第16話

 100チャレをスタートさせて10分──。


 トモ様の「高レベルモンスターがいる場所に希少品が湧く」という情報は見事的中し、まおたちの懐は暖かくなっていた。


 手に入れたアイテムは、回復アイテムの「キュアポーション」が12個に、生産で使える「火の断片」10個、「氷の断片」8個、「膂力の石」4個……。


 さらに「マンドレイクの株」9個に「魔素結晶」18個。


 そしてダンジョン専用フリマサイト「ダンカリ」で数万円で売買されているレア素材「ダマスカス鉱石」と「バラモンの鉤爪」が2個づつ。


 かなりおいしい。


 今日ゲットしたアイテムはトモ様と山分けするんだけど、それでもかなりの儲けになっちゃった。


 まおは年齢の問題でダンカリは使えないけど、あずき姉にお願いして出品してもらうつもり。多分、結構な手数料とられちゃうだろうけど……。


 しかし、さすがはトモ様……さすともですなっ!


 ──ま、倒したモンスちゃんはゼロなんだけどね?



「まおたん、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「はい、何でしょう?」



 うきうきでトモ様の顔を見る。


 こんなふうにまおが上機嫌なのは、お小遣いが稼げたから──というわけじゃない。


 や、十分嬉しいんだけど、それ以上に最高なことがあったんだよね。



「周囲にいるモンスターたちは、いきなり襲ってきたりはしない……よね?」

「はい♪ 大丈夫ですよ♪ みんないい子たちですから♪」



 まおの周囲には、たくさんのモンスちゃん。


 その数、総勢20匹ほど。


 もちろん全員【以心☆伝心】でお友達になった推しモンちゃんたちだ。


 いや、ね?


 次こそは倒さなきゃって毎回思ってるんだけど、つい愛でちゃうんだよね。


 不可抗力っていうか、自然の摂理っていうかさ。


 もちろんその光景は、トモファミや魔王軍の皆さんも見ているわけで。



《確かにいい子たちですね》

《( ゚д゚)ポカーン》

《友達たくさんできてよかったよかった》

《実に幸せそうな魔王様wwww》

《結局こうなるのな》

《知ってた》

《通常運転で草なんだが》

《う~ん、やっぱり友達100匹が良かったな》

《トモ様がドン引きしとるwwww》

《ほんまにウチの魔王がすんません》



 いやいや、待ってよ。


 トモ様が引いてるわけないじゃない。



「どうですトモ様? まおの推しモンちゃんたち、可愛いでしょ?」

「……えっ?」



 一瞬ぎょっとした顔を見せるトモ様。


 だけど、恐る恐る近寄ってきた黒い毛並みの狼モンス、ブラックバイツこと「ぽちたろう」を見て頬を緩めた。



「あ、う、うん……これは可愛い……のかもしれない」



 ほらぁ!



《エッ》

《(゚д゚)!》

《トモ様!?》

《お気を確かに!》

《トモ様!? 魔王様のスキルで骨抜きにされてますけど、全部B級以上の危険なモンスターですよ!?》



 今まおたちがいる下層に現れるモンスちゃんは、トカゲと人の間の子みたいな「バラモン」や、氷のヘビ「ホワイトスネイク」みたいなB級以上ばっかり。


 ちなみに、トモ様がおっかなびっくりで頭を撫でてるぽちたろうもB級のモンスちゃん。


 黒いもふもふの体はもとより、瞳が赤いのがチャームポイント。わんさぶろうと違って普通サイズだから、初心者さんにもおすすめかな?


 というか、前々から思ってたけどスカベンジャーさんたちがランク付けしてる階級って、可愛さの階級なのかもしれないな。


 だってほら、まおの周りにいるB級モンスちゃんたち、全員ずば抜けて可愛いもん。



「し、しかし、少々困ったことになったな」



 トモ様が推しモンちゃんたちを眺めながら、ふうと息を漏らす。



「まおたんの100チャレが一向に進まない……」

「うぐっ」



 痛いところを突かれ、ぽちたろうを撫でる手が止まってしまった。


 友達はすんごく増えてきているけど、いまだ倒せたモンスちゃんはゼロ。


 これはいわゆる企画倒れの危機というやつなのでは?


 非常にマズイ。初コラボ企画なのに、それだけはあってはならない。


 だけど、まおからモンスちゃんに攻撃するのはちょっと無理だしなぁ……。


 なんていうかこう、凶暴になったモンスちゃんが自我を失って襲ってきてくれたらこちらとしてもありがたいんだけど──。



「……ん?」



 なんて考えていると、ガチャリとなにかを踏んづけた。


 瞬間、天井からドサドサと大量のモンスちゃんたちが落ちてくる。


 わ。これって──。



《あ》

《え》

《うわああああ! モンスターフロアだああああ!?》

《いやいや、ここに来て冗談だろwww》

《14号下層のモンスターフロアとかオワタw》

《ガチでやばいやつ!》

《魔王様、トモ様にげてええええええ!》



 モンスターフロアというのは、階層全体がモンスターだらけになってしまうトラップのことだ。


 不運にも遭遇してしまったスカベンジャーは、ほぼリセットを食らっちゃうため「スカベンジャー殺し」の異名を持つ凶悪トラップ──なんだけど。



「……きたああああああっ!」



 今のまおにとってはまさに天の恵み!


 モンスターフロアの良いところは、階層のどこかに出現した「モンスタースポナー」っていう巣を破壊しないかぎり、永久的にモンスちゃんがスポーンすることなんだよね。


 さらに、トラップで出てきたモンスちゃんは問答無用で周囲のスカベンジャーに襲いかかってくる。


 これこれ!


 これぞ正に、まおが求めていたものだよ!



「くっくっく……いいぞ、これでようやく100チャレがクリアできるではないかっ! わ~っはっはっは!!」


《草》

《モンスターフロア踏み抜いて喜ぶスカベンジャー初めてみた》

《いや、顔wwww》

《極悪な顔してますね!!》

《高笑いの魔王様》

《これぞ魔王の風格だな》

《かわいい》 

《さすまお》


「……はっ!?」



 しまった。


 つい本心が表に出てしまった。



「い、いや~ん、モンスターフロア怖ぁい!」



 ドローンちゃんに向かって、可愛いアピール!


 てへぺろ!



《イマサーラ》

《wwww》

《取って付けたようなセリフwww》

《棒読み乙》

《大草原》

《今更感パねぇんですがw》



 しっ! そこ、うるさい!



「くそっ! 14号の下層でモンスターフロアとは! 気をつけろまおたん! 湧いてくるのは最低でもB級だぞ!」

「ええ、そうですね! 実に弱そうなモンスちゃんがたくさんです!」

「ああ、そうだな……って、弱そう?」


《反応が180度違うのですが》

《さすまお》

《魔王様にとってS級もD級と同等・・・》


「と、とりあえず100チャレは一旦休止だ! ひとまずモンスタースポナーを探すぞ、まおたん!」

「はい、おっけーです!」



 モンスターフロアを脱出する方法はいくつかある。


 ひとつめはモンスちゃんを放置して階層を抜けること。


 モンスちゃんは階層をまたいで追いかけてくることはないので、階層を抜けさえすればトラップから逃れることができる。


 そして、ふたつめはどこかのエリアに出現しているスポナーを破壊することだ。


 永遠にモンスちゃんをスポーンさせるモンスタースポナーを壊せば、通常の階層に戻る。


 ただ、増えたモンスちゃんを処理しながら探さないといけないから、めちゃくちゃ大変な作業。だけど、大抵のスカベンジャーさんは泣きながら後者を選択する。 


 だって、放置しちゃうと、次にその階層を訪れたスカベンジャーさんが大迷惑を被ることになるし。


 たまにツリッターとかで「モンスターフロアの罠踏んで逃げたアホのせいでパーティがリセットさせられました。犯人探しています」なんて炎上してるの見かけるんだよね。


 モンスちゃんにやられてリアルにリセットを食らうか、ブチギレたスカベンジャーさんに追い詰められて社会的にリセットを食らうか。


 どちらにしても死は逃れられない。


 ……っていうのがモンスターフロアの恐ろしいところみたいなんだけど。


 まおたちが選択するのは、もちろんスポナー探し。


 100チャレ中ってのもあるけど、ツリッターで炎上するわけにはいかない──じゃなくて、他のスカベンジャーさんたちに迷惑をかけるわけにはいかないもんね!!



「よし、いくぞっ! モンスターに鉄拳制裁だッ!」 



 出た!


 トモ様のお決まり文句!


 うわぁあああ! 生で聞けるなんて最高なんですけど!



《きたあああああっ!》

《鉄・拳・制・裁!》

《トモ様に制裁されたい!》



 コメントの魔王軍の皆さんも大盛り上がり。


 トモ様はそのクールでビューティな見た目とは裏腹に、拳ひとつでダンジョンに潜る肉体派スカベンジャーだ。


 まおが調べた情報によると、学校ではバスケ部の主将を務めるくらい運動神経が良いんだって。


 スカベンジャーをはじめた理由も「一対一のオフェンス力を鍛えるため」なんだって。


 くぅ〜! クールな見た目で運動神経バツグンとか、イケメンすぎるっ!



「動きが遅いぞモンスターどもっ! その程度のディフェンスで、私を止められると思うなっ!」

「キャ〜ッ! かっこいいっ! トモ様〜〜!!」



 襲いかかってくるモンスちゃんたちを、次々と拳で沈めていくトモ様。


 彼女の周囲に、次々とモンスちゃんの屍の山が築かれていく。


 B級モンスちゃんをものともしないのは凄い。


 ──だけど、流石に数が多かったのか、少しだけ息があがってきてるみたい。



「ふぅ、流石にこの数だと辛いものがあるな……しかたない、まおたん! 推しモンさんたちに応援を頼めないだろうか!?」

「え!? まおの推しモンちゃん!?」

「ああ、推しモンちゃんの力を借りるのは少々心苦しいが、多勢に無勢だ! 全員の力を合わせて切り抜ける!! 応援を呼んでくれ!」

「わ、わかりました!」



 まおの推しモンちゃんたちが力になれるかわからないけど、トモ様が求めるのなら、お答えしてあげるのがファンというもの!


 すでにまおの周囲にはたくさんの推しモンちゃんたちがいるけれど、【この指と〜まれ♪】で追加招集をかけた。


 呼んで欲しいって、トモ様のお願いだからね!



「……よし! みんな行くよ!」



 指を掲げ、音頭を取る。



「それピッピ! ピッピ! がんばれトモ様! がんばれトモ様!」

「がおがお♪」

「きゅ~ん♪」

「わふわふ♪」

「きーっ! きーっ!」

「ごぶ♪ ごぶ♪」

「その応援ではないっ!!!!!」


《クソワロww》

《wwwwwwwww》

《なにこの漫才》

《夫婦漫才かよw》

《なんかそうなる予感はしてた》

《モンスターが応援しとるwwwww》

《登場人物全員可愛いか》



 え? 違うの?



《あずき:……きこえますか、まお……今、あなたの心に直接呼びかけています……協力です……エールを送るのではなく、戦いに参加するのです……》


「……あ、そういうことか」



 も〜、最初から言ってよ〜。

 

 今度こそ推しモンちゃんたちに呼びかけ、戦いに協力してもらう。


 すぐさま、そこかしこでモンスちゃん同士の喧嘩がはじまって、乱戦の様相を呈し始めた。


 その混乱に乗じて、まおとトモ様はスポナー探しを続行。


 どこのエリアに出現しているかわからないから、手当たり次第に探さないとね。


 そうして、みっつほど部屋を確認して回ったとき。



「あ、見てくださいトモ様! あそこにスポナーが!」



 小部屋の中に、青く光る四角い箱があった。


 ようやくモンスタースポナーを発見した──んだけど。



「な、なんだこれは」

「やけにモンスちゃんが多いですね……」



 まるでスポナーを守るように、大量のモンスちゃんたちがひしめいている。


 いや、守っているというよりスポナーを押しつぶしかねないくらい、狭い空間に押し合いへし合いぎゅうぎゅうに詰まってる。


 え〜と……なんでこんなことに? 



「……くそ。このままだとスポナーに近づけないな」



 凄まじい数のモンスちゃんに、トモ様は身の危険を感じた様子。



「仕方ない。ここは他のスカベンジャーがやってくるのを待って、彼らに協力してもらって──」

「あ、大丈夫ですよ、トモ様。このくらいなら、まおがちゃちゃっとやっちゃいますから」

「…………えっ?」



 ぽかんとするトモ様。



《え?》

《は?》

《ちゃっちゃと?》

《ちゃっちゃとキター!wwww》

《切り抜き班!? 用意はいいか!?》

《今度は何スキルがでるんだ!? \(^o^)/》

《おら、ワクワクしてきたぞww》



 そうしてまおは、モンスちゃんだらけの部屋へと足を踏み入れた。 

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