第13話

 学校が終わって、まおは電車を乗り継いで西麻布へと向かった。


 今日は西麻布6号ダンジョンでまったり配信しようかな──なんてと思ってたんだけど、ネットニュースによると封鎖されちゃってるみたい。


 なんでも崩落事故が起きて中層以下に降りれなくなっちゃったとか。


 こういう事故、たまに起きるんだよね。


 だけど、ひと月もすれば元に戻って封鎖が解除される。


 と言っても、有志のスカベンジャーさんたちが修復工事をしているわけじゃなく、ダンジョンが勝手に治しちゃうのだ。


 有識者は「ダンジョンの自浄作用」って言ってたっけ。


 ダンジョンの中にいるモンスターも時間が経てば復活するし、宝箱の中身も入れかわったりするから、もしかしてダンジョンって生きてるのかもしれない。


 まぁ、難しいことはまおにはわからないけどね☆


 というわけで、6号のすぐ近くにある14号にやってきた。


 待機所でささっと準備(あずき姉に借りたニュードローンちゃん!)を終わらせてダンジョン内に。


 ここも表参道15号と同じく、古いお城みたいな内装だから雰囲気があって散歩配信にはいいんだよね〜。



「……みなさんこんばんちわ~! みんなのアイドル、プリティまおだよ! 今日もまおのダンジョンさんぽ、はじめちゃいますっ!」



 ドローンちゃんに向かってにっこり笑顔。


 すぐにコメント欄に大量の反応が。



《まってましたああああ!》

《きたあああ!》

《魔王様こんにちは!》

《魔王様、今日もかわいいですね!》

《こんにち魔王!》

《こんにち魔王〜〜》


「みんな! 魔王じゃなくて、ま・お・た・んね?」



 そこ重要だから。


 今後のストリーマー生活のためにも。



《わかりました魔王様》

《御意でございます、魔王様》

《お望みのままに・・・魔王様》

《誰もまおたんって呼んでなくて草》



 こ、こいつら……っ!


 絶対に楽しんでるでしょ!?


 画面の向こうでニヤニヤしてる顔が手に取るようにわかるもん!



 閑話休題。



 今日はのんびり雑談配信の予定。


 あずき姉の神アドバイスによると、前回でまおの魅力はリスナーさんたちに十分伝わったと思うので、今回はまったり雑談配信がいいとか。


 何の魅力だよって突っ込みたい気持ちはあるけど、とにかく今日は雑談しながらダンジョンを散歩しようかなって思ってるんだよね。


 最下層に行ったりは無し!


 だから今回は同接も少ないと思うけど──。



「……おぉふ、いきなり同接3万だと……?」



 早速、変な声がでちゃった。


 前回のスタートのときより増えてない!?


 今日は特に何もやらずに雑談やろうと思ってるんだけど、大丈夫かな!?


 やっぱり西麻布14号ダンジョン最下層RTAとかやったほうがいい!?


 ……ええい、ままよ! 


 このまま突っ走っちゃうよ!



「きょ、今日はツリッターで募集してた質問に答えようと思います!」


《おお》

《そういやツリッターで募集してたな》

《たくさん送りました!》

《楽しみ!》



 コメント欄の反応も上々。


 ま、質問を募集したのはまおじゃなくてあずき姉なんだけどね。


 あずき姉がまおのツリッターアカウントに(勝手に)ログインして「マカロン」っていうサービスで質問を募集したみたい。


 よく知らないんだけど、マカロンっていうのは匿名でメッセージを受け付けるサービスなんだって。


 美味しそうな名前だよね。



「ええっと、まず最初の質問です。『どうして魔王様はそんなに強いんですか』……う~ん、可愛いモンスちゃん探しに最下層に行ってるからかなぁ? 皆さんもソロで最下層に行けば、これくらい余裕ですよ!」


《ソロで最下層w》

《前提から無理》

《鶏が先か卵が先か》

《そりゃソロで最下層行けたら余裕だろうなw》

《魔王様、良い受け答えしたな~みたいにドヤってて草》

《可愛い》



 よしよし。


 いい感じで答えられたな。



「はい、次の質問! 『どうして魔王様は都会のダンジョンばかり潜ってるの?』……ええと、お、大人っぽく見せるため?」



 表参道とか西麻布とか、大人の街って感じじゃない?


 そういう街に似合う大人の女性になるのが夢なんだよね~。



《正直》

《素直な魔王様可愛い》

《大丈夫ですよ魔王様! どんな街に行っても魔王様は可愛い幼女です!》



 幼女って言うな!



「次! 『事務所に入っていないんですか?』……入ってないです! 天草高校のダンジョン部には入ってますけど……あれ? もしかして事務所って、部活動的な意味じゃないよね?」


《違います》

《天草高校か。確か東京都内にあったよな》

《しれっと身バレ》

《すでにネットに出てる情報だけどな》

《トモ:無所属なら私の事務所に来ない?》

《あのネットの情報マジだったのか》

《!?!?》

《ファッ!?》


「……ファッ!?」


《スカウトきたああああ!》 

《トモ様!?》

《毎回魔王様の配信見てて草なんだが》



 まさかのトモ様再び降臨である。


 さらに、恐れ多くも誘われちゃってるし。



「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください! トト、ト、トモ様のところって、あの有名なBASTERDですよね!?」



 BASTERD──。


 トモ様をはじめ、数多くの実力派スカベンジャー&ストリーマーが所属している最大手事務所だ。


 まおも知っている有名配信者がたくさんいる。


 黒尽くめのロリータファッションでダンジョンに潜ってる「漆黒淑女ダークネスレディ」のアリサさんとか、古の戦乙女を彷彿とさせる可憐かつ豪放磊落ごうほうらいらくな東雲さんとか。


 とにかく、凄いスカベンジャーさんたちがたくさん在籍してる事務所!



《トモ:社長には話を通している。今度会ってくれないだろうか》

《うおおおお!》

《マジなやつだwww》

《魔王様、これはチャンスですよ!》


「だだだ、ダメですよ! そんな、ねぇ皆さん!?」


《そうだよ!》

《俺たちの魔王様は他人に媚びへつらわないのだ!》

《そうだ! それでこそ魔王様!》

《魔王様は使役する側でしょう!?》

《BASTERDを配下に収めるべき!》

《そうだそうだ》

《あずき:魔王様最強!》

《我らの魔王様!》

《魔王様バンザイ!》

《さすまお!》


「……」



 ちょっと待ってよキミたち。


 BASTERDを配下に収めるべきとか、わけわかんないんですけど。



「と、とにかく、トモ様ありがとうございます! で、でも、そのお話はまた今度ということで……ええっと、次のマカロンいきますね! 『配信機材について教えてください』……はい、ろどーんっていう機械を使ってます!」


《ろどーん?》

《ドローンじゃなく?》



 速攻でツッコミが来ちゃった。


 恥ずかしい。



「……ま、間違えました。ドローンです」


《wwwww》

《草生える》

《魔王様、おちんついて》

《ドローン使ってるって、そりゃそうだろww》

《魔王様、使ってるドローンの機種を知りたいんだと思われます》



 えっ、機種!?


 ドローンの機種ってこと?


 し、しらないよそんなの!



「ええっと、ごめんなさい。ちょっとわからないです……なにせ、機材関係は全部あずき姉にお任せしてまして……」


《あずき姉キター》

《お姉様さすがです》

《魔王様、機械に弱そうだもんな》

《頼れるお姉様》

《配信見てると全くブレてないし、魔王様の激しい動きにピッタリ追従してるし、相当高性能のジャイロ機能ついてるやつだろうな》

《高そうだけど、俺も機種知りたい》

《あずき:まおが使ってる機材についてはツリッターにURL貼ってます。ちなみに、そこから購入したらまおの懐にお金が入るのでよろしくお願いします。収益化申請はまだ通ってないので、おひねりだと思ってください》

《さすが姐さんw》

《これはやり手だわ》

《早速買います》

《てか、収益化はよ》



 ざわつくコメント欄。


 さすがあずき姉。


 そんなものを用意していたなんて知らなかった。


 何言ってんのかよくわからないけど。



「あずき姉ってホント凄いんですよ。機械に強いし、教えた覚えのないまおのSNSのアカウント情報全部知ってるし、正に参謀って感じ!」


《え?》

《参謀?》

《それ参謀なのか?》

《あずき姉すげぇ・・・》

《もしかして有名なハッカーなんじゃね?》

《リスの着ぐるみ着てる?》

《あずき:まお、お姉ちゃんの悪名を広げるのはやめてもろて》



 あ、まずい。


 あとで怒られちゃう。



「と、とにかく、あずき姉は友達がいないまおが唯一頼れる存在なんだよ!」


《友達がいない》

《(´;ω;`)ブワッ》

《おれも友達いないよ》

《モンスターの友達はたくさんいるのにどうしてこうなった》

《めちゃくちゃ親近感湧いた》



 あれ? あずき姉の凄さをアピールしたつもりなんだけど、なんだか同情されてる。どしてだろ。



「き、気を取り直して続きの質問です! 『まおたんの衣装可愛い! どこで買ってるんですか!?』……ありがとう! いいね! こういう質問待ってました! みんな、こういうのもっとちょうだい!」



 ふっふっふ。


 他のスカベンジャーさんとは違って、パステルカラーの可愛いドレスだから気になっちゃうよね?


 大抵のスカベンジャーさんはモンスターに見つからないように地味な服とか、頑丈な鎧を着てるんだけど、モンスちゃんと仲良くしたいまおにはそういうの必要ないから可愛さに全振りしてるんだよね。



《確かに魔王様の衣装って他で見ないよな》

《スカベンジャーっぽくない》

《白、紫、ピンクだから目立ちまくってるしな》

《どこで手に入れたんですか? ダンジョンの宝箱?》


「自分で作ったよ!」


《は?》

《へ?》

《自分で作った? 何を?》

《キャラ設定?》


 衣装だよ!



「生産スキル……っていうんですかね? ダンジョンの中でしか着られないけど、イメージを具現化できる『あたし好みにな~れ』っていうスキルがあるんです。それを使って生産しました」



 ちなみにイメージは魔法少女なんだよね。


 日曜の午前中にやってる「魔法少女スカーレット☆マニキュア」ってアニメが大好きで、それに出てくるマニキュアピンクを参考にさせていただきました。


 まおのスキル【あたし好みにな~れ】って、生産時に素材が必要になるけどホントいろんなものが作れるから楽しいんだよね。


 いつかクリエイティブ配信もできたらいいな。



《( ゚д゚)ポカーン》

《俺の知ってる生産ではそんな服は作れないんだがww》

《消費系アイテムを作るスキルがあるってのは知ってるけど》

《てか、安定のスキル名だなw》

《イメージを具現化できる生産スキルとか聞いたことねぇ・・・》

《おいおい、生産系のスキルまで持ってんのかよw どんだけスキル持ってんだww》

《さすまお》

《イメージを具現化できるスキル・・・生産系のスカベンジャーチーム垂涎のスキルだな》

《ダンカリで大儲けできそう》



 ちなみに「ダンカリ」というのは、ダンジョン探索用のフリマサイトのことで、ダンジョン内で入手したアイテムとか生産したアイテムを売買できる。


 普通のフリマと違って郵送なんてできないから、ダンジョン内で直接手渡ししなきゃいけないけど、それでもかなりの数のスカベンジャーさんたちが利用している。


 まおは使ったことないけど。


 リアルマネーを使うから、利用できるのは成人した大人だけなんだよね。



「はい、次です! 『魔王様の好きな言葉を教えてください』不労所得!」



 これしかないでしょ。


 ダンジョン配信をはじめた理由のひとつが楽してお小遣い稼ぐためだもん。



《1ミリも悩んでねぇwww》

《wwwww》

《女子高生の口から出る言葉じゃねぇんだ》

《あずき:良いよね、不労所得・・・》

《わかった。全部あずき姐のせいだ》

《あずき姐、好きそうだもんな不労所得》

《不労所得は全人類の憧れぞ?》

《わかる》

《わかる》

《トモ:わかる》

《ちょw トモ様も!?w》



 トモ様も同じ穴のムジナだったか。


 良いよね。不労所得。


 ちなみにあずき姉の将来の夢は、タイムマシンを作ってFXで大儲けすることらしい。


 FXって確か映画とか創作物のジャンルだよね?


 ほら、宇宙で戦争するみたいなやつ。


 あれでどうやって儲けるんだろ。



「ええっと、続けます! 『魔王様の将来の夢は? やっぱり世界征服ですか?』……うん、そうだねってコラッ! まおは魔王じゃないからっ!」


《ノリツッコミw》

《可愛い》

《そのノリツッコミもユニークスキルですか?》



 ちがわい!



「まおの夢は日本中の可愛いモンスちゃんたちと友達になること!」


《なるほど、日本制覇ですね》

《魔王様っぽい》

《ある意味、世界征服なのでは?》

《さすまお》

《お供させていただきます》



 ねぇ、不穏なコメントやめて?



「短期的な目標は、こうやってまったりダンジョン散歩したり雑談したり……あ、他のストリーマーさんとコラボとかできたらいいなぁ」



 小鳥遊くんとのコラボは嫌だけど。


 だって全然楽しそうじゃないもん。


 もっとこう、一緒にダンジョン探索してワクワクする相手っていうか、可愛い女の子がいいっていうか──。



《トモ:では今から私とコラボしよう》


「そうそう、トモ様とコラボとか…………ぅえ?」



 変な声が出た。



《は?》

《うそ?》

《( ゚д゚)》

《魔王様とトモ様がコラボ!?》

《トモ:今、六本木だからすぐそっちに向かう》

《うおおおおお!》

《きたあああああああっ!》

《まじかよwwwwww》

《まつりじゃあああ!》

《これはすごいことになってきたぞ!?》


「……」



 全然頭がついていってない。


 コメント欄をスワイプさせてトモ様の発言を見直す。


 え? 来るって、このダンジョンに?


 トモ様とコラボするの?



「……今から?」



 まお、よそ行きの格好してませんけど?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る