第15話

 まおの魔王イメージ払拭のために急遽始まった「ダンジョンのモンスター100匹倒すまで帰れません」だけど、とりあえず下の階層に場所を移動することにした。


 だってほら、どうせ100匹のモンスちゃんを倒すなら、強敵を倒したほうが「おお、さすがまおたん!」ってなるじゃない? 


 A級モンスちゃんを100匹倒せたら、みんなぐうの音もでなくなるはずだし。


 てなわけで、ささっと下層にやってきた。



《下層直行便(モンスター)》

《相変わらずのスキップ能力》

《わんさぶろうに乗せられたトモ様が死んだ魚みたいな目してたけどなwww》

《そらリセットさせられかけた相手だからなぁ・・・》

《トラウマなるわ》



 魔王軍の皆さんがおっしゃっているように、トモ様が青い顔をしてたのがちょっと気になったけど、推しモンちゃんたちのお陰で無事に下層(このダンジョンは逆型だから上層)に到着したまおたち。


 さてさて、どこで100チャレはじめようかな? 



「モンスターを100匹倒すなら、希少アイテムを探ししつつやりたいところだな」



 トモ様はいつものクールな表情だけど、まだちょっと顔色が悪い。


 ちなみにわんさぶろうたちには帰ってもらいました。


 推しモンちゃんたちに手伝ってもらうわけにはいかないからね。


 100チャレはまおだけでやるのだ!



「少しエリアを周って、モンスターの強さを調べてみようか」

「モンスターの強さ?」

「ああ。通常、階層の各エリアのモンスターの強さは一定なのだが、極端に変わる場所がある。そういうエリアでは希少なアイテムが落ちてる場合が多いのだ」

「へぇ~! そうなんですね!」



 知らなかった!


 ちなみに、ダンジョンでアイテムを手に入れる方法はいくつかある。


 まずひとつが、ダンジョン内に点在している宝箱から得られるもの。


 宝箱には金銀財宝から消費アイテム、装備品などあらゆるものがランダムで出てくる。


 次に、倒したモンスちゃんが落とすもの。


 こっちは主に消耗品とか素材系かな。


 素材系は生産で使うもので、ダンジョン専用フリマサイト「ダンカリ」で取引されたりしてる。


 最後が、各エリアに直湧きしている「ルート品」と呼ばれているアイテムだ。


 宝箱に入ってるわけじゃなくて直接地面に落ちてたり、棚やテーブルに置かれてたりする。


 トモ様が言ってるのは、このルート品のことだよね?


 つまり、強いモンスちゃんがいるエリアのルート品のレアリティが高くなるってことだと思う。


 統計的にそういう傾向がある……みたいな感じだと思うけど、すごいなぁ。


 そんな情報、ダンジョンWikiにも載ってないし。


 さすがはトップストリーマーだ。



「まおたんが探索する際はどうやって希少なものを探しているのだ?」

「え? まおですか? ん~、雰囲気ですね」

「雰囲気」

「はい。こっちに可愛いモンスちゃんがいそうだな~って」

「モンスちゃん」



 難しいことは考えない。


 それがまおのモットーなのだ。



「あとは手っ取り早く最下層にいっちゃうかな」

「手っ取り早く最下層……な、なるほど」



 トモ様が唖然とした表情をする。


 あれ? そんな驚くようなこと言ってる?



《トモ様、顔www》

《口が半開きになってますよ!》

《いや確かに最下層に行けば希少品が出るけどさ・・・》

《てか、魔王様の探索って希少アイテムじゃなくて可愛いモンスターを探すことなんだねwww》

《超天然でカワヨ》

《我らのトモ様が天然レベルで負けているだと・・・?》

《うちの魔王がなんかすみません》

《すみません(´・ω・`)》



 う~ん。


 どういうことか、トモファミの皆さんも驚いちゃってるみたい。


 まおの探索の目的は可愛いモンスちゃんを探して愛でることだし、なんら変なことは言ってないんだけどな。



「……ん?」



 なんて首をひねっていると、通路の角からひょっこり何かが顔をのぞかせた。


 キノコのモンスター、歩きキノコだ。



「むっ! 見ろ、まおたん! いい感じのモンスターが来たぞ!」

「そうですね! 見るからに可愛らしい歩きキノコちゃんですね! 歩きキノコって胴体に足っぽいキノコがついてますけど、あれって実は手なんですよね。前にトットコ……あ、まおの推しモンちゃんの名前なんですけど、そのトットコちゃんに聞いたから間違いないです! てことはつまり、歩きキノコちゃんって逆立ちして歩いてるってことで、さらに可愛くないですか!?」

「えっ? えっ?」



 急に目を白黒させるトモ様。


 なんだか可愛い。


 クールでかっこよくて綺麗なのに可愛い一面も持ってるなんてずるいなぁ。



《速いからwww》

《急に饒舌になって草》

《この子、モンスターのことになると急に早口になるのな》

《可愛い》

《ほんとすみません・・・》

《あずき:うちの魔王がご迷惑おかけしてます・・・》



 トモ様の配信も大盛り上がりみたい。


 って、ちょっと待って!?


 あずき姉もコメントしてない!?


 ちょ、トモ様の配信にまで出張しないで!?



「ええと……よ、よしわかった! とにかく100チャレクリアのために、あの歩きキノコを倒しちゃってくれ! まおたん!」

「わ、わかりました……っ!」



 そうだ。


 つい愛で目線でみちゃってたけど、モンスちゃんを100匹倒さないといけないんだった。


 ううう……あんなに可愛い歩きキノコちゃんを痛めつけないといけないなんて、どんな拷問だよ……。



《というか、まおたん大丈夫なのか?》

《歩きキノコって、確か毒の胞子吐くよな?》

《武器持ってないし、どうやって倒すの?》

《トモ様に手伝ってもらったほうがよくね?》



 トモファミの皆さんも心配してくれている模様。



「安心してください! こういうときのために、いくつも戦闘スキルを持ってるんですから!」


《いくつも?》

《どゆこと?》

《魔王様は千のスキルを持つ御方・・・》

《は? 嘘だろ?》

《この切り抜きを見ればわかります↑URL(魔王様、ティアマットと押し相撲で戯れられる【切り抜き】)》

《( ゚д゚)ポカーン》

《すげぇwwwwww》

《普通、ユニークスキルいくつも持ってなくない?》

《魔王様は普通じゃない》

《普通じゃない定期》

《さすまお》

《さすまお》

《これが噂のさすまおか・・・》



 待って、トモファミのみなさんにも悪名が広がってない?



「い、いきます! 【キラキラ☆結晶】っ!」



 気を取り直してスキル発動。


 まおが指差した先の地面がきらきらと輝き、ずばばっと尖ったピンクの結晶が突き出てくる。



《う、うわあああああ!?》

《初お披露目スキルきたあああああww》

《なんじゃそりゃw》

《何そのスキル名wwww》

《もしかして、魔力を結晶化してるのか!?》


「お、よくわかりましたね!」



 これもまおのユニークスキルのひとつ。


 体内の魔力を結晶化させ、任意の場所に出現させるっていう効果があるんだよね。


 ちなみに効果範囲はまおの周囲5メートルほど。 


 この【キラキラ☆結晶】なら、歩きキノコちゃんくらい一撃で仕留められるんだけど──。



《???》

《でも、当たってなくね?》

《当たってないというか、歩きキノコの足元にだけ結晶が出てないっていうか》



 歩きキノコちゃんの周囲数メートルにわたって尖った結晶だらけになってるけど、当のキノコちゃんには傷ひとつついていない。


 ……だめっ。


 まお、どうしてもモンスちゃんに手を出せないっ!


 がくっとうなだれたまおに、トモ様が声をかけてくる。



「ま、まおたん? 大丈夫か?」

「キノリン」

「……え?」

「あの子の名前、キノリンにしました……」



 まだ【以心☆伝心】は発動してないけど。


 トモ様は困惑した顔で、結晶に挟まれて動けなくなってるキノリンとまおを交互に見る。



「ええっと……そ、そうか。いい名前だと思うぞ」

「ですよね!? えへへ、ありがとうございますっ♪」



 まおのネーミングセンスが理解できるなんて、さすがトモ様だねっ!


 一瞬で元気が出ちゃった!



《草草草》

《切り替えはや》

《これにはまおたんもニッコリ》

《wwww》

《一匹目から失敗か》

《幸先悪すぎて草》

《魔王様? モンスター100匹倒すじゃなくて、友達100匹作るまで帰れませんのほうがいいんじゃないですかね?》



 あ、それいいアイデアかも。


 それなら心が痛くなることないし。


 簡単にクリアできそうだし!



「……だけど、だめ! 心を強く持って、まお!」



 ぴしゃりと自分の頬を叩く。


 楽な方になびいちゃだめだよ。


 辛いからこそ、達成したときに得るものが大きくなるんだよ。


 こういうときこそ、初志貫徹!


 トモ様に助言してもらった100チャレ、絶対クリアしてやるんだからっ!



 ──えと、とりあえずキノリンを愛でてからね♪

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