できたみたい!



「どうですかトモ様!? スポナー破壊しましたよ!」

「……」



 振り向いたまおの目に映る、唖然とした表情のトモ様。



「あれ? トモ様?」

「……え? あ、うん、そうだな! スポナーだけじゃなく、恐ろしいB級モンスターたちも倒せたな! すごいぞまおたん!」 

「あっ」



 そこで気づくまお。


 部屋の中は綺麗になったけど、いたるところにモンスちゃんの素材が転がっている。



「……」



 しばし沈黙。熟考。


 えーっと……これって、直湧きのルートアイテム……じゃないよね?


 ……。


 …………。


 やっちまった。


 興奮するあまり、すごい数のモンスちゃんたちもふっとばしちゃった。



「ご、ごご、ごめんねモンスちゃん! ちがうの! そういうつもりじゃなかったの! これは事故! そう、事故なんだよ! 爆発させるのが気持ちよくなって、つい手が滑ったって言うか……!」



 誰もいない部屋で平謝り。


 あの世に旅立ってしまった可愛いモンスちゃんたち……ごめんなさいっ!



《事故(手が滑った)》

《そのわりに楽しそうに高笑いしてたけどなw》

《気持ちよくなって皆殺しか・・・》

《サイコパスかな?》

《でも、これで軽く討伐数100匹越えたのでは?》

《確かに》

《おめ!》

《魔王様100チャレクリアおめでとう!》



 地面に落ちている素材は、軽く100を越えてる気がする。


 てことは、モンスター100匹倒すまで帰れませんの企画、クリア?


 や、やったぁ……!



「ええっと、く、苦戦するかなと思ったけど……100チャレ達成できました! ありがとうございます……っ!」


《おめでとう!》

《てか、はやすぎない?》

《時間計測してたけど、25分20秒。これって100チャレ最速記録なのでは?》

《大草原》

《はやすぎて草》

《トモ様でも2時間くらいかかかったよな?》

《すげぇwww》

《さすまお!》

《ダンジョンストリーマーの歴史にまた輝かしい記録を残した魔王様・・・》

《切り抜きできたぞ→URL (100チャレ日本新記録達成/25分20秒 スキル【どどんがどん☆】で100匹瞬殺だどん☆)》

《wwwww》

《こっちもはやすぎだろw》



 ちょっとやめて!?


 切り抜き班、仕事速すぎだから! もっと違うところにその才能を活かして!?



「……しかし、すごいな」



 隣から声がした。


 トモ様だ。



「あれほどの数のモンスターを一瞬で討伐できるとは。さっきの爆発は、まおたんのスキルなのか?」

「え? あ、はい。ユニークスキルのひとつです」

「初めて見るスキルだが、遠隔系の攻撃スキルだな」

「えんかくけい……落語家?」

「違う」



 トモ様が言うには、攻撃系スキルには大きくわけて近接系と遠隔系のものがあるという。


 さっきトモ様や魔王軍のみんなが言ってた「バッシュ」っていうスキルは近接系で、まおの【どどんがどん☆】は遠隔系。


 なるほど。てことは、【キラキラ☆結晶】も遠隔系だね。



「その前にも防御系のスキルを使っていたし、これほどの数のスキルを持っているスカベンジャーは初めて会う。BASTERDにもいないし、これはきっと──」 

「……ああっ!?」



 と、トモ様の声を遮るように素っ頓狂な男の人の声がした。


 誰だ一体!? ありがたいトモ様の説明を邪魔する不届き者め!


 ──と恨めしい目で振り向いたら、知らない男の人が部屋の入口に立っていた。



「な、なんということだ……一体誰ですかっ!? 私の特製モンスタースポナーを破壊したのはっ!?」



 わざとらしく身を震わせる男の人。


 ぱっと見は中性的というか、綺麗な顔立ちをしてるスカベンジャーさんだ。


 黒髪に黒い服。


 腰に剣を下げているし、近接戦闘を得意としているんだろうな。


 だけど、ちょっとだけ冷たい感じの雰囲気がする。


 いや、冷酷そうっていうか、悪い言い方をすれば何をしでかすかわからない危険な雰囲気っていうか──。



《うげ》

《マジかよ》

《やばいやつキタ!》



 コメ欄がざわめき出す。



《うわっ! あいつの木下じゃん!》

《最悪すぎるんだが》

《めんどくせえやつきた!》


「ええっ!? き、木下……さん!?」



 思わずまおもびっくりしちゃった。


 だって、あの木下さんでしょ!?


 あの有名なきの……き……き……ええと、ごめん。


 木下さんって、誰?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る