第14話
トモ様から突然のコラボの話をいただいてから15分ほど。
まおがいた西麻布ダンジョン14号に、マジのマジでトモ様がやってきた。
栗色のショートヘアにキリッとした目元。
瞳は宝石みたいに輝いていて、吸い込まれちゃいそうな魅力がある。
服装はファーがついたチュニックに革の手袋、そして足のラインがしっかりわかるズボン。色はダンジョンの保護色とも言える茶や黒。
オーソドックスなスカベンジャースタイルだけど、トモ様が着ていると正装にみえちゃうから凄い。
しかし、と改めてトモ様を前にして思う。
げ、現実味がねぇ……。
トモ様はまおの憧れの存在でもある。
配信は毎回かかさず見てるし、青山ダンジョン10号の伝説切り抜き動画は擦り切れるくらいヘビロテしてる。
他にも六本木9号で遭遇しちゃった「モンスターハウス」のモンスちゃん50匹を5分で血祭りに上げた切り抜きとか、うっかり食べちゃった「盲目りんご」で目が見えなくなった状態で最下層をクリアした切り抜きとか……!
そんな名前がピッタリのトモ様なんだけど──。
「はぁはぁ……キ、キ、キミが本物のまおたん……なのかっ!?」
開口一番、トモ様の口から放たれたのは、そのクール&ビューティな見た目にはちょっと似つかわしくない言葉。
……え? まおたん?
「え、ええっと……はい。まおです。は、は、はじめまして」
「す、凄い……ちっさくて可愛い……ナ、ナデナデしてもいいだろうか?」
「ファッ!?」
め、目が怖いですよ!?
妙に息も荒いし!
普段のトモ様からは想像できないくらい、何ていうか……変質者っぽいんですけどっ!?
だけどナデナデしてもらった。
だってトモ様からお願いされちゃったらさぁ?
子供扱いされてるみたいで本当は嫌なんだけど、トモ様だから特別だよ?
えへへ。しばらく髪の毛洗えないなぁ……。
リアルトモ様って、配信のときとちょっと違っていかにも「同年代」って感じがする。
トモ様もまおと同じ女子高生だから紛れもない同年代なんだけど、ほら、トモ様ってもっとこう、「私についてこい、迷える子羊たちよ」とか「キミを助けたのは事実だが、なれなれしくしないでもらおう」とか言っちゃいそうな雰囲気じゃない?
王子様キャラっていうのかな?
その証拠に、トモ様は白北女子学園っていう女子校に通っているらしいんだけど、バレンタインデーに大量のチョコをもらうんだって。
う〜ん、イケメンだわ。
「……改めてお礼を言わせてもらうぞ、まおたん」
トモ様はまおの頭を堪能した(ちょっとくんくんされた)あと、凛々しい表情で続ける。
「先日、オルトロスから救ってくれてありがとう。あのときキミがいなければ、私は間違いなくリセットされていただろう」
多分、わんさぶろうと出会った渋谷ダンジョン8号のことかな?
ダンジョンで命を落としたスカベンジャーはステータスがオールリセットされる。
有名なダンジョン配信者が凡ミスでモンスちゃんにやられて引退した──なんて話はたくさんあるし、トモ様もリセットしたらストリーマーを引退してたかもしれない。
それを考えると、まおってばグッジョブ!! なんだけど──。
「そ、そんな! まおはただ、わんさぶろうを愛でてただけですし……」
あれで助けられたって言われても、逆に申し訳ないっていうか。
「いやいや、動機はどうであれ、助けられたことに変わりはない」
「そ、そう、なんですかね……??」
何ていうか、トモ様ってしっかりした人なんだな。
人気があるのもうなずける。
「……あ、そうだ。怖い思いをしたでしょうから、今からわんさぶろうを呼んで謝ってもらいましょうか?」
「いや、それはいい」
真顔で拒否られちゃった。
残念。
「しかし、いきなりのコラボを受けてくれてありがとう、まおたん」
「いえ、こちらこそ光栄っていうか!」
「コラボ内容は、とりあえずダンジョン探索を一緒にやるという形で良いだろうか? 西麻布14号は高難易度ダンジョンなのだが、ふたりだったらなんとかなると思うし」
「もちろんオッケーですとも!」
トモ様と一緒なら30号ダンジョンでもいけそうだもんね。
ちなみに、まおの配信は一旦終了している。
改めてコラボ枠として別枠で配信する予定。
「でも、まおなんかとコラボして本当に大丈夫なんですか? その、事務所の人とか……」
「もちろん大丈夫だとも。マネージャーに確認したところ、二つ返事で承諾してもらえたよ」
「そ、そうなんですね」
トモ様いわく、本当なら社長さんの承諾を得る必要があるらしいんだけど、スピード命で特別に許可を出してもらったんだとか。
フッ軽だなぁ。
「というわけで、まおたん、今日は楽しもう!」
「はい!」
トモ様と一緒に気合を入れる。
よしっ! コラボ配信、スタートだっ!
***
「おはよう、ファミリーの諸君! トモだ! 今日も元気にダンジョン探索を始めようではないか!」
トモ様が黒いドローンちゃんに向かってキメポーズ。
はわぁぁああああ……いつも配信で見てるやつだ!
生で拝めるなんて幸せ……。
眼福眼福。
「ところで、今日は素敵な特別ゲストを呼んでいる。紹介しよう。現代に転生してきた魔王こと、まおたんだ!」
「……はっ!?」
そ、そうだった。
コラボしているんだった! 今、完全にリスナーになっちゃってたよ!
こほんと咳払いをして、恐る恐るトモ様の隣に。
「こ、こ、こ、こんまお~! トモファミのみなさんはじめまして~! まおです!」
考えに考えた挨拶「こんまお」を披露する。
なかなかに良い挨拶だと思わない?
え? 安直? BANするよ?
ちなみに「トモファミ」というのはトモ様のファンネームのこと。
そういえば、まおのリスナーさんたちにそういう愛称が無いから考えないといけないな。あとであずき姉に相談してみよう。
《おおおお! トモ様だ!》
《マジコラボきたああああ!》
トモ様の配信だけじゃなく、別枠ではじめたまおの配信も大盛り上がり。
お互いのリスナーさんたちがお互いの配信にお邪魔してるみたい。
キミたち、お行儀よくね?
心配なのでトモ様配信をちらっと……。
《どっちも可愛い!》
《最高すぎてマリアージュ!》
《魔王様ってホント小さくて可愛いのな・・・》
《魔王様って誰?》
《魔王様の活躍が1分で分る動画→URL》
《↑表参道15号のダンジョンボス、ティアマットを華麗に上手投げするやつ》
《・・・( ゚д゚)!?》
《ティアマットを上手投げwwww》
《ファッ!?》
おい、やめろ。
まおの恥部をトモファミの皆さんに晒そうとすな。
さすがにトモ様に注意を受けちゃうでしょ──。
「うむ、さすがだな」
──と思ったけど、トモ様は満足げに頷いてる。
「まおたんのことを知るにはその切り抜きが適切だと私も思うぞ。ありがとう、魔王軍の皆さん!」
「……ぅえ? 魔王軍?」
って何?
「ん? まおたんのファンネームのことだろう? ツリッターにそう書いてあったが……?」
ツリッター?
はて?
そんなの書いた覚えないけどな。
不思議に思いながらスマホでまおのツリッターを見たら、「これからリスナーさんたちのことを魔王軍の皆さんと呼びますね☆ きゅるん」というツリートを5分前にしてた。
おい待て。
これ、絶対あずき姉の仕業だろ。
最後の「きゅるん」ってなんだよ。
「しかし、あの切り抜きは何度見てもすばらしいな! 短いながらも、まおたんの魅力がぎっしり詰まっている! 特にスキルでモンスターを呼び出すときのまおたんのポーズときたら……ふふ……ふふふ……」
「ト、トモ様?」
顔! 顔がだらしなくなってますよ!
《トモ様、顔www》
《てか、呼び名がまおたんになってるしw》
《自分では隠してるつもりだけど、この人マジで可愛い物に目がないからなぁ・・・》
《トモ様も可愛い》
《魔王様狙われてるよ! 逃げて!》
やだよ!
せっかくのコラボなのに!
「え、ええっと……ま、まおの切り抜き見てもらえて嬉しいです。えへへ」
「いや、すまないまおたん。大きい口を叩いてしまったが、まだ100回ほどしか見ていないのだ……」
《見すぎで草》
《どんだけヘビロテで見てるんだwwww》
《そうか、トモ様も魔王様の魅力に染まってしまったか・・・》
《これ、トモ様も推しモンになったんじゃね?》
《【この指と~まれ♪】で召喚されちゃう!?》
《まぁ、毎回魔王様のコメ欄に出没してたし、わかってたけどね?》
それにしても見すぎでしょ!
アップされたの、数日前ですよ!?
「というわけで、今回はダンジョン配信界で一番ホットで可愛いまおたんと一緒にダンジョン散歩をしようと思う! まおたん、今日はよろしく頼む!」
「はい~、こちらこそよろしくお願いします~! まったり行きましょう~!」
そうしてまおたちは、西麻布ダンジョン14号の上層エリア1へと足を踏み入れた。
***
西麻布ダンジョン14号はちょっとだけ特殊なダンジョンだ。
通称「逆型」と呼ばれていて、階層が下じゃなく上に伸びている。
なので各層の最終エリアにあるのは下に降りる階段じゃなく、上に登る階段。
ダンジョンの入り口は普通なのに、階層が上に伸びてたらおかしいんじゃないかって思うんだけど、そういうものらしい。
まぁ、雑居ビルの一室が入り口になってたり、公園のトイレが入り口になってたりするから、もうなんでもありって感じなんだけどね。
そんな西麻布ダンジョン14号の上層エリア1に入ったまおたちは、のんびり足を進めていた。
「あ、あのトモ様? いきなりこんなお願いをするのは不躾ですけど、手伝ってほしいことがあるんです」
「……ん? なんだろう?」
今回は「ふたりで雑談でもしながらダンジョンを散歩しよう」っていう企画だからモンスちゃんたちを愛でたりはしないんだけど、どうしてもトモ様に協力してほしいことがあったんだよね。
「私にできることならなんでもやるぞ? もう一度ナデナデしてほしいのか? 仕方ないな」
「ちがいます」
勝手に話を進めないでほしい。
ナデナデはしてもらった。
「実は魔王軍の皆さんから、すんごい勢いで勘違いされているみたいで」
「勘違い?」
「そうなんです。だからまお、トモ様の発信力を借りて証明したいんです!」
「証明……なるほど! そういうことか!」
トモ様は、合点がいったと言いたげにポンと手を叩く。
「転生してきた魔王だということをきっちり証明したいわけだな!」
「ちがいます」
速攻で突っ込んだ。
むしろすでに転生してきた魔王だって信じきっちゃってるよ!
というか……普段の配信じゃあんましわかんなかったけど、トモ様って天然キャラだった?
や、それはそれでギャップ萌えですけど。
「逆ですよ逆! まお、元々は可愛いキャラで売り出してるんです! だから、魔王っていう怖いイメージを払拭したくて!」
「……? 今のままでも十分可愛いイメージで広まっていると思うが?」
「ふぇ?」
そうなの?
《何を言ってんだ定期》
《ほんそれ》
《魔王様は可愛い》
《まおたん、すでに十分可愛いって伝わってるよ!》
《魔王様から可愛いを取ったら何も残らないからな》
《幼女が可愛くないわけがない》
《すでにファンになりました》
「え? え? 本当に? ……えへへ」
中にはやんわりディスられているようなコメントもあるけど、魔王軍の皆さんとトモファミの皆さんに同時に褒められるなんて。
へへ、照れちゃうぜ。
《wwww》
《嬉しそうで草》
《魔王様、顔を確かに》
《ニヤケ顔助かる》
《モザイクいる? センシティブ認定されない?》
されないから。
「しかし、まおたんが真剣に悩んでいるのなら無下にはできんな。なんとか協力してやりたいところだが……」
ううむと首を捻るトモ様。
そして幾ばくかの思案の後。
「……そうだ! まおたんの可愛さをアピールするために『ダンジョン配信の鬼門』にチャレンジしてみてはどうだろう!?」
「え? 鬼門?」
「そうだとも! 私もひと月前にチャレンジした、『モンスター100匹倒すまで帰れません』だ!」
「……あっ!」
それ、聞いたことがある!
たしかダンジョン内でモンスターを100匹倒すまで地上にもどれないって企画だよね?
100人組み手ならぬ、100匹組み手。
並大抵のスカベンジャーならリセットは免れない、超危険なダンジョン配信者の鬼門とも呼ばれる企画。
それをクリアできてようやく配信者として一人前になるとかなんとか……。
《???》
《えーと、どゆこと?》
《魔王のイメージ払拭するために、なぜ100チャレを?》
《可愛いと100チャレに繋がりあるか?》
《ないwww》
《トモ様、それってむしろ悪名が広がるのでは・・・》
《しっ! しずかに!》
《これは面白そうな展開になってきた》
《wwwwトモ様さすがですwww》
《撮れ高良すぎで草》
《トモ様天才だわ》
《天然お姉様+天然幼女=最強》
「ふふふ、そうだろう?」
ドヤ顔のトモ様。
よくわからないけど、魔王軍の皆さんも賛成してるみたい。
まおもすごく良いアイデアだと思う。
だって、モンスターを100匹倒すことができれば、モンスターを統べる魔王という悪名は減るかもしれなじゃない?
切り抜きで取り上げてもらえたら「ああ、まおたんって無慈悲にモンスター狩る可愛いスカベンジャーだったんだ」って思ってもらえるだろうし。
ただ、問題は可愛いモンスちゃんを倒すなんて、すんごい気が引けるってことなんだけど……。
だって、モンスちゃんを殴るってことだよね?
そんなこと、まおにはできないっ……!
だけど、そうなると魔王の汚名は広がる一方で……。
ううう、ごめんね西麻布14号のモンスちゃんたち!
絶対痛くしないし、このお詫びはするから許してっ!
「わ、わかりましたトモ様! まおの将来のため、ここは心の鬼にして……モンスちゃん100匹倒すまで帰れませんにチャレンジしますっ!」
《おおお!》
《頑張れまおたん!》
《応援してます魔王様!》
《ちょっと待って? 高難易度の西麻布14号で100チャレするの?》
《さすがに自殺行為では・・・》
《まおたん・・・いや、魔王様なら余裕!》
《むしろRTAに期待》
《切り抜き班〜! 準備して〜!》
魔王軍の皆さんも大盛り上がり。
当初のまったり配信から大きな企画変更だけど、大丈夫みたい。
あとはまおが頑張るだけ!
……ううぅ、頑張れるかなぁ……?
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