第5話
自宅マンションから徒歩5分。
まおが通っている、私立天草高校。
なんの変哲もない私立高校で、偏差値も並。
文武両道なんてありきたり──じゃない、すばらしい校訓を掲げてるけれど、目立った実績を残してる部活動や生徒はいない。
そんな高校に進学したのは、自宅からめちゃくちゃ近かったから。
だってめんどいじゃん?
まお、長時間歩くの苦手だし。
ちっこいから歩幅、短いし。
そんな天草高校のはじっこにある第2部室棟(という名のただのボロ校舎)の1階にある「ダンジョン部」──。
ダンジョン部はその名の通り、ダンジョン探索や配信に取り組む中でチームワークやコミュニケーション能力、IT技術を磨くという清く正しく美しい部活動。
まぁ、部員が足りなくて廃部の危機に陥っているけど。
部に入らなくても、ダンジョン配信やりたい人は勝手にやっちゃってるから仕方ないよね……。
──なんて、そんなことはどうでもよくて。
「……お、来たな、現代に転生してきた魔王様」
部室のど真ん中にデデンと鎮座しているこたつに足をつっこんでるあずき姉が、ニヤリと頬をつりあげた。
どうしてマイシスターがこんなところにいるのかというと、彼女は天草高校の教師にしてダンジョン部顧問なのだ。
黒髪ストレートにぱっちりとした目。
造形はしっかりしていて、妹のまおが言うのもなんだけど、すごく美人さんだと思う。
その証拠に、学校の男子に聞いた「放課後デートしたい女性」のナンバーワンに2年間君臨している。
アイドルやタレントを差し置いてるところがガチだよね。
だけど、その素晴らしい素材を台無しにさせてるのが、その性格だ。
三度の飯より酒が好き。
さらに、幸運ゼロのギャンブル凶。
30歳までに結婚できなかったらまおのヒモになると豪語してる超ウルトラ駄目人間。もちろん彼氏はいない。
ちなみに、いまあずき姉が入っているこたつは彼女が無断で持ち込んだもので、いつもここでグータラしている。
とはいえ、最新のガジェットとかITに強く、お金を持ってるのでダンジョン配信の機材関連で頼りにしているんだけどね。
はい。すんごくお世話になってます。
そんなあずき姉にすがりつく──ようにみせかけて、温かいおこたの中に潜りこむ。
「ねぇ、どうしようあずき姉? ネットでまおが魔王になってた……」
「あはは、良い顔するねぇ」
ヨシヨシと頭を撫でられた。
おいやめろ。
まおは子供じゃないんだぞ。
登校中にスマホで調べたんだけど、まおのことが「現代に転生してきた魔王」と勘違いされまくってた。
あの記事に掲載されてた切り抜き動画はすでに8000万再生くらいされてて、SNSでも「魔王」がトレンド1位になってたし。
すでにまおのダンTVチャンネルも特定されているっぽくて、それで大量に登録者がきちゃったみたい。
すごく嬉しい反面、現実味がないってのが正直なところ。
「てか、なんでまおが魔王なんかに勘違いされてるのかな?」
「ん~、名前が似てるから?」
え!? そこ!?
「──てのは冗談として、あんたのユニークスキルのせいじゃない? ええっと【従属化】だっけ?」
「【以心☆伝心】だよ」
そこ、間違えないで。
まおの超絶センスでリネームしたんだから。
「まぁ、なんでもいいや。とにかくそのユニークスキルでS級のヤバいモンスター手懐けたから魔王と間違えられたんでしょ」
「S級……?」
はて?
そんな怖いモンスターと遭遇した記憶はないけど?
「これ」
「ん? 切り抜き動画?」
さっき見た記事にあった切り抜き動画。
──だと思ったけど、どうやら切り抜きの元になった誰かの配信アーカイブぽい。
多分、昨日まおが「わんさぶろう」と仲良くなったところに居合わせたスカベンジャーさんの配信だ。
配信がはじまり、ドローンカメラがスカベンジャーさんの前に降りてくる。
ぎょっとしてしまった。
その配信者さん、よく知った人だった。
「あわわわわわわ……も、もしかしてこの人って」
「そ。泣く子も黙る天下のスカベンジャー事務所『BASTERD』所属の超新星、神原トモ様。まおも知ってるでしょ?」
「知ってるもなにも! 超大好きだし! ファンだし! まおの憧れだし!!」
スカベンジャーをやってる人なら、知らない人はいない超人気配信者!
トモ様の配信、毎回観てるもん!
「……ていうか、ちょっと待って? もしかしてまおが推しモンちゃんたち愛でているところ、トモ様に見られてた!?」
「見られてたっていうか、S級モンスターに襲われてたトモ様をまおがうっかり助けたっていうか」
「はあああああ!?」
なにそれ!?
え!? ウソ!?
S級モンスってわんさぶろうのこと!?
や、たしかに可愛さはS級だったけど、噛まれても全然痛くなかったよ!?
というか、あの場所にトモ様いたの!?
失敗したぁああああ! サインもらっとけばよかったぁあああああ!
『よし! 最下層に行くよ! みんなまおについてきて!』
スマホで再生されているトモ様のアーカイブ動画の音声が部室に広がる。
颯爽と現れたまおは、わんさぶろうと推しモンちゃんたちを引き連れてダンジョンの闇へと消えていく。
『なっ、なっ、何だったのだ、今のは……っ!?』
トモ様の驚いたような声。
コメント欄に《さっきの幼女、確かに「魔王」って名乗ってたね》とか《格好もなんかドギツイ感じで魔王ぽかったよな》とか流れている。
ん〜……正直なところ、まおも同じ意見かな?
まおの名前を魔王と聞き間違えられたってのもあるけど、モンスターいっぱい引き連れてるし、傍から見たら完全に魔王だよね♪
──って、ノリツッコミしてる場合じゃなくて!
「こっ、困るよ、あずき姉! まお、可愛い清楚系で売り出してるのに!」
「あはは、この動画、何度見てもウケるわ」
「ウケないで!」
「まぁ、いいじゃん。売れればこっちのもんだし」
「ええっ!? や、やだよ魔王なんて!」
幼いイメージを払拭したくて髪の毛を銀色にしたり、ちょっと大人っぽい服装でダンジョンに潜ってたけど、魔王なんて有栖川家の汚点になっちゃうじゃない!
親戚に合わせる顔がなくなっちゃうよぉ!
「おはようございます」
ガラッと部室のドアが開き、男子生徒がやってきた。
コレと言って特筆すべき特徴がない、実に地味な見た目の男子。
「あ、おはよう
「……うげっ」
つい変な声がでちゃった。
この男子生徒の名前は小鳥遊ワタル。
数少ないダンジョン部の部員にして、部長を任されている生徒だ。
ちなみにダンジョン部の部員はまおと小鳥遊くん、それと、まおと同じくらいちっこくて可愛い「天童ちずる」こと、ちずるんがいるんだけど彼女は来てない。
朝から部室にやってくるのって、いつもあずき姉とまおくらい──なんだけど。
「いやぁ、聞いてくださいよ先生」
小鳥遊くんがため息混じりでまおたちのそばにやってくる。
「俺、昨日の配信も同接80行っちゃいましてね。一昨日より5%も増えちまったんですよ。この調子で行くと、そのうち同接100越えちゃいますね」
「うんうん、そうかそうか。相変わらずウザいね、小鳥遊くん」
にこやかにあずき姉が毒を吐く。
その意見には激しく同意だけど、教師&顧問のセリフとしてどうなのよそれ。
でも、小鳥遊くんっていつもこんな感じなんだよね。
ダンジョン部の中で一番登録者数が多かったってのは認めるけど、ちょっと上から目線っていうかさ。
まお、すごく苦手。
「ああ、そうだ。有栖川はどうだったワケ?」
「え? まお?」
「あ、ごめん。聞くまでもなく同接2か」
「……っ!?」
ほらきたウザい。
「そ、そんなことないよ。昨日、ちょっとすごいことがあって、チャンネル登録者も増えたんだから」
「へぇ? 昨日の時点で1だったから2に増えた? ま、俺の800人には遠く及ばないだろうけど、一応聞いとくよ」
ニヤケ顔でのたまう小鳥遊くん。
この野郎……目に物見せてやるから待ってろよ。
素早い動きでダンTVの管理画面を開き、チャンネル登録者数を確認。
「……え」
その数値を見て、固まってしまった。
「あ? どうした? まさか1人だった登録者がゼロになったってたとか?」
「ごめん。朝は20万だったんだけど……今見たら登録者数50万になってた」
「あはは、やっぱり…………は?」
「おほっ、50万。すんごぉ」
ぽかんとする小鳥遊くんのとなりで、ケラケラと笑うあずき姉。
ちょ、ちょちょ、ちょっと待って。
50万人とか見たことない数字すぎて、て、て、手が震えてきたんですけど。
ひょっとして見間違いかな。
指差し確認しながら、いち、じゅう、ひゃく……やっぱり50万人。確認ヨシ!
うひゃあああああ!?
本当に50万人いってるううううううう!?
てか、待って!? 登録者数50万人ってことは50万人以上の人が、まおのこと魔王って思っているってことじゃない!?
どど、どうしよう。
はやくまおは魔王じゃないって広めないと。
このままだと、まおのプリティで可憐なダンジョンストリーマー生活が、100年モノの黒歴史になっちゃうよぉ!!!
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